権威
一部誤字の修正をしました
「聖騎士達からの報告はまだですか?」
「はい。リアム様。こちらには何の知らせもありません」
「そうですか…。通常ならすぐに使者を送ってくるはずなのに、今回は随分と遅いですね」
神殿の執務室の窓から外を眺めながらリアムは眉をひそめた。
一昨日の午後、城へと向う聖騎士達を見たという報告があったにもかかわらず、未だに城からも聖騎士達からも何の知らせが来ない。
国王へ戦況報告するための一時帰還だとしても、神殿にも同様に報告があるはずだ。
(国王から情報を漏らさないように命じられた可能性はある。しかし隊員達の無事くらいは報告があっても良さそうだが…)
現在、首都グラードには多くの異国民が滞在している。他国に知られてはまずい情報があるのかもしれない。
(魔物との戦争をしている隙に、攻めようとしている国があるかもしれない)
アビラス王国は広大な領土を有しているため、様々な鉱石が採れるし酪農や農業も盛んだ。夜の時代となり、魔石の流通が以前より少なくなって不便になったとはいえ、他国に比べれば十分豊かである。隙あらば、と狙う国も多い。例え友好国であったとしても油断は出来ないのだ。
(…公に出来ない不測の事態が起こったのかも知れないな)
仮にクリフォード将軍が戦死した場合、その影響は計り知れない。アビラス軍の士気は下がるだろうし、他国は戦力が削がれた事に喜ぶだろう。
(そういうことなら、いずれ国王陛下から協力の申し出があるだろう)
そう思っていた矢先、城からの使者が神殿にやってきた。
「リアム神官様。グレース王女よりお手紙を預かって参りました」
「グレース王女から?」
「はい。お忙しいとは存じますが、至急お知らせしたい事がある為、すぐに中身を改めていただきたいとの事です」
「わかりました」
封蝋に使われているシグネットリングは百合の文様で、グレース王女個人の物で間違いない。
リアムは訝しみながらも、使者の目の前で手紙を開封した。
したためられた文面にさっと目を通したリアムは、しばらくの間目を閉じ、大きく深呼吸した。そうしなければ、感情をコントロールできそうになかったからだ。これほどまでに怒りを覚えた事はない。しばらくして落ち着きを取り戻してから、側に控えていた神官見習いの青年に指示を出した。
「今日の私の予定は全てキャンセルして下さい。至急、城に行かねばならなくなりました。私の不在時は、いつも通り司祭様に指示を仰いで下さい」
「かしこまりました。お帰りはいつ頃になりますか?」
「…わかりません。おそらく遅くなるでしょうから、夕食の準備は結構です」
リアムはそう言うと、使者の方に向き直った。
「着替えて参りますので、少々お待ちいただけますか?」
◆◇◆◇◆◇
「陛下、リアム神官がお見えになりました。謁見の間でお待ちです」
「…わかった。すぐに行く」
国王はため息をついて立ち上がった。
(聖騎士達の帰還は多くの民に目撃されているから、当然、神官の耳にも届いたのだろうな。もう少し考える時間が欲しかったが、仕方あるまい)
いずれは話し合いの場を設けるつもりだった。少し予定が早まっただけだ。事情を説明すれば、リアム神官なら協力してくれるだろう。彼はいつでも国の為に尽くしてくれている。
そう信じて疑わなかった国王は、謁見の間に入るなり驚きで足を止めた。
これまでリアムは謁見の際、ゆったりとした白いカズラと銀色の刺繍が控えめに入った藍色のストラという、いつも通りのシンプルな服装だった。
しかし今日は前身頃全体に絢爛な金の刺繍が入ったカズラとストラ、生地と同じ光沢のある白い糸で全体に刺繍を施されたアルバという特別な祭服を身に纏い、玉座を背にして立っていた。
リアムは扉の前で立ちすくんでいる国王に気付くと、無言で手招きした。
その行為を不敬だと咎めることは出来なかった。なぜなら祭服を身に纏ったリアムには、女神様の代弁者として、一国の王をも従わせる権威があるからだ。
「アルビス国王よ。突然の来訪についてお詫びします。しかし何故私がここに来たか、言わずとも理由はご承知でしょう?」
口調こそ丁寧だが、こちらを見据える目は冷ややかだ。
「聖騎士達を迎えに参りました。彼等を速やかに返して下さい」
異論は認めない、とばかりに厳かに告げる神官を前にして、国王は判断を誤った事にようやく気がついた。
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