反撃開始2
その日、西の広場ではドルチェの屋台が出ておらず、菓子目当てにやってきた子供達は肩を落とす事になった。
「この間、あんな事があったしな。婆さんの具合が良くないんだろうか?」
「そういや、女神様の日にものすごいイケメンが店に出てたって噂を聞いたぜ」
「いや、花の日には婆さんが店に出てるのを見たぞ。ぴんぴんしてた」
「何だ、じゃあ今日はどうして来ないんだ?」
周りで屋台を出している者達が噂していると、一人の客がやってきて話に加わった。
「東の冒険者ギルドの近くで、ドルチェが大人向けの新商品をだしてたぜ」
「大人向け?」
「ああ。酒の入ってるパウンドケーキなんだと。ナッツやドライフルーツがたっぷり入った、見た目も華やかな贅沢なケーキを手頃な値段で切り売りしてて、冒険者達が美味そうに食ってた」
「へえ。そりゃあ俺も食べてみたいな。なんでこっちに来ないんだ?」
「治安が悪いからだとさ。犯人が捕まるまで、西の広場では商売はしないってよ」
その言葉に、広場がざわめいた。
「おいおい、滅多な事言うな。ここは城下町だ。首都で一番治安がいいっていわれてるんだぞ?」
「だが実際、ダンの母親が暴れた客のせいで怪我をした。母一人子一人、ようやく一緒に暮らせるようになった矢先にあんな事になったから、店の責任者がこちらでの販売を禁止したらしい」
「それ、本当?」
近くで聞き耳を立てていた子供達が、話の輪に加わった。
「もう、ドルチェのお菓子が買えないの?」
「今日で、スタンプいっぱいになるはずだったのに・・・」
もちろん、他のエリアに行けば買えるのだが、子供の足で気軽に行ける距離ではない。見る見るうちに萎れて行く子供達の様子に、大人達は胸を痛めた。
「なに、婆さんに怪我させた犯人が捕まれば、また店を開くさ」
「それっていつ?」
子供達に澄んだ目で問われ、大人達はうっ、とひるんだ。
「いつって・・・まあ、あの時広場にはたくさん人がいた。あの男は派手に暴れていたから、俺らを含めて目撃者は沢山いる。見つけたら、ふん縛ってやるさ」
その日、正午を回る頃には、ドルチェが西の広場で販売をやめたという噂が首都のあちこちで囁かれた。
◇◆◇◆◇◆
その日の夕方、オーティスの事務所に、一人の男が息巻いてやってきた。
「おいおい、冗談じゃねぇ。街中が犯人探しに躍起になってる。これじゃあ落ち落ち歩く事も出来ねぇ。どうしてくれるんだ!?」
「うるさい!元はと言えば、お前がしくじったからだろう!誰が怪我をさせろと言った!?」
既にオーティスの耳にも噂は届いていた。
自分の予想とは違う展開になったことで、オーティスはイライラしていた。
「お前のせいで西のエリアは治安が悪いと首都中の噂になっている。王侯貴族の暮らす、この西のエリアがだぞ!?どうしてくれるというのは、こちらの台詞だ!」
「しょうがねぇだろ。婆さんが邪魔しやがるから振り払ったら、勝手に転んだんだ。わざとじゃねぇよ」
「どちらにしろ、お前は面が割れている。しばらく街には出ず、大人しくしておけ」
「ああ。世話になるぜ」
オーティスは呼び鈴を鳴らして召使いを呼ぶと、男に屋敷の部屋を与えて世話するように言いつけて下がらせた。
一人になると、オーティスはため息をついて頭を抱えた。
(風評被害をばらまいて客足を遠のかせるはずだったのに、売り子に怪我をさせたせいで、世間の同情はドルチェに集まってる。あいつに依頼したのが失敗だった。金の損だ。忌々しい!!)
オーティスはグラスに酒を注いでグイっと一気にあおると、一息ついた。
(まあいい。小麦粉はこっちで押さえた。材料がなければ菓子は作れまい。すぐにこちらに泣きついてくるはずだ。あの生意気な若造の綺麗な顔が屈辱で歪む様をゆっくりと楽しむとしよう)
しかし、翌日の午後、彼は偵察に行かせた部下から思いもかけない知らせを受ける事となる。
「中央広場でドルチェが新作のケーキを売り出してます。物凄い行列です」




