調査団
翌日、いつもの時間に訓練場にやってきたエルマーは、アルヴィン隊長に呼び止められた。
「エルマー、今からフィリップと一緒に神殿に行ってくれ。レンの報告書を受けて、北のエリアに調査団が派遣される事になった。詳しい話を聞きたいそうだ。訓練は午後からでいい」
「わかりました」
フィリップは25歳という若さだが、その高潔な人柄を見込まれて神殿の調査団に所属している。調査団の任務で首都を離れる事も度々ある為、特定の弟子を持っていない。
彼は槍の名手でもあり、演習試合ではいつも見事な技を繰り出して勝利を収めていた。故に、見習いの少年達にとって憧れの存在だ。
エルマーも例外なく彼のファンで、神殿に行く道すがら色々と槍術について話す事が出来、とても感激した。
初めは槍の話ばかりしてたけれど、そのうち話題はレンの事になった。
「エルマー、君はレンと親しいのか?」
「はい。最近は良く一緒に話してます」
「彼は何歳だ?」
「13歳です」
「13歳か。彼の指導は誰が担当していたかな?」
「副隊長が指導されてます」
「そうか、副隊長か・・・」
「レンに関心があるんですか?」
「ああ。昨日彼の書いた報告書を読んだ。内容もさることながら、彼の考察力に驚かされたよ。通常、我々調査団が任務に赴く時は、長期にわたる事が多い。問題の原因追究に時間がかかるからだ。だが彼は既に問題が水であると見抜いた。実に優秀だ」
「そうですね。こちらの習慣に疎いくせに、ものすごい知識を持ってたりします。昨日も泥水を綺麗にする道具を作ってたし」
「何だって?魔道具を作ったって事か?」
「いえ、使ったのは小石と木炭と綿です。それを深めの桶に順番に重ねていって、そこに泥水を通すと、不思議な事に透明な水に変わったんです。孤児達は奇跡が起きたと大騒ぎしてました」
「・・・そんな事は報告書に書いてなかった。向こうに着いたら、報告書に目を通してくれるか?昨日の出来事で、書き漏れている事があれば教えて欲しい」
「わかりました」
◆◇◆◇◆◇
神殿の会議室に通されたエルマーは、レンが書いたという報告書を読んで素直に感心した。こんな風にわかりやすく書く事なんて、自分には出来そうもない。フィリップが関心をよせるのも無理ないだろう。
「エルマー、その報告書の内容に間違いはないか?」
調査団長に問われ、エルマーは顔を上げた。
「はい。此処に書かれてある通りです。ですが、書いてない事がいくつかあります。
先程フィリップさんにお話ししましたが、病の原因が水だと考えたレンは、その場で泥水を綺麗な水に変える装置を作りました。ただし綺麗になったのは見た目だけで、沸かして飲むようにと指導してました。恐らく今彼らは綺麗な水を飲んでいるはずです。実際にため池の水を調査する事をお願いします。
あと、院長のマーサさんは、2名の子供が亡くなっている事を、レンに指摘されるまで話しませんでした。彼女は卑屈なまでに慎ましい。支援を受ける事を後ろめたく思っている節があります。それが間違った認識だと、彼女に教えて下さい」
エルマーの発言に会議室がざわめいた。
「泥水を綺麗な水に変える装置を作った?」
「レンは子供が亡くなった事を知ってたというのか?」
「知ってたわけじゃありません。ただ彼は神殿の手伝いで、孤児院関連の書類を見る機会があった。2名の入所者があったのに、支援申請書類の人数は半年前と変わってなかったから、おかしいと思ったみたいです。レンはなぜかと院長に質問して、答えを引き出したんです。それから、水を綺麗にする装置は、以前父親と作った事があると言ってました」
調査団長が片手を上げてざわめきを鎮めた。
「院長が慎ましい生活に固執しているという事は、先程レンからも聞いた。君は彼女を辞めさせるべきだと思うかね?」
エルマーは少し考えていった。
「わかりません。ですが、子供達に深い愛情で接していると思います。街の人々からの心ない言葉で、彼女は心も弱っています。全員が健康になって働けるようになったら、考え方も変わると思うんですが・・・」
調査団長が満足そうに頷いた。
「レンも同じ事を言っていたよ。彼は対策案として、定期的に医師に健康状態を診てもらう事と、子供達でも出来る仕事を斡旋する事を提案してきた。君達のような将来有望な若者がいて、実に嬉しいよ」
その言葉にエルマーは少し気恥ずかしい思いをした。将来有望なのはレンだけで、自分はおまけでしかない。
「レンは君が一緒にいてくれて非常に助かったと言っていた。彼は間違いなく、この国に必要な人物となるだろう。エルマー、これからもレンを支えてやってくれるか?」
「はい。そのつもりです」
その気持ちに嘘はないが、エルマーの胸には複雑な思いが込み上げた。
孤児院の救済について話し合っていたはずなのに、いつの間にかレンの事になってしまった。まあ、原因は主に自分にあるのだが・・・
(こんなに周りの大人達から期待されて、レンは大丈夫かな?そのうち、何だかとんでもない使命を任されるんじゃないだろうか?)
エルマーは会議室に掲げられた女神様のモチーフを見上げた。
(レンの笑顔が消えてしまう事がありませんように)
そう願わずにいられなかった。




