非常食からの昇格
食は生活の基本だ。
毎日おいしい料理を食べたいというのは、当たり前の欲求だと思う。
これは魔物にも当てはまるのでは、と思った私は、手っ取り早く彼らの胃袋を掴む事にした。
「好きなのを食べろ」
朝食に用意されていたのは、昨日もらった果物と、籠に山のように盛られたアボカド程の大きさの卵だった。
ガロンは蛇のように生卵を殻ごと丸呑みし、喉でつぶして中身だけを食べ、後から殻を吐き出していた。
生卵は栄養価が高いので、育ち盛りのガロンにはぴったりなのだろうが、なかなかワイルドである。
シヴァは卵には手をつけず、果物をスライスして上品に食べていた。
二人とも、素材をそのまま楽しむスタイルのようだ。
キッチンは一応あるが、あまり使われた形跡がない。
「調理・加工」という言葉は彼らの辞書にはないらしい。男所帯あるあるだ。
私は自分のリュックの中から調理道具を取り出した。
油や塩・胡椒・砂糖など調味料も残っている。
とりあえず、いくつか卵料理を作ってみるか。それで二人の反応を見てみよう。
ゆで卵を6個と甘い卵焼きを作る事にした。
鍋にお湯を沸かし、卵をそっと入れる。
ボールに卵を割り入れ、砂糖と塩・胡椒で味付けしてかき混ぜる。
スキレットに卵を流し込み、箸を使って巻いていると、ガロンは食べるのをやめて興味津々に覗き込んでいた。こんなところは、人間の子供と一緒だ。
出来上がった卵焼きの切れ端をつまんで味を見る。
(うん。美味しい)
皿に盛りつけ、3人分を均等にカットしてテーブルの上に置いた。
「どうぞ、召し上がれ」
ガロンは目を輝かせて、シヴァは少し訝しんだ様子で食べてくれた。
一切れ食べた瞬間、二人は顔を見合わせ、顔をほころばせた。
「うまいっ! 何だこれ? 本当に卵か?」
「200年以上生きてきたが、こんな料理は初めて食べたな。悪くない」
(よし、掴みはオッケー。次はゆで卵だ)
一つはシンプルに塩で、もう一つはマヨネーズで。
「さっきのと味が違う! これもうまい! どっちも好きだ」
「驚いたな。こんな短時間で、同時に2つの料理を作るとは」
「おまえ、凄いな。魔法も使わないのに料理できるなんて!」
ガロンが尊敬の眼差しで見てくる。
「いや、料理するのに魔法は必要ないでしょ。そもそも私、魔法使えないし」
「魔法を使えない人間でも、魔石を使って生活魔法に利用したりするんだろう?」
「そうなの? 私、こちらの世界の人間じゃないし、昨日、召喚されたばかりだから知らないのよね」
「なんだと? どういう事だ?」
そこで私は自分の身に起こった事を話した。
息子と二人、異世界から無理矢理こちらに召喚された事。
息子を勇者にしようとする聖職者に抗議したら、危害を加えられ森に置き去りにされた事。
「そうして、動けなくて死を覚悟してた時に、ガロンに会って助けてもらったの。
本当にラッキーだったわ。おかげでこうして生きてるんだもの」
ありがとう、と改めてお礼を言うと、ガロンは嬉しそうに目を細めた。
「女一人で森にいた理由が分かった。災難だったな。それにしても、勇者の母とは・・・」
「これ、甘くて好きだ。また作ってくれるか?」
思案中のシヴァとは対照的に、ガロンが暢気に聞いてきた。
「もちろんよ。材料や器具が揃えば、他にももっと色んな料理を作れるわ」
卵の料理だけでも10以上のレパートリーがあるんだから。
そういうと、ガロンよりも先にシヴァが口を開いた。
「必要なものは何でも言ってくれ。できる限り揃えよう。今後の食事も頼む」
(隊長! 作戦成功であります!!)
私は脳内で敬礼をした。
生き延びる可能性を少しは増やせた。
一緒に食卓を囲むと会話が増える。
美味しい料理は、コミュニケーションを円滑にする。
毎日、食事を共にする事で、お互いの事を少しずつ理解できればいい。
(それにしても、シヴァって長生きだったんだ。ガロンがじいちゃんって呼ぶのも納得だわ。
さて、お昼は何を作ろうか?)
こうして私は、非常食から食事当番に昇格したのだった。




