バレッタと決意
目が覚めたら、ガロンの真正面のドアップがあった。
「うわっ、ビックリした!」
どうやら私が起きるのを今か今かと待っていて、覗き込んでいたらしい。
「よく眠れたか?腹へってないか?これ食うか?」
どうやらガロンは、責任もって私の世話をしてくれる気満々のようだ。手に持った果物を見せながら、色々と質問してくる。
「おはよう。おかげでよく眠れたよ。とりあえず顔を洗って着替えるね」
ガロンの作ってくれた寝床は、藁で丸い鳥の巣のような形を作った中に厚手の布を敷いた物で、正直なところ寝心地はあまりよくなかったが、肉体的にも精神的にも疲れていたので、泥のように眠れた。
よくよく考えれば、魔物の住処で一夜を明かしたのだ。
しかも見られてるのに気づかない程、暢気に寝ていたなんて、我ながら神経が太いというか何というか・・・
寝床の横に置かれた台の上に、水の張った洗面器が置いてあった。
シヴァがいてくれて良かった。こういう生活習慣は人間に近いらしい。
身なりを整えるため、リュックから着替えなどを取り出した。
(着替えを余分に持ってきてよかった。
とりあえず、Tシャツだけでも着替えて、後で洗濯しよう)
そんな事を思いながら髪をとかそうとした時、左耳辺りにつけていたバレッタがない事に気づいた。
去年の誕生日に蓮からプレゼントされた物だ。
淡いピンクと白の大小の淡水パールが編み込まれたデザインで、周りからの評判も良かった。
「買う時、女の人ばっかりで少し恥ずかしかった」と言ってたっけ。
それでも一生懸命選んでくれた蓮の気持ちが嬉しくて、お守り代わりにいつでもつけていたのだ。
慌てて寝床を確認したが、どこにもない。
(麻袋に押し込められた時?それとも森の中で落とした?)
どちらにしろ、もう見つからないだろう。
また一つ、蓮とのつながりを絶たれた気がして涙がこぼれた。
(蓮は、もう目覚めたかしら。私が死んだって聞かされたのかな・・・)
知らない世界で、突然ひとりぼっちにされた息子の気持ちを思うと、胸が張り裂けそうだった。
(せめて、無事を知らせられたらいいのに)
私が魔物に殺されたと聞かされたら、きっとためらわず勇者になる道を選ぶだろう。
日本での便利な生活と違い、この世界では不便も多くて苦労するだろう。
色々と危険な目に遭うかもしれない。アルヴィンは約束を守ってくれるだろうか。
心配は尽きないが、再び蓮に会う為には、ひとまず自分が生き延びなくてはならない。
弱気になった自分を奮い立たせるため、私は両頬をパンッと叩いた。
昨日は死を覚悟したけど、奇跡的に生き延びた。
それなら、とことん生きてやる。
そして、蓮をあの卑劣な奴らから必ず取り戻す!
よし、この世界で生きる目標が決まった。
後は、達成できるように努力あるのみ!
こうして、私の孤独な戦いが始まったのだった。