潜入作戦
クリフォード将軍の指揮の元、クーデター計画は速やかに行われ、決行は翌日の日没後となった。それを聞いたショーンはしばらく顎に手をやって考え込んだ後、一つの提案をして来た。
「それなら自分達も同じ日の日没後に行動を起こしましょう。リアム神官と対峙するなら、やはり人目のない時間帯がいい。巡礼者に扮して日没前に神殿に着くようにしましょう」
ショーンの提案に私は疑問をぶつけた。
「そんなに遅い時間でも、神殿は巡礼者を受け入れてくれるの?」
「ええ。神殿の敷地内には巡礼者用の宿泊施設もあるんです」
「そうなんだ。宿代はいくらなのかしら?」
「宿代は必要ありません。もちろん余裕のある方からは寄付を頂いていますが、大概の巡礼者はお金に余裕がありませんからね。神殿は彼等に食事と寝床を提供する見返りとして、奉仕作業をしてもらってます」
「へ〜、奉仕作業ってどんな事をするの?」
「主に畑仕事や家畜の世話、水汲みや蝋燭作り、清掃などですね。大勢の巡礼者を支援するには寄付だけでは賄えないので、自給自足してもらってるんです。大勢の人間が毎日入れ替わってますから、誰かに顔を見られても怪しまれる事はないと思います」
成る程。日常的に不特定多数の人が出入りしているならば、敷地内に入るのは難しい事では無さそうだ。
「でも、肝心のリアム神官には会えるかしら? たとえ巡礼者を装っても、どこでも自由に出入り出来るわけではないでしょう?」
「ええ、その通りです。それについては自分に考えがありますので、任せて下さい」
ショーンがそう言ってニッコリ笑った。
「ショーン、君の事は信頼しているが、出来れば何をするか事前に教えてくれないか? 万が一何かあった時にすぐフォローできるよう情報だけでも共有しておきたい」
シヴァの言葉にショーンは頷いた。
「確かにそうですね。まずリアム殿は日課として、朝と晩に必ず一人きりで祈祷を行います。その時間帯は人払いがされていますから、事前に潜入してリアム殿を待とうと思っています」
「事前に部屋に入る事が出来ても、リアムの祈祷の時間までに出てこなかったら怪しまれるんじゃないか?」
「問題ありません。自分は認識阻害魔法が使えますから」
「成る程。具体的な作戦はあるのか?」
「はい。祈りの間の蠟燭の交換は複数で行いますので、その中に紛れるつもりです。自分とミホさんに認識阻害魔法をかけた後、ダンさんの後について部屋に入り、そのまま隠れます。ダンさんには作業後、他の方と一緒に部屋を出てもらいます。そうすれば誰にも怪しまれません」
「…そう言えばアビラス軍が第一砦の結界に近づくまで全く気配を感じなかったが、もしかしてあれは君の認識阻害魔法のせいか?」
「はい。どれだけ近くにいようと、大きな声を出したりしない限りは周りに気付かれる事はありません」
それを聞いたシヴァは目を丸くした。
「それはすごいな。あれだけの人数に認識阻害魔法をかけるなんて、相当な魔力を消費したはずだ。さすがは女神様の愛し子といったところか」
「いやいや、直接人に魔法をかけたわけじゃないんです。ちょっと裏技を使ったんですよ」
「ほう、そう言えば君の魔法はほとんどが独学だったな。実に興味深い。どんな裏技か教えてもらえるか?」
「いいですよ。自分もシヴァ殿から空間魔法についてご教授願いたいです。弟子にしてもらえませんか?」
魔法の話で意気投合した2人が脱線しそうになったので、私はパンパンと手を叩いて2人の注意を引いた。
「はいはい、その話の続きは作戦が無事に終了してからにして頂戴。それで? この作戦で大丈夫そう?」
「ああ、ショーンの認識阻害魔法を使えば大丈夫だろう。何せ我々を欺いたんだ。彼が味方についてくれて頼もしい限りだ」
シヴァの手放しの賞賛に、ショーンは照れたように頭を掻いた。
「一番心配なのはお前が暴走しないかどうかだ。絶対に1人で勝手な行動はするな。常にショーンかダンと一緒にいるんだぞ。あと絶対にローブは脱ぐな」
「わかってるわよ。でもこの暑い中ずっとローブを着てたら変に目立っちゃうんじゃない?」
実際は通気性が良くて着ていても苦にはならないんだけど、サイズが大きいからもっさりしているし、暑苦しく見えてしまう。
「いや、そんな事はねぇよ。首都に来るまでに野宿する事もあるから、大概の巡礼者は黒や茶色、カーキ色なんかの暗めのローブを着てる。特に変だと思う奴はいないと思うぜ」
「そう? それならダンとショーンさんの2人分のローブを用意する必要があるわね」
「明日の出発までには間に合わそう。巡礼者に扮するのに、他に必要な物はあるか?」
シヴァの言葉にショーンとダンが顔を見合わせた。
「そうですね、皆さん杖を持っていらっしゃいますね」
「でかい荷物背負ってるよな。あの中、何が入ってるんだ?」
「旅に必要な物ですから、携帯用の調理道具、ランプ、保存食、水、薬、着替え、といった所でしょうか」
それを聞いて、この世界に来る前にキャンプした事を思い出した。
あの時は、久々に蓮と2人でゆっくりと時間を過ごせて楽しかった。2人でワクワクしながら、あれも必要だ、これも持っていこうとキャンプ用品を買ったっけ。
まさか異世界に召喚されて、生き別れになろうとは夢にも思わなかった。
これまでの事が走馬灯のように頭の中をよぎる。
この2年間、死にそうな目に何度もあった。
蓮を思って何度も泣いた。
それもこれも、リアムとアビラス国王の所為だ。
「…やっぱり一発殴っちゃダメかしら?」
私の呟きを耳聡く聞きつけたシヴァが、くれぐれもミホから目を離さないでくれ、とショーンとダンに懇願していた。
お久しぶりです。
今回も読んで下さってありがとうございます。




