攫われたミホ シヴァ視点
皆で気持ちよく飲んでいた時に、血相を変えてラーソンが広間に飛び込んできた。
「兄貴!来てくれ!ミホが攫われた!!」
「何だと!?ラーソン、どういう事だ」
「コイツらの仕業だ!」
ラーソンが突き出した手に、逆さ吊りにされた小鬼の姿があった。
「食料を荒らしてたのはコイツらだ。何匹がいた。食料庫に穴を開けてやがった。
ミホは小麦粉を取ろうとして襲われて、穴に引きずり込まれたらしい。穴が小さくて俺じゃ追えんかった、すまん」
いっぺんで酔いが醒めた。
「どこだ!?」
小鬼一匹ならたいして問題はないが、群れでいると厄介だ。あいつらは雑食で何でも食べる。中には生きたまま獲物を食べる事を好む者もいる。あいつらにとって何の武器も持たないミホは、恰好の餌だ。
広間を飛び出して走る。
「こっちだ」
ラーソンに案内された食料庫の惨状を見て、何が起こったか分かった。
小鬼はミホに噛み付き、怪我をさせて弱らせてから穴に引きずり込んだに違いない。
横穴の周りの壁についている血のシミは、ミホが引き込まれまいと抵抗した跡だろう。
暢気に酒を飲んでいる間に、ミホを命の危険にさらしてしまった。
自分の不甲斐なさに腹が立った。
「駄目だ。穴が小さすぎて、我々じゃ追えん。鍾乳洞内のどこかの空間につながってるとは思うが、まっすぐ掘り進められてるとは限らんからな。しらみつぶしに周辺を探すほか無い」
「地図を持ってこよう」
モリスの言葉にニルスが走った。
そうだ。まだ間に合う。
奴らが餌を食べるのは、邪魔されない安全な場所だ。急いで救出しなければ。
「おい!この穴はどこに繋がってる!?さっさと言え!」
ラーソンが小鬼を尋問しているが、小鬼はニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべるだけで答えない。
私達が焦っているのを見て、楽しんでいるのだ。
「そいつを寄越せ」
腕を差し出すとラーソンは少したじろいだ様子だったが、すぐに小鬼を引き渡した。
「殺すなよ。聞きたい事はまだあるんだ」
もちろん、必要な情報を聞くまで殺さないとも。
左手で小鬼の細い両足を掴んで視線を合わせる。
小鬼はまだニヤニヤと笑っていた。
よく見ればその歯は血で赤く染まっており、指の爪には黒い髪が絡まっていた。
怒りで頭の芯が冷えていく。
自分でも気づかぬうちに、小鬼の足を凍らせていた。
「この穴はどこに繋がっている?」
小鬼は答えない。
恐怖に顔を引きつらせ、パニックを起こして逃げようともがく。
その顔を見て、少し冷静さを取り戻した。
小鬼の体に、思念のようなものが纏わり付いてる。
「お前らだけの仕業じゃないな?誰の差し金だ?」
パキパキと音を立てて霜が小鬼の体を浸食して行くが、小鬼は答えようとしない。
それとも答えられないのか。
「・・・答えたくなければ、直接視るまでだ」
小鬼の頭に右手をかざし、脳から直接イメージを引き出す。
松明の光。地下水路。天井の低い空間。赤い髪の男・・・
小鬼の記憶が鮮明に視えた。
小鬼は体を痙攣させ、白目を剥いて口から泡を吹き出して気絶した。
本人の意思に反して脳から無理矢理情報を引き出したのだから、体へのダメージが大きかったのだろう。
せめてもの情けで、小鬼を完全に氷漬けにして仮死状態にしておいた。
「場所が分かった。地下水路を利用して移動したようだ。
・・・どうやら中途半端に力を持った混血児が糸を引いているらしいな」
小鬼が食料を荒らしていたのは、赤い髪の男、おそらく魔物と人間の混血児の指示だ。
どうやら混血児は思念を使って小鬼を操り、周辺のドワーフの食料を盗んで回っているらしい。
ミホは始めから狙われていた訳ではなく、奴らが小麦粉を盗みに来たところに運悪く鉢合わせしたのだ。
混血児がミホを置いていってくれればいいが、小鬼は自分の獲物にひどく執着する性質がある。
このまま逃げられて巣に持ち帰られたら、生きたまま食べられてしまうかもしれない。
(そんな事はさせない)
「急ごう。ミホが待ってる」
私は自分が視た情報をモリスに伝え、奴らの逃げ道を塞ぐべく走った。




