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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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氷菓

 アイスが食べたい。

 夏に熱い(かまど)の前に立ちたくない。

 クーラーも扇風機もない所で、アイス無しに夏を乗り切れる気がしない。


 氷菓を作る事にしたのは、こんな不純な動機からだった。

 去年こちらの世界に来たばかりの頃は、森の中の家で療養しながらのんびり過ごしていたので、そこまで暑さを感じる事はなかった。

 が、今年は違う。

 暑い中、さらに熱い(かまど)の前に何回も立たなければならないのだ。

 冬の間は良かった。温かい工房で快適に菓子を焼く事が出来た。

 しかし、初夏を迎える頃、流れる汗を拭きながら確信した。

 このまま夏になったら、確実に脱水症状で倒れてしまう、と。

 危機感を抱いた私は、それらしい理由をつけて氷菓を売り出すことを提案した。

 以下、シヴァに代筆してもらった企画書だ。


 〜新商品(氷菓)についての提案書〜


 元いた世界では、夏場はケーキの売り上げが落ちると聞いた事がある。

 また最近では、甘い菓子パンを売る店も出てきたらしい。

 恐らくうちの菓子を意識していると思われる。

 味覚の鋭い人間なら、材料に何が使われているかわかる。

 日々、ドルチェの菓子を研究しているに違いない。

 いずれクッキーやケーキを売る店も出てくるだろう。 

 競合店との差別化を図る為に、季節商品として氷菓を売り出す事を提案する。


 ○アイスキャンディ(果汁を凍らせたもの)

 庭で採れた果実を使う事でコストを抑えられ、安価で提供できる。

 さっぱりとしており、暑気払いに向いている。


 ○アイスクリーム(ミルク、卵を混ぜて冷やし固めたもの)

 契約農家から仕入れるミルクや卵を効率よく利用できる。

 口当たりがよい。

 味のバリエーションが豊富に作れるので、リピーターを見込める。


 上記の二つを夏の主力商品として展開したい。

 ついては、氷菓を作る為、また販売する為に、氷点下の温度を保つ事の出来る機材と、金型の提供を要請する。



 要するに、アイス作って売りたいから冷凍庫下さい、という事なんだけど、きちんとした書面で願い出る必要があったのである。

 実際食べてもらった方が説得力があるから、製氷機(シヴァ)に協力してもらっていくつか試作品を作り、企画書に添えて魔王様(オーナー)に願い出たら、快くOKが貰えた。

 この時、私は知る由もなかったのだけど、機材=冷凍庫を作る為に、物凄く貴重な魔鉱石を使用したらしい。

 思った通りこの企画は大当たりし、二つの氷菓は毎日完売した。

 狙った訳ではなかったが、オーティスの卑劣な営業妨害を上手く(かわ)す事も出来た。

 自分の目論見通(もくろみどお)り事が運び、私はしばらく気分よく過ごした。

 全く火を使わない訳ではないが、暑さは軽減し、何より作業負担が減ったのだ。

 アイスキャンディに至っては果汁を凍らせるだけですむから楽だった。

 アイスクリームの味のバリエーションを考えるのも楽しかった。 


 でも、世の中そんなに甘くないのだ。

 ドルチェの新商品は、さらなる嵐を呼ぶ事になった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「製氷機《シヴァ》」wwww
[一言] 一難去ってまた一難。魔王様がけっこう力を入れているのが、嬉しくなりますね。アイスクリーム、食べたくなりました。
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