謁見の間にて
謁見の間には魔王様だけでなく、数人の幹部も控えているとの事なので、人数分のプリンを用意する事にした。
どうせなら、魔王様だけでなく多くの魔物に好印象を与えたい。第一印象は大事である。
さすがにダッチオーブン丸ごとのプリンというのは品がないので、シヴァに形や大きさの希望を伝えて、陶器のカップを1ダース用意してもらった。
カップに茶漉しをおき、静かにプリン液を注ぎながら考える。
未だかつて「魔王」に武器を持たずに対峙した人間はいるのだろうか。
将来、自分の息子の敵となる相手の元へ、まさかプリンを携えて行く事になろうとは・・・
(人生って何が起こるか分からない)
前回とは少々作り方が違うので、多めに作って試してみる事にした。
ダッチオーブンに布を敷き、2〜3センチ水を張って、アルミホイルで蓋をして3個のカップを入れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
結果は大成功だった。
前回よりも滑らかでとろける食感になり、試食したシヴァとガロンも絶賛してくれた。
(よし、これならいいだろう)
残りのプリンも同じように作る。
蒸気が中に入らないよう、アルミホイルできっちり蓋をしたので、表面がまるで鏡のようだった。
「あっ、そうだ。謁見は夜って言ってたよね?夕飯は早めにした方がいい?」
「いや、普段通りでいい」
「でも、移動しなきゃならないでしょう?」
「問題ない」
(・・・大丈夫なんだろうか。遅刻とかしなきゃいいけど)
◇◆◇◆◇◆◇◆
夕食の片付けの後、冷やしていたプリンを籠に詰めた。
いつでも出かけられるように身なりを整えていると、シヴァがやってきて籠を持った。
「準備できたようだな。では行くか。くれぐれも粗相のないようにな」
そう言って、キッチンのすぐ横にある裏口のドアを開けた。
「・・・嘘。何これ」
私はドアの前で立ち尽くした。
美しい広い空間が目の前に広がっていた。
天上は高くアーチ型になっており、どっしりとした石柱に支えられている。壁には青い光が灯り、床の中央に敷いてある赤い絨毯が、奥の玉座と思われる豪華な椅子まで伸びていた。玉座は高い位置にあるが、暗くてよく見えなかった。
(まるでゲームの世界みたい)
私の脳内で、某人気ゲームのBGMが流れていた。
「許可を得て、一時的にこのドアを謁見の間に繋げさせてもらった。行くぞ」
シヴァが広間へ足を運び、私もあわてて後に続いた。
広間に人(魔物)の気配はなく、静寂の中シヴァと私の足音だけが響く。
「ミホ!!」
後ろからガロンの声が響いた。
驚いて振り返ると、巨大な虎が牙を剥いて私に襲いかかろうとしていた。