交渉
「…その前に、私の話を聞いてもらいたい」
「分かりました」
リアムにじっと見つめられ、国王はつーっと嫌な汗が背中を流れ落ちるのを感じた。
「皆の者、席を外せ。リアム神官と内密の話がある。話が終わるまで、何人たりとも謁見の間に入れてはならぬ」
人払いを命じながら、国王は焦っていた。いつものようにリアムに命令を下せる雰囲気ではない。
2人きりになり、さてどう話したものかと考えていると、リアムが静かに切り出した。
「国王陛下にお尋ねします。何故、聖騎士達を地下牢に拘束されたのですか?」
「なっ…!? 何故それをそなたが知っている?」
リアムは悲しげに溜息をついた。
「信じたくはありませんでしたが、事実でしたか。…これまで我々は王家に敬意を払い、長きに渡って良い関係を築いていたというのに、こんな風に裏切られるとは残念です」
「この件については箝口令を敷いたはずだ…国王の命令を無視するとは許せん! 一体誰が情報を漏らしたのだ? 」
情報が外に漏れた事にすっかり気が動転した国王は、激しい口調でリアムを問いつめたが、帰ってきたのは冷ややかな視線だった。
「…成る程。よくわかりました。もう結構です」
リアムは静かに扉に向って歩き始めた。
「ま、待て! まだ何も話してはおらぬではないか!? 何が分かったというのだ?」
「陛下にとって神殿との信頼関係の回復よりも、ご自身の命令を無視された事の方が問題だという事ですよ」
「断じてそんな事はない!!」
「ではもう一度お尋ねします。何故、聖騎士達を地下牢に拘束されたのですか?」
(神官はどこまでを知っている? ここは慎重にならねば…)
国王はゴクリと生唾を飲んだ。
「彼等が命令もなく勝手に戦線離脱したからだ。そしてその際、味方だった兵士を切り捨てた事が分かっている」
嘘は言っていない。ただし切り捨てたのはアンデッド化した者たちだが。
しかしリアムはごまかされなかった。
「私がそれを信じるとでも?聖騎士はその高潔な魂を女神様に認められ、加護を与えられた者達です。彼等の剣は女神様に代わって弱き立場の者を守るためのもの。人道に外れた行為をすれば、すぐに罰が下るはずです。彼等に罪をなすり付けるなど、女神様に対する冒涜とも言えます。一国の王であったとしても許されない行為ですよ」
国王は慌てた。
「女神様を冒涜するなど、そんなつもりはっ…! 彼等を拘束したのは詫びよう。しかし国を守る為に一時的な措置としてした事だ。信じてくれ!!」
「…ひとつ忠告しておきますが、ご自身の為にも私の前で嘘は言わない事です。聖騎士達を拘束する事が国を守る為とは、どういうことでしょう?」
国王な苦虫を噛んだような顔になった。
「そなたを信じて全てを打ち明けよう。ただし、今から言う事はくれぐれも内密に頼む。
…戦況は想像以上に悪いらしい。現在クリフォード将軍の安否が分からない。その上、賢者ショーン・クラークも死んでしまった」
ショーンの死を聞いたリアムは動揺したのか、口元に手をやり痛ましい表情をした。
「多くの兵士が戦死したが、アンジェリカの魔力暴走が原因で亡くなった者も少なくない。万が一この事がバレれば、民が反乱を起こす可能性もある。知っての通り、今国内には他国の者が多数滞在している。戦争で兵力が分散されている機会を虎視眈々と狙っているのだ。国内外から一気に攻められたらひとたまりもない。それこそ国が滅んでしまう」
「…聖騎士が味方の兵を切り捨てたというのは…?」
「魔物の仕業だ。奴らは卑怯な事に、死んだ兵士達をアンデッドに変えて襲わせたのだ」
「…やはり冤罪ですか。なぜこんな愚かな真似をしたのです?」
「先程も言ったように情報を漏らさぬ為だ。あの時、謁見の間には多くの者達がいた。あの場にいた全員を牽制するには、聖騎士達を一時拘束するのが効果的だと思ったのだ」
「それだけですか?」
リアムの探るような視線に耐えられず、国王は俯いた。
「…もう一つの目的は、そなたと交渉をする為だ。国を救う為に、どうしても協力してほしいことがある」
「私の協力を得るためだとしたら、とんでもない悪手ですね」
「ああ、私が悪かった。焦って判断を誤ってしまった。聖騎士達には悪い事をした。すぐに拘束を解くと約束しよう」
国王が素直に非を認めたため、リアムは頷いて謝罪を受け入れた。
「それで、そうまでして私に協力してほしい事とは何でしょう?」
「…もう一度、勇者を召喚してほしい。今度こそ本物の勇者を」
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