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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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仮定

「は?」


 ショーンの発言に呆気にとられた私は、ポカンと口を開けた間抜け面で魔王様を見た。

 魔王様は動じる事なくショーンを見返していた。


「なかなか面白い事を言う。この私が先の勇者だと?その根拠は?」


 ショーンさんを見る青い目は冷たく、周りの空気が張りつめている。

 しかしショーンさんは物怖じせず、真っ直ぐに魔王様を見つめたまま答えた。


「自分は勇者の師になった時、研究の為に神殿の図書室を自由に閲覧できる許可を貰いました」

「それで?」

「蔵書の中には一般に公開されない禁書もいくつかあります。その中の一つに、先の勇者の肖像画が描かれておりました」

「ほう、それが私の姿に似ているというのか」

「はい。ただし、そのような立派な角はありませんでしたが」

「私の記憶にある勇者にも角はなかったぞ。…まあ、確かに髪と瞳の色は同じだったから、おおかた雰囲気が似ていたのであろう」


 所詮は人間の描いた拙い絵だ、と魔王様は小馬鹿にしたように口を歪めた。


「根拠はそれだけではありません。もう一つあります。今から少々お耳汚しする事をお許しください」


 ショーンさんはそう言うと、おもむろに歌いだした。


『太陽が沈み、

 月へと変わる。

 花は眠り、

 星は瞬く。

 虹の橋を越えて、

 オーロラの向こうから、

 女神様が新しい太陽を迎えるその日まで、おやすみなさい』


「これは曜日の名称と順番を覚える為の童歌ですが、もう一つ隠された意味があると自分は考えます。恐らく太陽は勇者、月は魔王、花は人、星は魔物の比喩でしょう」


「初めの歌詞は、昼の時代から夜の時代に変わる事を暗示しているのだと思いました。

 新しい太陽を迎える、つまり次の勇者が降臨するまで耐え忍べ、という意味だと。

 しかしそれは間違いでした。

 太陽が沈み、月へと変わる。

 これは勇者が堕ちて魔王に変わる、という意味ではないですか?」


 しばらくの間、謁見の間に沈黙が降りた。

 魔王様はしばらく顎に手を当てて考え込んでいたけれど、やがて静かに言った。


「此度の謁見はそなたに褒美を与える為のものだ。その質問に対する答えが褒美という事で構わないか?」

「はい。何よりの褒美です」

「よかろう。では場所を変えるとしよう」


 パチンっと魔王様が指を鳴らすと景色が一瞬で変わり、私達はガゼボに座っていた。

 ドーム型の屋根を6本の白い石の柱で支えたガゼボは、城の庭園にある池の真ん中に浮かんでおり、誰かに話を聞かれる恐れはない。

 真ん中に置かれたテーブルの上には、人数分のティーセットと私が持ってきたスコーンとフルーツタルトが綺麗に並んでいた。

 戸惑う私とショーンさんを見て、魔王様は自嘲気味に笑った。


「今からひとつ昔話をしてやろう。知っての通り年寄りの昔話は長いからな。お茶を飲みながら聞いてくれ」


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