新しい家族
「血の匂いで他の奴らが集まってくる前に帰るぞ」
恐竜もどきは私を左腕に、荷物を右腕を抱えて、ものすごい早さで森を走った。
私はなす術もなく、振り落とされないように、必死にしがみついた。
途中、犬のゾンビのような魔物の群れに襲われたが、恐竜もどきは走るスピードを緩めず、トゲトゲの尻尾で薙ぎ払った。
「凄い!強い!カッコいいー!」
「そうか。俺、カッコいいか」
恐竜もどきは嬉しそうに目を細めた。
既に、彼に対する恐怖心はなくなっていた。
心配するなという言葉通り、彼は私を食べるつもりはなさそうだ。
魔物に飼われるのは屈辱だが、もしかしたら生き延びられるのかもしれない。
てっきり洞窟にでも住んでいると思ったのに、彼の住処は意外にも普通の一軒家だった。
石造りの壁は蔦で覆われ、屋根には白い花が茂っている。
ヨーロッパの田舎にありそうな、インスタ映えしそうな家で驚いた。
私を降ろして扉を開けると、彼は意気揚々と言った。
「じいちゃん、ただいま。
ねえ、こいつ拾ったんだ。飼ってもいいだろ!」
そう言って、私を家の中に入れてくれた。
じいちゃんと呼ばれた人物を見て、私は驚いた。どう見ても20代にしか見えない超イケメンの青年だったのだ。
褐色の肌に白銀色したストレートのロングヘア。金色の瞳の涼しげな目元。
モスグリーンのゆったりしたロングチュニックと編み上げサンダルが、すらりとした体躯によく似合っている。
イケメンは私を一瞥すると、にべもなく言った。
「だめだ。元いた場所に返してきなさい」
イケメンに叱られて、恐竜もどきはしょぼんとうなだれた。
「でも、こいつ怪我してるし、腹も空かせてるし・・・」
「人間がこの森で生きていける訳がないだろう。すぐに死んでしまうぞ」
「俺がちゃんと面倒見るから・・・お願い」
「どうせ飼うなら、もっと頑丈な生き物にしたらどうだ」
「嫌だ。こいつがいい」
(なんだろう、この捨て犬を拾ってきた子供とそれを叱る母親のような会話は)
私を置いてけぼりにして二人は言い合いを続けていたが、とうとうイケメンが折れた。
「そんなに言うなら好きにしなさい。
自分で責任を持って最後まで面倒見るんだぞ。私は知らないからな」
「うん。じいちゃん、ありがとう」
「だが人間を保護するとなると色々と問題がある。他の奴らにその人間の事を聞かれたら、非常食だというんだぞ」
「わかった!」
恐竜もどきは嬉しそうに私を見た。
「良かったな!そうと決まれば名前を付けなきゃ」
「私の名前は美穂です」
「ミホデス?」
「み・ほ!」
「ミホか。おれはガロン。よろしくな」
私はイケメンを見た。
「あなたの事はなんと呼べばいいですか?」
「・・・シヴァ」
ガロンとシヴァ。
明らかに種族が違うけど、仲のいい家族のようだ。
私は二人に向かってお辞儀をした。
「助けて下さってありがとうございます。
これから、よろしくお願いします」
こうして私は、彼らのペット(兼非常食)として暮らしていく事になった。