勇者の葛藤
「何故我々がこのような目に遭わねばならんのだ!?」
「一体国王陛下は何を考えておられるのだ!?」
「我々は無実です! どうか国王陛下にお取り次ぎを!」
「…他の兵士達は無事だろうか?」
「個人で携帯している食料や水もとっくに尽きているだろう。たとえ生き延びていても、逃げる体力も残ってないかもしれん」
「こんな所に押し込められている場合じゃないのに…」
「とりあえずここから出たらすぐに救助に向えるよう、計画だけでも立てておこう」
地下牢に押し込められた初日は流石に憤慨していた聖騎士達だったが、翌日には落ち着きを取り戻し、まだ森に残っているだろう兵士達の心配をして話し合った。
しかし蓮はその話し合いには加わらず、冷たい石の床の上に膝を抱えて座り、シミだらけの壁をぼんやりと眺めるだけだった。彼の頭の中には国王の言葉がずっとリフレインしていたのだ。
『己の罪を忘れたか!?賢者ショーンが死んだのは、そなたの不甲斐なさの所為であろう!』
その言葉は胸の奥底に突き刺さり、じくじくと苛んでいつまでも蓮を苦しめた。
(言われなくても分かっている。先生が死んだのは俺の所為だ…)
あの場所で休憩なんかしなければ。
自分が狙われていた事に気付いていれば。
ショーンが蓮を庇わなければ。
自分がもっと強ければ。
戦争なんかなければ。
…魔王が復活しなければ。
(そしたら先生もお母さんも死なずにすんだかもしれない)
歴代の勇者達は皆、召喚された時から勇者としての力を使いこなす事が出来たという。
蓮が彼等と同じように初めから勇者の力に目覚めていれば、ショーンは魔法を教える必要もなく、安全な城の中で好きな本に囲まれて静かに暮らせたはずだ。お母さんだって…
そこまで考えて蓮は顔を膝に埋めた。
(何で俺が勇者なんだろう?)
正直、初めて魔法で火を呼び出す事に成功した時はめちゃくちゃテンションが上がった。出来る事が増える度に、自分が選ばれた勇者なんだって少し誇らしくも思った。漫画やゲームだったら確実に主人公だ。
だけど現実は残酷だ。
セーブ画面なんてない。
失敗したからってリセットしてやり直しが出来ない。
お母さんも先生も、大事な人が2人とも自分を庇って死んだ。それもこれも蓮が勇者だったからだ。
勇者は魔物の脅威から人々を救うために、女神様から祝福を授かり、魔王を倒せる程の力を持つ者の称号だ。
望んでなれる者ではない。
(他の人から見たら祝福でも、俺にとっては……呪いだ)
この世界に来てから2年間、魔王を倒して世界を救う為に死に物狂いで修行をしたおかげで、信じられないくらい強くなった。それは決してうぬぼれなんかじゃない。
なのに自分にとって大切な人を守る事は出来なかった。みすみす目の前で死なせてしまった。
聖騎士の皆は誰も蓮を責めなかったけど、きっと心の中では国王と同じ事を思ったはずだ。だって先生は賢者で国の宝と言える人だったから。本人は全然そんな自覚なかったけれど。
頭はいつもボサボサの寝癖だらけで、歩く時は猫背気味。己の外見に全く頓着しない人だった。
火の魔法で天井を焦がしたり、歩いただけで翌日筋肉痛で寝込んだり、聖騎士訓練所の前で入りたくないと駄々をこねたりと、弟子である蓮に対して情けない姿を見せる事もしばしばだった。
だけど最高に優しくて、最高に有能な先生だった。
お母さんが死んで落ち込んでいた蓮が再び笑えるようになったのは、先生のおかげだった。
ずっと蓮の側にいてくれて、魔法以外にもたくさんの事を教えてくれた。
先生の存在が、どれだけ蓮の救いだった事か。
(先生と出会えたのは、俺が勇者だからだ。それは、わかってる。だけどっ…!)
もしも2人の死が、勇者の力を覚醒させる試練だとしたら?
世界を救う為に自分はどれだけ大切な人を失う事になるんだろう?
(ねえ、女神様。どうして俺を勇者に選んだの?)
どれだけ凄い力を与えられたって、それと引き換えに大事な人を失うのなら、ちっとも嬉しくない。
(女神様。俺、これまで以上に頑張ります。この世界の人々を守る為に。だからもう誰も奪わないで下さい)
読んで下さってありがとうございます。




