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謁見の間にて5

 私達二人は、お互い口には出さないが、それぞれ欠けたピースを埋めるかのように、親子ごっこをしている。私は蓮の代わりにガロンを可愛がり、ガロンは彼の母親代わりに私に甘えているのだ。


 ガロンの事を、シヴァは聞き分けの良い子だと言った。

 旦那が亡くなってから、蓮も聞き分けが良い子になった。

 本人に自覚はないと思うが、きっとそれは寂しさの証拠だ。親から与えられる愛情を逃すまいとする、子供の本能だと思う。


 蓮。

 いまここにあなたがいたら、その心ごと、ぎゅっと抱きしめてあげたい。

 きっと照れて嫌がるだろうけど。・・・恐らく、いや確実に、本気で嫌がられるだろうけど。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「プリンとは何だ?」

 

 ガロンのナイスアシストにより、魔王がプリンに興味を示した。

 よし、ここから名誉回復のチャンス!後はシヴァのプレゼン次第だ。


「ミホが作る料理の一つで、私とガロンの好物なのですが、滅多に口にできません。本日は魔王様への手土産に特別に作ってもらい、こちらにお持ちしました」


 シヴァがプリンの入った籠を掲げると、幹部の一人が歩み出て受け取った。

 

「全部で9つあります。皆様の分もありますのでどうぞ。必要なら私が毒味致しますが?」


「あ、じいちゃん、ずるい。俺も食べたい!」

 

 ・・・どこまでも食い意地のはった二人だ。血縁でもないくせに、こういう所はよく似ている。


「必要ないとは思いますが、念のため私が先に頂きましょう。ただの調味料を武器にするような人物が作った物ですからな」


 背が低く、あご髭を長くのばした人型の魔物が進み出た。ドワーフだろう。彼はプリンの器を受け取ると、蓋にしているアルミホイルを興味津々で眺めた。


「これは?紙のように薄いが、鏡のようでもあるな。こんな物は見た事がない。何でどうやって出来ている?」


 ドワーフが私に質問してきた。まさか、アルミホイルに興味を持たれるとは思わなかった。

 えーと、アルミホイルは商品名だっけ?銀紙とも言うけど、別の総称で言うと・・・


 「アルミ箔というものです。詳しくは知りませんが、確かアルミニウムという鉱物を薄くのばして作ってあると思います。熱の伝導率が良く、水分も通さないので、食べ物を包んだり、料理に使ったりします」


 ドワーフはアルミホイルの蓋をとったが、いつまでたってもプリンに手を付けない。アルミホイルの薄さに感心し、手でちぎれる事に驚いていた。

 

「これが鉱物で出来ているのか。実に素晴らしい技術だ。こちらの人間よりも進んだ高度な文明を持っているようだな」 

 

 アルミホイルだけで、こちらの文明よりも優れていると分かるとは。

 彼は観察力に優れた頭の良い人物らしい。

 ようやく匙をとりプリンを一口食べると、驚いた顔で私を見た。


「旨い。これは何で出来ているんだ?」


「卵とミルクと砂糖です」


「それだけで、こんな物が作れるとは」


 ドワーフは魔王に向き直った。


「魔王様。食べても問題ありません。他の者にも勧めても?」


「好きにせよ」


 魔王と幹部全員にプリンが行き渡った。

 ベルガーと呼ばれた虎はプリンを手渡されると匂いを嗅ぎ、疑わしげに私を見ていたが、一口食べると気に入ったらしく、あっという間に平らげた。


「なるほど。ガロンの為だけではないらしいな。胃袋を掴まれたと見える」


 魔王が面白そうに言った。 


 しまった。ベルガーに気を取られて魔王がプリンを食べるレアな姿を見過ごしてしまった。とりあえず、プリンは気に入られたようだから良かったけど。


「はい。出来ればミホをこのまま我が家で保護することをお許し願いたい」

 

 シヴァがそう言って頭を下げると、ドワーフが魔王の前へ進み出た。


「魔王様、私もこの人間に興味がでてきました。彼女の世界の文明や技術は素晴らしい。彼女から色々話を聞き、我々の技術に取り入れたいと思います」


 おお!思わぬところから援護射撃が!


「なるほど。良かろう。本日より一宮美穂(いちみやみほ)を我が庇護下に入れ、森で暮らす事を認める」


 やった!認められた!これからもシヴァとガロンと暮らせる。生きて行ける!

 蓮に再び会える可能性が強まった!


「ありがとうございます」


「ご英断、感謝致します」


「魔王様、ありがとうございます」

 

 3人でそれぞれ感謝の言葉を述べた後、私とガロンは再び抱き合った。

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