信頼の証
一部文章の修正と追加をしました。
「シヴァ殿、先程120人ならすぐにでも目覚めさせられると言っていたが、既に治療は終わっているのかね?」
「ええ」
「そうか。出来る事なら手塩にかけて育てた部下達を選びたかったが、この際贅沢は言っていられないな」
「治療が終わっているのは、将軍と一緒に最後まで戦った者達だと聞いています」
シヴァの言葉に、将軍の顔が喜びで輝いた。
「そうか。ならば内50人は私の育てた部下達で間違いない。彼等には何よりも民を第一に思うように常日頃から言い含めている。王を討つ理由を話せば、きっと説得に応じてくれるだろう」
成る程。先程50人でもいいから、と言っていたのはそれでか、と合点が行く。
これからクーデーターを起こすのに信頼できる相手として、幾度となく死線を共にした部下達が必要なのだろう。将軍と同じ志であるならば、頼もしい味方だ。
だが、将軍の喜びにシヴァが水を差した。
「喜ぶのはまだ早い。民を守るという事と、我々を信じて和解するというのは別物だ。兵士達がいくらあなたを信用していようが、説得は時間がかかると思った方がいい」
「君は私の部下を知らないだろう。何故そう言いきれる?」
「長い間お互い憎しみあってきたんだ。人間は我々魔物が危険で邪悪な存在だと思っているし、我々は日々仲間達が人間に狩られる様子を目の当りにしている。突然、憎しみあうのはやめて明日から仲良くしましょうと言われても、はい、と素直に頷く者などいないだろう。将軍、あなたが我々を信じてくれたのは、ドルチェの商売を通じて私達の人柄を知っていたからだ。違いますか?」
「…確かにそうだな。しかしだからと言って何日もかけられない。せめて1日がかりで説得に当たるとしよう」
「まずは我々魔物が危険で邪悪な存在じゃないと知ってもらうのが一番だが、圧倒的な戦闘力を見せた後では難しいな。何かいい案はあるか?」
シヴァの問いかけにショーンさんが頷いた。
「共通点があれば、心理的な距離が縮みやすくなります。例えば、女神様を信仰している事、とか」
「成る程。確かに魔物が我々と同じように女神様を信仰しているとは知られていない。これは大きいな」
将軍が頷いた。
「食べ物だってそうよね。普段は私達と同じ物を食べてて、好んで人間を食べるわけじゃないもの」
「しかし、魔物に襲われて亡くなった者は少なくない」
「ほとんどは魔獣の仕業だと思うがな。魔獣とは魔力を持った大型の野生動物だ。普通の狼や熊だって人間を襲う事はあるだろう。人間は生活の為に狩りをするのかもしれないが、狩られる側に取っては文字通り命懸けだ。反撃されても文句は言えんと思うが?」
「…確かに」
「それに魔物も人間と同じように家庭を持って子供を大事にしているわ」
「そうなのかね?」
「ええ。ベルガーは独身だけど、姪を可愛がっているわよ。見た目通り粗暴だけど、弱い者に手を挙げる奴じゃないわ。あなた方に取っては恐ろしい相手でしょうけど、彼だって家族や仲間を守る為に戦ったのよ」
初対面の時、ベルガーは本気じゃなかった。シヴァを揶揄う為に私を襲う振りをしていただけだ。私の予想外の反撃にあって、不名誉な結果になってしまったけれど、もしも彼が本気だったら、私なんて爪1つであっさりと殺されていただろう。口も態度も悪いが、ベルガーは優しい男だ。…とても、かなり、物凄く、わかりにくいが。
「ふむ、女神様を信仰している事や、子供を大事にしているというのは好感度が高いな。実際に兵士達の治療を行っている様子を見てもらうのもいいかもしれない」
「そうだな。だが彼等の意識は戦闘時のままで止まっている。恐らく説得に耳を貸す余裕はないはずだ」
だったら心に余裕を持たせればいい。
「任せて! 心を満たすにはお腹を満たすのが一番よ! 兵士達は温かい食事に飢えているだろうから、まずはそこから崩していきましょう。早速、調理に取りかかるわ」
そう言って腕まくりをしていると、ダンが心配そうに呟いた。
「仮に120人全員を1日で説得できたとして、ここから王都に帰るまで何日かかるんだ? 結構な距離があるし、辿り着いても疲労困憊だろう。そんなんで城を制圧できるのか?」
「それなら問題ない。馬があれば王都には一時半で辿り着く」
「はあ? 道を知らずに迷ったとは言え、アビラス軍が砦に辿り着くまで軽く1週間は超えてたぞ。王都から一時半なんて、ドルチェと代わらないじゃねぇか」
「その通りだ。兵士達はドルチェから移動させるつもりだ」
「…いや、お前が何を言ってるか、さっぱり分からん」
呆れたようなジトッとしたダンの視線を受けてシヴァは肩をすくめ、部屋の扉に手をかけた。
「実際に見せるのが一番手っ取り早いな。…こういう事だ」
そう言って開かれた扉の向こうに、懐かしのドルチェの事務所が広がっていたので、ダンは口をポカンと開けてしばらく固まった。
「は? はあぁぁぁっ!? 何だよこれ、どうなってんだ?」
ダンは興奮気味にドルチェの事務所に駆け込むと、ぐるりと周りを見渡した。
「すげぇ! マジでドルチェじゃねぇか。うわっ、このソファーも庭の樹も懐かしいなぁ」
ダンに続いてクリフォード将軍もショーンさんもドルチェの事務所に入り、不思議そうに周りを見渡した。
「こんな高度な空間魔法が出来るなんて、シヴァさんは本当に凄い方だ」
「いやはや、驚いた。こんな魔法があるとは…」
将軍はそう言うとしばらく黙り込んだ。
対してダンは興奮冷めやらぬ様子でシヴァの背中をバンバンと遠慮なく叩いていた。
「シヴァ、この野郎! 何でこんな便利な魔法がある事を黙ってたんだよ。この扉があれば商品を首都に運ぶのもすぐ出来ただろう!俺だって早起きしないですんだ」
「扉を繋げる空間魔法は条件があるんだ。術者が行った事のある場所で、尚且つ家主の許可がいる。魔法が悪用されないようにな」
「ふーん、なら俺の家の納屋にでも繋げればいい。そしたらもっと時間短縮できるだろ?」
ダンの言葉にシヴァは呆気にとられた顔をした。
「前に、おふくろの見舞いでうちに来た事あるだろう。だったら俺が許可すれば条件クリアじゃねぇか。ドルチェから移動させるよりよっぽどいいだろ? 門番のチェックもいらないし」
「…いいのか?」
「ああ、勿論いいぜ」
「〜〜〜っ、ダン! あなたって最高!」
きゃっきゃと3人で盛り上がっていると、クリフォード将軍が輪に加わって来た。
「待ってくれ、そう言う事なら私の屋敷にも扉が繋げられるんじゃないか?」
そうだ。私達はお酒の配達で将軍の家に何度も行った事がある。
「私の屋敷の方が城に近い。そうだな、離れの物置小屋ならあまり人目にもつかないから丁度いいだろう」
「扉を繋げる許可を頂けるんですか?」
「ああ、許可する」
シヴァの顔が喜びで紅潮していた。
2人が示してくれたもの、それは紛れもない信頼の証だった。
読んで下さってありがとうございます。
久しぶりの投稿になりました。




