それぞれの正義
人間が魔物にとって危険で忌むべき存在?
私はシヴァの言葉に物凄い衝撃を受けた。
「でも、魔物って人間を襲って食べたりするんでしょ?」
「言っておくが、何も好き好んで襲ったり食べたりしてるんじゃないぞ。
向こうから我々のテリトリーを荒らしにくるんだ。徒党を組んで、武装して殺そうと襲いかかってくる奴らに手加減なんか出来るか。こちらも命懸けだ」
「正当防衛って事?」
「そうだ。その証拠に、魔物が人間の国に侵攻した事は無い。
餌として襲うなら、城壁を乗り越えればすむ」
「強力な結界が張られていて、中に入れないとかじゃないの?」
「低級な魔族なら多少は影響があるかもな。
だが、あんな穴だらけの結界、あって無いようなもんだ」
シヴァが鼻で笑った。
「おまえ、自分の家に知らないやつが入ってきて、いきなり武器を持って襲ってきたらどうする?」
「逃げる」
「子供が襲われたら?」
「そんなやつ、刺し違えてでも殺してやるわ!」
「我々も同じだ。言葉を持たない魔獣ですら親子の情はある。
人間は弱い個体を狙う。魔獣の子供など、恰好の標的だ。
何もしてない我が子が寄ってたかって攻撃されているのを見た親が、怒りに任せて人間を噛み殺したとして、それは果たして悪と言えるか?」
その場面を想像して、私は黙って首を横に振った。
「だが、仲間や家族を失った人間にとってはそうじゃない。今度は敵を討ちに、また群れをなして襲ってくるんだ。そうやって、何年も負の連鎖は続いている」
私は何も言えなくなった。シヴァの言う通りだ。命のやり取りに、どちらがいいも悪いも無い。
いままで私は『魔物=悪』と勝手なイメージをしていた。
けれどそのイメージは、ゲームや小説や漫画など、誰かからの受け売りで作ったものだ。
私はガロンを見た。
他人と違う事で自分を理解されない悲しさも、寂しさも知っている。けれど、美味しい物を食べて喜び、嬉しければ笑い、誰かの為に怒る事の出来る素直な子だ。
一緒に過ごしてきたからよくわかる。彼らは悪ではない。私達と同じなのだ。
「でも、それならどうして私を助けてくれたの?人間は嫌いなんでしょう?」
「魔王様に説明した通りだよ。ガロンが気に入ったからだ。
あの子にとって初めて見た人間がお前だからな。
話に聞いてたのと違うから興味が湧いたんだろう」
ああ、そういえば「お前人間か?」って聞かれたっけ。
「それにお前は魔石を使わないからな。
料理も洗濯も掃除も、全て自分の手でやってるだろう。
それだけでも好感はもてるさ」
魔石か・・・
どういう風に使っているのか実際に見てみない事には分からないけれど、電気のようにエネルギー源として使っているのかもしれない。それなら生活を便利にするのに必要なのも頷ける。
だけど、一般の人はそれらがどういう経緯で出来ているのか、果たして知ってるのだろうか?
少なくとも私はシヴァの話を聞いた後では、使いたいとは思わなかった。
いつか、魔物と人とが分かりあえる日が来るといいのだけれど。
出来れば、蓮が戦争に巻き込まれる前に・・・
ああ、蓮。どうか勇者になんかならないで。