話し合い4
「魔物が、我々が思っているような『悪』ではないということは理解した。終戦条件も、ほぼ同意する。しかし、国王の首を差し出せというのは、承諾しかねる。せめて命は取らないでいただけないだろうか?」
「個人的には、国王を玉座から引き摺り下ろしてから一発殴らせてもらえれば気が済むんだけど」
ミホはそう言ってくれたが、シヴァはにべもなく言った。
「宣戦布告の内容を忘れてしまったのか?恐れ多くも魔王様の首を差し出せと言ってきたんだぞ。我々が同じ要求をしても、文句を言われる筋合いはない。王族を根絶やしにしろと言わないだけましだろう?」
「…そうであったな」
宣戦布告した時の、国王達の非道なやり方を思い出して溜息をついた。
「将軍、あなたの忠義心は見上げたものだが、国王はそれほどの価値がある人間か?」
「確かに此度の戦争は早計であったと言える。虚栄心が強く、それ故に苦言を伴う忠告を聞き入れないのは短所と言えるだろう。
しかし長きに渡り、王太子として民の為に数々の政務を摂られてきた実績もある。偉大な先代と比べると、どうしても見劣りするが、決して無能な方ではない。そもそも自分の代で国が滅亡すると予言された王が、何もせずにいられるだろうか?
やり方は間違っていたかもしれないが、国の為を思っての行動だと私は信じている。そして、王を支え国を守るのが、我ら臣下の務めだ」
「言っておくが魔王様に国を滅ぼす意思などない。人間に関わり合う気もなかっただろう。勝手な被害妄想で戦争を起こし、数多の兵を死に追いやったのはアビラス国王だ。国を想うのなら尚の事、その責任を取らせるのが筋であろう」
「わかっている。非はこちらにある。しかしあの方を見殺しにすると、先代国王陛下に顔向けが出来ぬのだ」
将軍の言葉に、シヴァが肩をすくめた。
「人間とは理解しがたいな。死者のほうが生きている者より尊いのか?」
「そんな事はない」
「しかし亡き国王への後ろめたさから決断が出来ないのだろう?つまり、民よりも死者に重きを置いてるという事だ」
「……」
民を軽んじてるつもりはない。しかし言われてみるとその通りだ。
シヴァの指摘に考え込んでいると、黙ってやり取りを聞いていたショーンが口を開いた。
「先代国王陛下なら、王家の存続よりも民の安寧を望んだはずです。そう思われませんか?」
ショーンの言葉に、先代が即位した時の事を思い出した。
『私は王家の嫡男に生まれたにすぎない、極めて凡庸な男だ。もしもこの中に、我こそが王にふさわしいと思う者がいれば、この場で遠慮なく申し出るがいい。その者が誠に国を想い、民の為に尽くすというのならば、喜んで玉座を明け渡そう』
思っても見なかった言葉に、臣下一同が戸惑い顔を見合わせた。瞳に野心を宿した者も何人か見受けられた。
先代陛下は玉座から一同を見渡し、再び口を開いた。
『これまでの長き夜の時代、魔石の供給が追いつかずに民は不便な暮らしを余儀なくされ、技術は衰退し国力は衰えている。他国も同様だ。これより先、我が国の豊かな資源を求めて侵略してくる国もあろう。王たる者、国を守るのが務めだ。私利私欲の為でなく、民の安寧な暮らしを守り、国の発展の為に身を捧げなければならない。その重責に耐える覚悟のある者はいるか?』
誰も名乗りを上げなかった。
『残念ながらいないようだな。では私がその任を負う事にしよう。今日よりこの命をかけて国に尽くす事をここに誓う。しかしどんなに頑張っても、私一人では国を豊かに発展させることはできない。どうか私の為でなく、民の為に貴公らの力を貸してほしい』
そして、その言葉に違わず、ずっと国の為に尽くしてこられた。臣下の意見をよく聞き、どうすれば民のためになるかを一番に考えておられた。だからこそ臣下一同、先代国王陛下を慕い、支えてきた。今日のアビラス王国の発展は、先代国王の人徳の賜物だ。
(ああ、そうだ。そんな方だからこそ、心より尊敬し、忠誠を尽くしてきたのだ)
「…そうだな。あの方なら、きっとそうなさるはずだ」
迷いは吹っ切れた。
「そちらの条件を受け入れよう。終戦の提案をしてくれたあなた方魔物に、心からの感謝と敬意を」
立ち上がって右手を左胸にあて軽く頭を下げると、シヴァが頷いた。
「よくぞ決断してくれた。恐らくあなたは裏切り者と誹られる事になるだろう。その上、この先何年も愚王の後始末に追われる事になる。辛い立場にさせて申し訳ない」
「いや、もとより覚悟の上だ」
「クリフォード将軍。あなたは私が信頼できる数少ない人間の1人だ。決して見捨てる事はしない。我々も出来るだけ協力しよう」
「協力?」
彼等が一体どんな協力をするというのだろう?
不思議に想って首を傾げると、シヴァは不敵に笑った。
「いかにあなたが勇猛果敢な武人であっても、1人で王宮に乗り込むのは心許ないだろう。あなたと共に第2砦と戦った約1万の兵士達をお返しする」
「なっ!?それは、どういう…!?」
「石化した者は術を解けば元に戻る。それにベルガーは我が軍きっての猛者でな。相手の命を絶たずに倒す事など朝飯前だ。彼に倒された兵士は、仮死状態で時を止めている。数が多いので数日かかるが、全ての兵を治療して健康な状態であなたにお返しすると約束しよう」
「彼等はまだ生きているのか!?それが本当なら有り難いが…はじめから兵士達の命を交換条件にしていれば、話が早かったんじゃないのかね?」
そう言うとシヴァは首を振った。
「兵士達の命を盾に脅したら、あなたからの信頼は得られなかっただろう。それに兵士達の命を救ったのは他でもない、あなただ。あなたが苦渋の決断をしたからこそ、我々もあなたを信用する事にした。あなたが終戦条件を飲むかどうかは、我々にとっても賭けだった。わかりますか?あなたは既に多くの命を救ったのですよ」
「ええ。それに兵士達の家族も救われました」
シヴァとミホの言葉を受け、将軍の目から再び一筋の涙が溢れた。




