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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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黒衣の魔女〜その後

少年達のその後の話です。

 見るも無惨な大火傷を負ったにもかかわらず、アレックスは奇跡的に無事だった。家に着くまでずっと水で冷やしていたのが功を奏したのだ。


「痛みが酷いのは皮膚が生きている証拠だ。

 今は辛いだろうが1ヶ月もすれば完治するだろう。

 流水でずっと冷やしていたから、感染症になる可能性も低い。

 野外でこんな大火傷を負いながら無事でいられるなんて奇跡だよ。

 女神様に感謝するんだな」


 主治医の言葉に、皆、複雑な思いを抱いた。

 こちらが悪いとはいえ、アレックスの怪我は女神様との誓いを破った罰だ。

 そしてアレックスを救ったのは魔物だった。

 あの時、あの魔女はアレックスを本気で心配していた。

 後から来た男はこちらに対する憎しみを隠そうともしなかったけれど、情けをかけてくれた。彼の魔法が無かったら、アレックスはどうなっていたかわからない。


 あの日、ダミアンとトマスは近くの民家から馬車を借りて引き返してきた。

 医者も薬も見つけられなかった二人は、小さな水筒からこんこんと水が出てくるのを見て、安堵の涙を流した。

 全員でアレックスを馬車の中に移して介抱しながら、エルマーは自分の考えを言った。


「考えたんだが、今日の事は誰にも言わない方がいいと思う。

 間接的に無害な魔物に危害を加えない為には、それが一番いい方法だと思うんだ」


「でも、絶対にアレックスの怪我について聞かれるだろう。どうするんだ?」


 ダミアンの問いに、エルマーはしばし考えた。


「アレックスの名誉を守る為に、沈黙の誓いをたてた事にしよう」


「沈黙の誓い・・・」


「ああ、名誉を守る為というのは、あながち嘘じゃない。

 背中に傷を負ったという事は敵から逃げたと思われるだろうから、不名誉な事だろう。

 だけど、実際はもっとひどい。丸腰の相手に背後から切り掛かったっていうのは、騎士としてあるまじき恥ずべき行為だ。人に知られたくないはずだ。そうだろう?アレックス」


 アレックスは返事をせず、顔をしかめただけだった。


(もしも自分の行いを反省せずに魔女を逆恨みするようなら、救いようの無い馬鹿だ)


 エルマーは皆を見渡しながら言った。


「魔物の存在自体が悪だと教えられていたけれど、今日の事で俺は考えを改めた。

 けれどこの事実は世間に受け入れられないだろうと思う。魔物と取引した事を罵られるだろうし、恐らく大人達の中には、俺達が魔物に助けられた事実をもみ消したいと思う人たちがいると思う。

 だから、アレックスの怪我は事故という事にしといた方がいいと思うんだ。

 無理があるのはわかってる。疑われるのは俺達だ。

 けれど、魔物が関わっていると知られるよりずっといい。

 自分たちの意志ならともかく、他人の事情で寿命を縮めたくないだろう?」


 エルマーの意見に、皆が賛同した。下手に話すと自分たちの命が危ういのだと、アレックスの背中の傷が如実に物語っていた。


 2日後、エルマーはアレックスを除く他の3人と共に、騎士訓練所の査問会に呼び出された。

 アレックスの背中の傷が炎の剣によるものという事は一目瞭然だが、当の本人は回復薬の副作用で眠っているし、他の4人も(かたくな)に理由を言わない。そこで業を煮やしたアレックスの父親が、真相を突き止めるよう訓練所に掛け合ったのだった。

 四人は顔を見合わせた。


「わかってるな」


「ああ」


「どんな結果になっても、死ぬよりはましだ」


「よし、じゃあいくぞ」


 4人は覚悟を決めて査問会の開かれる部屋の扉をくぐった。


◇◆◇◆◇◆


「それで、全員訓練所を破門になったのか・・・悪かったな。全部俺のせいだ」


 目覚めたアレックスは、以前の傲慢さが消えていた。まだベッドから動けなかったけど、柔らかいクッションに背中を預けて座れるくらいには回復しており、顔色も良くなっていた。 

 アレックスが父親に全てを打ち明けた事で4人の疑いは晴れ、見舞う事も許されたが、査問会で沈黙を貫いたせいで忠誠心がないと判断され、所属していた訓練所を去るハメになってしまった。

 

「気にするな。情けないけど、破門になってホッとしてるんだ。両親はガッカリしてたけど、今回の事で俺には騎士の適性が無いってわかったよ」


 ダミアンが苦笑しながら言った。


「魔女に埋められた時は本当に怖かった。多分俺は戦う事に向いてない。酪農をしてる親戚の家を手伝う事にするよ」


 トマスも頷いた。


「あのまま騎士になっても、きっと魔物と戦う事になったら躊躇すると思う。だったら最初から戦わないような職に就いた方がいいと思ったんだ。でも戦いの役には立ちたいから、俺は防具職人を目指すよ」


「俺は癒し手を目指そうと思う」


 ジャコブが静かに言った。


「アレックスが苦しんでる時、俺は何も出来なかった。回復魔法が使えれば、仲間が怪我した時に助ける事が出来る。冒険者のギルドで腕のいい癒し手を紹介してもらって弟子入りするつもりだ」


(皆、あれから色々考えてたんだな。俺はどうしよう・・・)


 皆が具体的に将来を決めている中、エルマーは騎士になる夢を捨てきれていなかった。


「何も出来なかったなんて言うなよ。あの時ずっと側にいて励ましてくれたろう。嬉しかったよ。皆も、本当にありがとう」


 アレックスが頭を下げた。


「父様に全部話したらすごく叱られて失望されたよ。丸腰相手に背中から斬りつけるなんて、騎士の風上にも置けない、お前に炎の剣をやったのは間違いだったって言われた。あと、絶対に誰にも言うなって念を押された。傷が治っても以前のように剣を振るう気にはなれないし、勉強して文官を目指す事にする」


 アレックスが俯いた。


「あの時俺は、魔女にコケにされた事で完全に頭に血が上ってたんだ。

 おまけにあの非常事態でエルマーがリーダーシップをとってたのが面白くなかった。俺より優秀だなんて、認めたくなかったんだよ」


「何だよ、それ」


「お前は剣も弓も槍も馬術も一番になった事がないって嘆いてたけどさ、どれも2番だったじゃないか。悔しいけど、俺達の中で一番武術のセンスがあるのはお前だよ」


 アレックスの言葉に皆が頷いた。


「一番努力してたもんな。これからどうするんだ?」


 皆の視線を受け、エルマーは迷いを捨てた。


「俺は、聖騎士を目指そうと思う」


「「「「ええっ!?」」」」


 エルマーの告白に皆が驚いて大声を上げた。


「騎士になって街の人を守る事はずっと俺の目標だった。

 だけど同時に、いい給料で楽な生活がしたいって思いもあったんだ。

 以前、聖騎士の試験に落ちたのは、そんな心の内を女神様に見抜かれてたからだと思う。きっと俺に足りなかったのは、信仰心だ。今回の事で、俺は女神様の存在をより身近に感じるようになった。もう一度挑戦してみるよ」


「だけど、魔物と戦えるのか?」


「俺達が約束したのは、無害な魔物に危害を加えない事だ。魔物に襲われた人を助けたりするのは問題ない。せっかく皆から武術のセンスがあるって褒められたんだ。頑張ってみる」


 トマスがエルマーの肩に手を置いた。


「応援するぜ。一緒に騎士になるって約束、守れそうになくてごめんな。俺らの分まで頑張ってくれ。一人前の防具職人になったら、お前に盾を贈るよ」


「もしもお前が怪我したら俺が治すから。でも俺が一人前になるまでは怪我するな。病気にもなるな」


「ジャコブは無茶苦茶だなあ」


 皆が笑った。

 ひとしきり笑った後、アレックスが神妙な顔をして言った。


「エルマー、一つ頼みがあるんだが」


「何だ?」


「もしお前が聖騎士になって、この先あの魔女と出会う事があったなら、俺に生き抜けって言ってくれた事、感謝してるって伝えてほしい。ここで死んだら両親が悲しむって言われてさ、うまくいえないけど、胸が熱くなったよ」


「わかった。俺もお礼を言いそびれてるんだ。必ず伝える」


 この事件は、5人が墓場まで持って行く秘密だ。

 魔女と出会った事でそれぞれ違う道を歩む事になったけれど、以前より強い絆で結ばれた。


(あなたはその年で冷静な判断力と勇気を兼ね備えてるし、信念もある。きっと立派な騎士になるわね)


 魔女に言われた言葉が頭の中で響いた。


「絶対に聖騎士になってみせる」


 エルマーは心に固く誓った。

順番的に「プロポーズ」の前に挿んだ方がよかったかも知れないんですが、なかなかまとめられずに今日に至りました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アレックスの逆恨みターンが始まらずによかった
[良い点] ありがとうございます(*´ω`*) 防具職人だと安心ですね! 続き楽しみに読ませてもらいます♡
[良い点] めちゃくちゃ面白いから一気読みしちゃう(*´ω`*) [気になる点] 女神様の間接的にも無害な魔物を傷付けないって制約があるのに武器職人になったら、間接的に無害な魔物を傷付ける恐れがあるの…
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