ベルガー
私達が神殿への侵入計画を立てていた所に、ベルガーがやって来た。
「おう、取り込み中悪いが、爺さんに渡したい物がある。会わせてくれ」
「クリフォード将軍に渡したいもの?」
何か変な物を渡すんじゃないかしら、という思いが顔に出てたのか、ベルガーは軽く私を睨んだ。
「言っとくが魔王様の許可も得てるからな」
つまり魔王軍幹部としてクリフォード将軍に正式に渡す物があると言う事か。
この間アビラス軍の兵士達の前に不意に現れて怯えさせてしまったから、今回は事前に私を通す事にしたらしい。
「わかったわ。すぐに取り次いでくるから、ちょっと待ってて」
私はクリフォード将軍達が待機している広間へ行き、ベルガーの訪問を告げた。
「ベルガーが将軍に渡したい物があると言って来たのですが、少しお時間を頂けますか?」
「ベルガー殿が? 勿論です。どうぞ通して下さい」
クリフォード将軍はそう言って快諾したが、兵士達の顔は若干引き攣っていた。広間に入って来たベルガーはそんな兵士達の様子を見て、ニヤリと笑った。
「心配しなくても、取って喰ったりしねぇから安心しろ。俺が来たのは、お前らにこれを渡す為だ」
ベルガーがそう言うと、背後に控えていた彼の配下達が前に進み出て、それぞれが手に抱えていた剣や盾、鎧などを机に並べた。それらの武器はどれもこれも新品同様に輝いており、兵士達の間から感嘆の声があがった。
「これは…何と見事な!!」
「ここにある武器は全て腕のいいドワーフ達が鍛えたものだ。役に立つだろうと思って持って来た」
ベルガーはそう言うと、クリフォード将軍に長剣を手渡した。将軍は剣を鞘から引き抜くと、その輝く刀身をしげしげと眺めた。
「ドワーフの剣は、剣士ならば誰でも一度は手にしたいと願う代物だ。…これほどの名剣は、命懸けでダンジョンの奥深くに潜った冒険者でも、余程の幸運に恵まれない限り滅多にお目にかかれないだろう。それだけでなく、兵士達全員分の鎧と盾まで用意してくれたのか」
「ああ、この間あんたの剣を折っちまったからな。まあ真剣勝負だったんだし、あんたも俺を恨んじゃいないのは分かってるが、これは詫びも兼ねた俺からのはなむけだ。鎧や盾も軽いが丈夫だ。きっと役に立つだろう。受け取ってくれるか?」
「勿論だ。ベルガー殿、貴殿の心遣いに感謝する。必ずやクーデターを成功させ、平和な世にするとこの剣に誓おう」
クリフォード将軍とベルガーが、がしっと力強い握手を交わし、それを見た両種族の兵士達から、うおーっという野太い雄叫びが上がり、ベルガーコールが始まった。
(なんなの? この暑苦しい展開は?)
ちょっと前までビビっていた兵士達が、あっさりと手の平を返した様子に私は呆気にとられた。
そんなにテンション上がるなんて、ドワーフの作る武器はよほど良いのだろう。
恐らくドワーフの長であるモリスに協力依頼したのだろうけど、これだけの量を用意するとなると結構時間がかかったはずだ。
(一体、いつの間に用意してたのかしら?)
そう言えば、ショーンさんと魔王様の謁見した時、モリスは魔王様からの用事で外出していた。
あの時既に、魔王様に許可を得て動いていたのだろうか?
(悔しいけど、流石ね)
ベルガーが幹部になったのは、強さと戦闘センスだけではないだろう。
彼が優れた観察眼と圧倒的なカリスマ性を持っている事は紛れもない事実だ。
だからこそ、自分を恐れていた兵士達の心を掴む事もできたのだろう。
敵であった兵士に新しい武器を贈ることで、魔王軍が彼等を信頼し、支援すると示したのだ。
ベルガーは姪のスフィアの件もあったから、人間を信用していなかった。
それなのに、この世界の運命を変えるきっかけを彼等に託すなんて、どれほどの葛藤があっただろう?
彼の性分からすれば、きっと自らの手でアビラス国王の首を討ちたいに違いない。
しかしそんな胸の内を表に出す事なく、幹部として成すべき態度を取っている。
言動は乱暴ではあるが、ベルガーは間違いなく上に立つ者の器があると思う。
(…これじゃあ、ガロンが影響受けるのも、仕方がないわねぇ)
男の子は誰しも強い者に憧れるものだ。
その上こんな風にさらっと格好いい事をされたら、真似したくもなるだろう。
(最初はどうなる事かと思ったけど、ベルガーのおかげで兵士達の士気も高まったみたい)
クーデターの決行とリアムの説得は明日の夜。
その結果で、この世界の運命は変わってくる。
失敗するわけにはいかない。
私は両手でばしっと頬を叩き、気合いを入れた。
(蓮、絶対にあなたを魔王にさせたりしないからね)




