謁見の間にて3
静かだが威厳のある声に、虎が動きを止めた。という事は、魔王だろうか?
声の聞こえた広間の奥へ目を向けると、玉座の周りに数人の魔物がおり、こちらを見ていた。魔王の側近や幹部達だろう。玉座は相変わらず暗くて見えない。
「シヴァ!ガロンは大丈夫!?」
ガロンが心配だった私は、キッチンから出てシヴァとガロンの側へ駆け寄った。
シヴァが回復魔法をかけたのか、胸の傷は綺麗に塞がっていたが、ガロンは柱にもたれて目を瞑っていた。
「とりあえず傷は塞いだから大丈夫だ。自分よりも格上の相手に向かうなんて無茶な事をして。相手が手加減してくれたから助かったようなものだぞ。留守番するように言っておいただろう」
「じいちゃん、ごめんなさい」
どうやらガロンはシヴァに叱られてしょんぼりしていただけのようだ。無事と分かってホッとした。
「ちょっと、そんな言い方しなくてもいいでしょ。ガロン。助けてくれてありがとう。かっこ良かったよ」
そう言って頭をなでると、ガロンは目を開けて私を見た。
「でも俺、負けちゃったよ」
「うん。でも相手が自分より強いと分かってても、私を助ける為に向って行ったんでしょ?ガロンは私にとってヒーローだわ」
「・・・そうか。なら良かった。・・・?変なの。負けたのに気分いいや」
ガロンは嬉しそうに目を細めた。
(ああああああああ!うちの子可愛い!!)
ガロンの素直さに感動していると、シヴァに軽く小突かれた。
「お前もだ。なんて無茶な真似をするんだ」
「だって、ガロンが傷つけられてたから・・・頭に血が上って・・・」
「くれぐれも粗相のないようにと言ったはずだが・・・よくまあこれだけ大暴れしてくれたな」
シヴァが深くため息をついた。
(いや、だったらシヴァがさっさと何とかしてくれれば良かったんじゃ・・・?)
「もうどうにでもなれだ。魔王様にご挨拶に行くぞ。ガロン、お前も来なさい。二人とも、私か魔王様が許可するまで口を開くんじゃないぞ」
そう言うと、私達の先頭に立って玉座の方へ歩き出した。
私はガロンと手をつなぎ、並んで広間を進んだ。
側近達の視線をビシバシと感じた。
玉座の前でシヴァが跪き、私達もそれに倣った。空気が重くて顔をあげられなかった。
「魔王様、お久しぶりです。先程はうちの者達が騒ぎ、失礼致しました」
「しばらくぶりだな、シヴァ。元気そうで何よりだ。なかなか面白い家族のようだが、紹介してもらえるか?」
先程と同じ、静かで威厳のある声がした。やはり魔王の声だったようだ。意外と若い声だった。
「はい。こちらのリザードマンの子供が私の養子のガロンです。ガロン、魔王様にご挨拶を」
「魔王様、初めまして。ガロンと言います。」
ガロンは顔を上げ、緊張しながら挨拶をした。
「私の知ってるリザードマンの特徴と随分違うようだが・・・ガロンよ、いくつになる?」
「13歳です」
「ほう、13であの戦いぶりか。なかなか見事だったぞ」
ガロンは褒められて照れていた。
「それで?シヴァ、そちらの人間は何だ?」
ついに私の話題になった。私はドキドキしながら声をかけられるのを待った。
「ミホといって、少し前にガロンが森で拾ってきました」
「ほう、森で。ガロン、本当か?」
「はい、森の中で怪我をして動けなくなってたので、連れて帰りました」
「ふーん、随分と気に入っているようだな。その人間はお前の何なんだ?」
褒められたおかげで、すっかり気分の良くなったガロンは元気いっぱいに答えた。
「はい。ミホは俺の非常食です!」