反撃開始3
女神様の日の朝、ダンは工房に用意された菓子を見てビックリした。いつもの菓子の代わりに、見た事のない棒状のケーキが並べてあったからだ。
「え?小麦粉がまだあったのか?」
「まあ、少しは備蓄分があるけど、そのケーキは小麦粉を使ってないわよ。食べてみて」
ケーキをつまんで一口食べたダンは、目を丸くした。
「なんだこりゃ!?ふわっとして、しゅわっとして、それでいてしっとりしてて。おまけにさっぱりとした甘さだ。美味い。もっと食べたくなる」
「ふふふ。ありがとう。シヴァにも好評だったのよ。何で前は作らなかったんだ?って言われたわ」
「全くだ。すげぇな。これが前から考えてた菓子か?」
「いいえ。昨日も言った通り道具が届くのは来週だから、それは新作のお菓子を作るまでのつなぎって訳。そのケーキは今週しか食べられない期間限定商品だって宣伝してきてね」
「定番にしてもいいと思うけどなあ。値段はどうする?」
「カップケーキと一緒でいいわ。あ、でも子供達用に小さいやつも用意してるの。これはクッキー一枚と同じ値段ね」
ちゃんと子供用を用意してるのがミホらしいな、とダンは思った。
「しかし、小麦粉を使ってないとはねぇ。材料は?」
「卵と砂糖とヨーグルト。材料はこれだけだから、コストも抑えられるの。商品名はヨーグルトスフレよ」
水切りヨーグルトをクリームチーズに見立てて、スフレチーズケーキを作ったのだ。
ケーキの種を天板に流し込み、焼き上がって良く冷ましたものをスティック状に切った。
食べやすいから、きっと客はその場で食べるだろう。そして、初めての食感に驚くはずだ。
人の多い中央広場だ。噂はあっという間に広まる。限定商品なら尚更欲しいと思ってくれるだろう。
沢山の売り上げを見込んで、親の仇のように一日中メレンゲを作り続けた結果、夜には腕が上がらず髪を洗うのにも苦労する程だった。
(今日が休みで本当に良かった。明日からペース配分考えよう)
右腕を揉みながら考えていると、ダンがキョロキョロと周りを見渡した。
「ところでシヴァは?」
「今日はガロンに会いに出かけるから、明日使うベリーを集めてくれてるの。今晩から仕込みをしたいしね。今日はプレーンのみだけど、休み明けからは味のバリエーションを変えて各エリアで売る予定よ。あ、西のエリア以外でね」
ダンはニヤリと笑った。
「オーティスの奴、当てが外れて悔しがるだろうな」
「そうね。でも、反撃はまだまだこれからよ。
あ、ちょうどシヴァの作業も終わったみたいね。さあ、朝食にしましょう」
(こんなもんじゃあ、生温い。せいぜい吠え面かかせてやろうじゃないの。
西のエリアのみんな、ごめんね。新作が食べたかったら、犯人探し頑張ってね。
そしたらオーティスのおじさんが、追いつめられてすっごく困るから)
「おう、ミホ。楽しそうだな。今度は何を企んでんだ?」
ラーソンが目玉焼きを受け取りながら聞いてきた。
「企むなんてとんでもない。地味〜なお菓子を焼くだけよ」
ふっふっふっ、と黒い笑みを浮かべるミホを、シヴァとラーソンが引き攣った顔で見ていた。
(お菓子が地味って言われた事、相当、根に持ってるな)
(いいか?今後地味って言葉は禁句だぞ)
コソコソと小声で話す二人につられて、ダンも思わず小声で質問した。
(何だ?何で二人はそんなに怯えてるんだ?)
シヴァが小さくため息をついた。
「恐らく、あのオーティスって男は商人としてはもう終わりだ。ミホを怒らせたからな」




