昔話1
遥か昔の事だ。何千年も前、ソレイユという男がいた。
ソレイユは偉大なる帝国で建築者として働いていた。
魔王様が言葉を紡ぐと、水面にコロッセオや神殿などの石造りの建物が映った。
行き交う人々の服装は、何かのテレビ番組で見た古代ローマ帝国時代のものに似ている。
やがて、機織りをしている若い女性とその側で遊ぶ幼い子供達の姿が水面に映し出された。
兄と妹なのだろうか、顔立ちのよく似た2人は仲良く木の玩具で遊んでいる。
ふいにこちらを見た子供達がキラキラと目を輝かせながら走り寄ってきた。
女の子は笑いながら抱っこをせがむように手を伸ばしている。
(ああ、これはきっと魔王様の過去の記憶なんだわ)
水鏡に映る光景を、私とショーンさんは黙って見つめた。
ソレイユには優しい妻と2人の子供がいた。
生活は決して楽ではなかったが、愛する家族に囲まれて幸せに暮らしていた。
帝国は侵略戦争を繰り返し、領土を広げて栄華を誇っていたが、全てが順風満帆だったわけではない。
人の行き来が盛んになると同時に未知の病も持ち込まれた。
ある日、ソレイユの子供達が疫病にかかり、高熱を出して倒れた。看病していた妻もやがて発病した。
感染力の高い病は瞬く間に国中に広がっていき、医者の数が圧倒的に足りなくなっていた。
当然往診などしてもらえず、やっと手に入れた高価な薬を買い与えても一時的に熱が下がるだけで回復しない。懸命な看病にも関わらず、家族は日に日に弱っていった。
とうとう高熱で体力を奪われた子供達は、食事をする事も出来なくなった。
映し出された子供達は、先程の姿が嘘のような変わりようだった。
ふっくらとしていた頬はこけ、唇はかさかさだ。虚ろな目には生気がなく、焦点も合っていない。
幼い子が病で苦しんでいる姿は胸が痛んだ。側で見ている親ならば尚更だろう。
幼くして死を待つばかりとなった子供達が哀れで、ソレイユは必死で神に祈った。
『神様、私の家族を助けて下さい。妻と子供達が助かるのならば何でもします。喜んでこの身を捧げましょう。ですから、どうかお願いします。愛する家族をまだ天に召さないで下さい』
祈りは通じた。1人の女神様がソレイユの願いに応えてくれた。
女神様より天啓を授かったソレイユは、疫病に効く薬を作った。
その薬のおかげで家族は回復し、国中の患者が一命を取り留めた。
ソレイユは名声を得ると同時に莫大な財を成した。
しかしそれは全て、女神様との契約にもたらされた結果だった。
1年後、再びソレイユは神託を受けた。
『あの時の誓いを果たす時が来た。我が元に来て世界を作る手伝いをしなさい』
願いを叶えてもらった代償として、ソレイユは文字通り身を捧げなければならなくなった。
それは家族との永遠の別れを意味していた。
翌日、ソレイユは家族とピクニックをして過ごした。
妻の肩を抱きながら、野原でじゃれ合う子供達の姿を目に焼き付ける。
(ああ、短かったが幸せだった。この子達の笑顔を守る為なら何だって出来る)
その後、ソレイユは家へと帰らず、家族を連れて神殿を訪れた。
そして膝をついて神へと祈りを捧げた。
『女神様、家族を助けて下さりありがとうございます。誓い通りこの身を捧げます。願わくば、残された家族の未来に幸多からんことを』
ソレイユは祈り終わると家族に事情を説明した。
「ーーという訳で私はこれから女神様の元へ行かなければならない。本当はずっと側にいてやりたいが、誓いを破ればお前達がどうなるかわからないからね。せっかく助かったんだ。天寿を全うしてくれ。それに前と違って今は十分暮らしていける金がある。子供達を頼んだよ」
ソレイユは突然の別れに涙に暮れる妻を抱きしめてキスをすると、しゃがんで子供達を順番に抱きしめ、額にキスをした。
「お父さんはこれから遠くに行かなきゃならない。テオ、お前は強い子だ。お父さんの代わりにお母さんと妹を守ると約束してくれるかい? ありがとう。いい子だ。お前を誇りに思う。大好きだよ」
「ミラ、私の小さな天使。お母さんとお兄ちゃんの言う事をよく聞くんだよ。あまり我が侭を言って困らせないでね。ああ、泣かないで、せっかくの美人が台無しだ。可愛い笑顔を見せておくれ。いってらっしゃいのキスは?」
愛娘から頬にキスをしてもらったソレイユは立ち上がると、家族から距離を取った。
ソレイユの頭上に、緑と青色のオーロラのような美しい光が降りてきて、やがて全身を包んだ。
「たとえ遠く離れていても、今と変わらずずっと愛しているよ。どうか幸せに」
その言葉を最後に、ソレイユは家族の前から姿を消した。
読んで下さってありがとうございます。
魔王様の昔話が長くなりそうなので2回に分けました。
勇者との因縁は、次回に持ち越します。
出来るだけ早く更新します。




