レポート
東のエリアに帰ったレンは真っ直ぐに神殿に赴き、今日の出来事を報告する為に神官の部屋を訪れた。が、残念な事に神官は留守だった。王宮へ呼ばれたという。
レンは仕方なく報告書を書く事にした。しかし今まで自分が目にしてきた書類は、主に計算用の数字が並んだ物ばかりだった為、どういう風に書くべきかわからなかった。
(とりあえず、社会科のレポートの要領で書いてみよう。神官様に伝わればいいんだし)
レポートを書くのなんて久しぶりだった。学校で課題を出された時はあんなに憂鬱だったのに、自分から率先して書く日が来るなんて思いもしなかった。
(自分の見た事や感じた事を、きちんと相手に伝わるように書くって難しいな。もっと真面目に取り組んでおけば良かった。担任の吉田先生は、いつも何かしらコメントを書いてくれたっけ)
レンは時間をかけて報告書を書き終えると、クリスタルと一緒に司祭へ手渡した。
「神官様に頼まれたクリスタルをお持ちしました。それと、北のエリアでの今日の出来事を報告書にまとめました。神官様がお帰りになったら一緒に渡していただけますか」
「わかりました。必ず渡しましょう。ご苦労様」
(神官様、読んでくれるかな。ちゃんと伝わればいいんだけど)
本当は直接話したかったのだけれど、もうすぐ日が暮れそうだったので、レンは仕方なく家に帰った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
王宮より神殿に戻ったリアムを、司祭がニコニコしながら出迎えた。
「お帰りなさいませ。国王のご機嫌はいかがでしたかな?」
「いつもとお変わりありませんでした。留守中、何かありましたか?」
「レンが無事任務を終えてクリスタルを持ち帰りました。一緒にこれも預かっております」
そういってクリスタルと一緒に渡されたのは、筒状に丸められた紙だった。
「今日の出来事を報告書にまとめたそうです。お時間のある時にでも読んでやって下さい」
「レンが報告書を?」
(レンには簡単な使いを頼んだだけだ。一体何を書いたんだろう?)
訝しんだリアムは、その場で報告書を広げた。
報告書を読み進める内に、リアムの表情が驚きから悲しみへ、そして怒りに変わった。
「緊急会議を始めます。至急、調査団のメンバーと北のエリアの支援担当者を集めて下さい」
司祭は驚いた。
「今からですか?報告書には一体何が書かれてあったんです?」
「我々が何年間も見落としてきた事です。書記にこの報告書の写しをとるように指示して下さい。早急に事実確認をして対策をとらねば」
神官に返された報告書を読んだ司祭は、慌てて書記を呼びに走った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『北のエリアの孤児院の現状報告と医療支援のお願い
今日、北のエリアにクリスタルを取りにいった時、乗り合い馬車から降りてすぐに孤児院の子供達に会いました。彼らはガリガリに痩せていて、飢えているように見えました。
もしかしたら食料が足りないのかと心配になり、孤児院を訪ねました。
そこで院長のマーサさんに会い、お話を伺いました。
マーサさんによると、神殿からの支援物資はきちんと届いているという事です。
毎日子供達に温かい食事を与える事ができてとても感謝していると言っていました。
けれど子供達も職員の人も皆痩せており、職員の1人は病で臥せっていました。
施設に住む全員が、腹痛と慢性的な下痢、そして発熱に苦しんでいます。
これまで健康な人も、孤児院に来ると痩せて病気がちになってるそうです。
しかし医者に診てもらう事をせず、毎年冬を越せない子供達がいるという事です。
残念な事に、今年既に2人の子供が亡くなっていました。
こんな状態なのに、支援の要請がなかったのには理由が2つあります。
1つは、マーサさんが院長になって日が浅く、要請を出していい事を知らなかった事。
もう1つは、街の人達から厄介者扱いされている事です。街の人達は孤児の事を、税金で養われているただ飯喰らいとか、役立たずとか、躾がなってないとか、色々酷い事を言っていました。
でも、そんな事はありません。
病気がちで外に働きにいけないだけで、施設内で内職をしていました。掃除も綺麗にしてあるし、子供達はきちんと挨拶が出来ます。小さい子も水汲みに行っています。
病気の原因は、彼らの飲んでいる水にあると思われます。
孤児院では近くのため池から汲んできた濁った水を、そのまま飲んでいました。
施設に来る前は綺麗な水を飲んでいたので、安全の為に一度沸かして飲むという事を知らなかったようです。
このような現状なので、早急に医者に診てもらい、治療が必要だと思います。
どうか調査団を派遣して下さい。
職員の人達は、病気を理由に孤児院を辞める事が出来るけど、子供達は他に行くところがありません。働きたくても、今のままではどこも雇ってくれません。
どうか、子供達を助けて下さい。
イチミヤ レン』




