偏見との戦い
クリフォード将軍とショーンさんの説得のおかげで、120人の兵士達は戦争を終わらせる為に王を討つ事に同意してくれた。
だからと言って、魔物に対する警戒心が0になったわけではない。
その証拠に、後片付けの手伝いに来たガロンを見た途端、彼等は表情を硬くして警戒していた。無意識に手を腰にやり、そこに剣がないと気付いて焦る者もいた。
それを見た私は、少なからずショックだった。
最近少々口が悪くなったとは言え、ガロンは素直で優しい子だ。だけどガロンの性格を知らない人達は、見た目で判断する。大きくて危険な魔物だと、そう思い込む。そしてこう考えるのだ。
殺られる前に殺れ、と。
被害にあってからでは遅いのだと主張し、それが当然の事だと信じている。
実際に被害にあってもいないのに、自分達の行いは正義だと思っているから、魔物を殺しても罪悪感を持つ事もない。
それは差別に他ならない。だけどそれがどんなに恐ろしい事なのか、彼等は気付いていないのだ。
幸いな事に、兵士達の感情を読み取ったショーンさんが間に立ってくれた。
「皆さん、あそこにいるのは、先程お話したミホさんを助けてくれたガロン君です。ご覧の通り大きいですが、とてもいい子ですよ」
そう言ってガロンを紹介してくれたおかげで、兵士達の緊張は見る間に解けた。
ガロンは名前を呼ばれるまで彼等に背を向けて作業をしていたから、自分がどんな目で見られているか気付いておらず、いきなり大勢に紹介されたので、ちょっと驚いて照れながら兵士達に会釈した。その様子を見た兵士達の眼差しは、更に柔らかいものへと変わった。
ガロンが心身共に傷つく展開にならず、正直ホッとしたけれど、私は改めて自分達のしようとしている事の難しさを痛感した。
例えクーデターが成功したとしても、人々の魔物への偏見をすぐに失くす事は出来ない。
両種族の平和の為には、戦争を終わらすだけではダメなのだ。
理解してもらうには、代表者と実際に話をするのが一番だが、まずその話し合いのテーブルにつかせるのが難しいだろう。
人々の信頼が厚く、影響力のある人物というなら、賢者であるショーンさんが当てはまる。
しかし、魔王軍に捕らえられて無理矢理言わされているんだろうと思われるかもしれない。
クリフォード将軍も然り。敗戦の将が生き残る手段として、仕方なく傀儡になったと思われる可能性が大だ。
(そうなると、適任者は限られるわね…)
頭の中にある人物の顔が浮かび、私は顔をしかめた。
個人的には物凄〜く嫌だし、認めたくないけれど、この件の適任者はリアム神官しかいない。魔物に対する偏見を失くすには、神殿の協力を仰ぐのが一番効果的だし、何より奴は民から絶大な信頼を得ている。
(みなさ〜ん、騙されてますよ〜! この男は実は腹黒ですよ〜)
と、拡声器を持って首都中に吹聴して回りたい気分だが、ここはぐっと堪えよう。
それに神殿側からすれば、これまでの教えを180度ひっくり返す事になるから、プライドはズタズタになるはずだ。恐らく物凄く抵抗されるだろうし、反論されるだろうけど、こちらにはそれを覆す切り札がある。
何しろ私が生きているという事が、魔物が悪ではないという何よりの証拠なのだ。
「というわけで、将軍達が王宮を襲撃している間、私は神殿に行ってリアムと話しつけてこようと思うんだけど」
私がそう言うと、シヴァを始め皆が反対した。
「ダメに決まっているだろう。相手は一度お前を殺そうとした人物だぞ。一体何を考えているんだ!?」
「でもタイミング的には今が一番いいと思うのよ。聖騎士達が冤罪で牢に放り込まれたと知ったら、さすがに国王に対して愛想を尽かすでしょう? それにこちらの要求は、これ以上の犠牲を出さない為に和平を結ぼうというものよ。向こうだって譲歩する余地があると思うんだけど」
「そんなに簡単なものか」
「数多の民の命より、神殿の威信の方が大切だと言うのなら、流石はご立派な聖職者様ねって、盛大に嫌みを言って指差して笑ってやるわよ」
渋る面々を見渡して、私は言った。
「例えクーデターが成功しても、全ての民が納得するとは思えない。お互い、長年の恐怖心や憎しみを簡単に消す事は出来ないもの。魔物達は魔王様の命令は絶対だから理解しにくいだろうけど、人間はそうじゃないのよ。クリフォード将軍を王だと認める事と、魔物を受け入れる事は別。その時、民が縋るのは勇者や聖騎士や神殿だわ。だから今のうちに神殿を説得する必要があるのよ」
そう言うと、ショーンさんが頷いた。
「…確かに一理ありますね。それにリアム神官は、女神様の書を読める唯一の人間です。彼が魔物との和平は女神様のご意志だと宣言すれば、民を納得させる事が出来るかもしれません」
「その通りよ。クリフォード将軍ばかりに負担させるわけにはいかないわ。両種族の平和の為に、私達も出来る事は全てしないと」
「だからと言って、お前一人を行かせるわけにはいかない」
「でもシヴァ達は神殿に入れないでしょう? だったら影響を受けない私が行くしかないじゃない」
遥か昔、ソレイユ(後の魔王様)の家族をこの世界に呼ぶ為に張り巡らされた巨大な魔法陣は、召喚に失敗し、それ以来、魔物達の魔力を吸い続けている。以前、シヴァが首都に行った時に体調不良になったのは、魔法陣の要である中央広場に長時間留まっていた為だ。
魔王様の話の後、ショーンさんと地図を見ながら確認すると、各エリアの広場と城、そして神殿が魔法陣の要になっている事が分かった。そしてその魔法陣は、私と蓮が召喚された石盤と連動しているらしい。恐らく吸い取られた魔力は石盤に蓄積され、次の勇者(魔王の器)を召喚するエネルギーになっているのだ。
だから一般の魔物達は首都に近づく事が出来ない。シヴァが体調不良ですんだのは、彼の魔力量が桁外れだったからだ。
すると、ショーンさんとダンが名乗りを上げた。
「自分が一緒に行きます。リアム神官の日々のルーティンも知っていますから、人目につかないよう会わせる事は可能です」
「俺も一緒に行くよ。先生よりかは腕は立つぜ」
「ミホさんに危険が及ばないようにしますから。いざという時は魔法を使ってお守りします」
「危ない真似はしないと約束するわ。本当はリアムを殴ってやりたいけど我慢するから」
「ミホが暴走しそうになったら、俺が全力で止めるから」
「自分も頑張ってミホさんを止めますから」
「…本当にお前達2人でミホを止められるのか?」
「ちょっと待ってみんな。何でそっちの方が心配な訳?」
3人掛かりで説得した事もあり、私達が神殿に行く事は渋々ながらも認められた。
(蓮、待っててね。もうすぐお母さん、そっちに行くから。これ以上、皆が戦わなくていいように頑張るから!)
もうすぐ蓮と再会できる。
あの子をこの手でもう一度抱きしめられる。
読んで下さってありがとうございます。
久しぶりの更新になりました。




