鬼になる
「今すぐ私と部下を王都に行かせてくれ!部下の治療が間に合わないなら、50人程でも構わない。とにかく時間が惜しい!これ以上、愚かな真似をさせるわけにはいかない!頼むっ!行かせてくれ!!」
「将軍、お気持ちは分かりますが、どうか落ち着いて下さい」
「うっわっ、力強っ!おい、先生、そっちもっとしっかり押さえてくれ!」
ショーンさんとダンが興奮気味の将軍を宥めている横で、私はガロンの左腕の中に荷物のように抱えられ、だらりと腕を垂らした情けない姿になっていた。蓮が国王によって捕われたと知り、すぐにでも助けに行こうとして止められたのだ。
初めは頭に血が上って「ガロン!離して!!」と叫びながらジタバタともがいていたけれど、クリフォード将軍の様子を見て我に返った。自分より怒っている人を見ると怒りが収まると言われているが、本当のようだ。
「ガロン、降ろして。もう暴れないし、勝手に出て行かないって約束するから」
「本当か?」
「うん。それに、この体勢はちょっと苦しい…」
「あ、ごめん」
ガロンは慌てて、そっと降ろしてくれた。
「いいのよ、私も冷静さを失っていたから。止めてくれてありがとう」
「やっと落ち着いたか。もしもあれ以上騒ぐようなら、無理矢理閉じ込めてた所だぞ」
シヴァが呆れ気味に言った。
「さて、次はクリフォード将軍だな。彼が冷静さを取り戻さなければ、話が進まん」
「そうね。私が説得してみるわ」
私はショーンさんとダンの2人に両脇を抱えられて尚、暴れているクリフォード将軍の前に立った。
「将軍、あなたの気持ちは誰よりも分かります。でも今のままじゃ無理です。まずは兵士達を説得しなければならないでしょう?」
私の言葉にシヴァは頷いた。
「その通りだ。まずは実際に我らと戦った兵士達の賛同を得られなければ、民を納得させる事も出来ないだろう。あなたの使命は王を討って終わりではない。あなたは人間と魔物、両種族の平和の要だということを自覚してもらわねば」
その言葉にクリフォード将軍は動きを止め、大きく深呼吸をした。
「あなた方の言う通りだ。…君達にも迷惑をかけたな。取り乱してすまない」
「いえいえ、それだけ将軍が国の事を思っているという証拠ですから」
顔を赤くして恐縮する将軍を、ショーンさんがフォローしてくれた。
「しかし時間がないのも事実。部下達は何人くらい治療できますか?」
「120人程ならすぐにでも目覚めさせられる。しかし例え傷が癒えても、彼等に芽生えた我々に対する恐怖や憎悪は石化された時のままだ。いかに将軍と言えど、説得するには時間がかかると思うが、大丈夫か?」
「確かに簡単ではないでしょう。しかしあなた方の慈悲によって生かされている事実を知れば、考える余地もあるはずです」
「大丈夫、ショーンさんにも兵士の皆さんを説得するよう手伝ってもらいますから」
「えっ!? 自分もですか!?」
私の言葉にショーンさんはギョッとした様子で目をむいた。
「そうよ。クリフォード将軍はこれから大変なんだから、私達に出来る事はしっかりとサポートしなきゃ。ショーンさんは賢者様なんだから民から尊敬されてるでしょう? 戦争起こした国王よりも、将軍の方が国のトップにふさわしいって演説してきて」
「…わ、わかりました。でも、自分は、大勢の前で喋るのは、に、苦手で…」
「そんな事、言ってる場合じゃないでしょう!! 蓮を助ける為の作戦も考えなくちゃいけないんだから! ほら、しゃんっとして!」
私が背中を叩いて発破をかけると、ショーンさんは「ひゃいっ!!」っと背筋を伸ばした。そんなショーンさんを見て、ダンがゲラゲラと笑い転げた。
「ちょっと、ダン。何笑ってんのよ?」
「だってよ〜、先生までミホの尻に敷かれてんだぜ。おふくろもそうだけど、女ってイザって時は肝が据わってるよな。おっかね〜」
「当たり前よ。母親だもの」
子供を守る為ならば、例え火の中、水の中。
母親という生き物は、鬼にも菩薩にもなれるのだ。
クリフォード将軍が革命を起こして国王を討てば、彼はこの先ずっと、後ろ指を指される事になるだろう。心から民の為を思ってした事でも、主君を裏切ったという事実は覆らない。彼が誠心誠意、国の為に尽くし、平和へと導けば、やがて感謝され賢王と讃えられるだろうが、汚名が完全に払拭される事はない。
それを知ってて尚、私は彼を矢面に立たせるのだ。
こんなに立派な人に、泥をかぶせるのだ。
蓮を無事に取り戻す為に。
私はあえて、鬼になる。
読んで下さってありがとうございます。




