プロポーズ
定期報告の為に登城した私は、オリヴィアとナーダにがっしりと腕を捕まえられた。
「聞いたわよ、あなた達、本当の夫婦になったんですって?おめでとう」
「向こうの部屋にお茶も用意してある。詳しく話を聞かせてもらうか」
ニヤニヤとナーダが笑いながら言った。彼女は下半身が蛇の魔物で、幹部の一人だ。赤茶色したロングのウェーブヘアに赤い目を持つ妖艶な美女だけど、言葉遣いや仕草はなかなか男前な姐さんだ。
二人はシヴァに微笑んだ。
「シヴァ、あなたが魔王様に報告している間、奥さんを借りるわよ」
「心配するな。ちょっと女同士で仲良く話するだけだ。すぐに返す」
私は二人の美女に挟まれて、抱えられるように別室に連れて行かれた。
「種族の壁を越えた純愛なんて素敵。ロマンチックね」
「一体どんな手を使ってシヴァを落としたんだ?」
「さあ、白状しなさい。どんな風にプロポーズされたの?」
「・・・プロポーズ・・・」
ワクワクして恋バナを期待する二人を前に、私はあの日の事を思い出してため息をついた。
◇◆◇◆◇◆
シヴァに連れられて森の中に入ると、カイルと数匹のネズミ達が心配そうにこちらを見ていた。
「ミホ様、お怪我は?」
「大丈夫。心配してくれてありがとう」
「カイル、案内ご苦労だった。私は今から結界を張るから先に戻っていてくれ。村人に安心するよう知らせてくれるか」
「はい。それでは失礼します」
カイル達は一礼すると森の奥へと消えた。
シヴァは左手で私の肩を抱いたまま離してくれなかった。纏う雰囲気がいつもと違う。
「・・・怒ってる?」
「当たり前だ。どうしてすぐに私を呼ばなかった」
「結界を壊した狐が、三日月班の事を腰抜けって馬鹿にしたって聞いて腹が立ったの。彼らがどれだけ優秀か、わからせようと思って・・・」
「確かにお前は頭がいい。それは認めよう。
三日月班の能力を上手く利用して人間を罠にはめた。
お前の指示がなかったら、そのまま沈めて殺す事もできただろう。
カイル達自身が驚いていたぞ。
彼らは非戦闘員で、砦を作ってばかりいたんだからな。
だが今日の事で、彼らの能力は十分証明された。おかげで戦術の幅も広がった」
シヴァは私の肩を抱いた左手にぐっと力を込めた。
「だが、他の事については別だ。
お前は問題を起こした罰として子供を囮に使った。
そして人間と取引するのに女神様への誓いを利用した。
お前は命を軽んじすぎている」
「そんな事は・・・」
「無いとは言わせない。
村人を守るためとはいえ、お前は今日5人の子供の命を盾にした。
誓った本人すら舌の根も乾かないうちに破ったんだ。他人が守ると思うか?
今日の顛末を知って、攻撃を仕掛けてくる輩がいてもおかしくない。
たとえ彼らの意志ではなくとも、間接的に攻撃をしないという誓いは破られた事になるな。その時、彼らはどうなると思う?
今まで偶々うまくいっていたからいいようなものの、女神様への誓いは気軽に行っていいものではない」
私はがんっと頭を殴られたような衝撃を受けた。シヴァの言う通りだ。
私の浅はかな作戦は、子供達の首をずっと絞める結果になってしまった。
「そんな・・・私、そんなつもりじゃ・・・どうしよう」
シヴァは動揺して泣き出した私を連れて、結界石のある場所へと移動した。そして左手で私の肩を抱き寄せたまま、結界を張り始めた。
「母なる大地よ 親愛なる森よ 我が声に応えよ 守護者の盾に 永久の祝福を共に与えん」
シヴァの詠唱が終わると結界石の四方から木の根が伸びてきた。そして石を包み込むように絡みつくと、再び地面の中へと戻った。
「これで結界石を動かす事は出来ない。
森と大地の加護を付け足したから、以前よりも強力だ。
人間が森に入ったつもりでもいつの間にか外に出るようにしてある。
三日月班の村には近づけないだろう」
(よかった!これなら村の皆もあの子達もきっと無事だ)
「ありがとう。これでもう安心ね」
そういってシヴァを見上げた私は凍り付いた。シヴァの金色の瞳が今まで見た事無い程怒りを湛えて私を見下ろしていた。
「安心だと!?お前は何もわかってない。
私が一番腹を立てているのは、お前が危機感を持っていない事だ。
あの人間達は女神様への誓いを破った罰だと思ったようだが、それは誤解だ。
誓いは破られていない。なぜならお前は人間だからな。
もしもそのローブを着ていなければ、あそこで倒れていたのはお前だった!」
私はアレックスの背中の傷を思い出してぞっとした。
そう、私が無傷でいられたのは、シヴァが事前に特別な防御魔法を施してくれたからだ。
「あいつを八つ裂きにしてやりたいと言ったのは本心だ。
もしもお前が傷ついていたら、私はためらわず皆殺しにしていただろう」
シヴァの顔が苦しそうに歪んだ。
「少し離れていただけで、どうして危険な目に遭うんだ!?あの時のように、お前が傷ついて冷たくなっていくのを見るのは二度とごめんだ」
次の瞬間、私は息も出来ないくらい強く抱きしめられた。
「お前の気持ちを優先するつもりだったが、もう待つのはやめる。
お前の事だ。どうせこれから先も似たようなことが起きるだろう。
その度に傷ついて泣くんだ。だったらとことん側にいて守ってやる。
お前が抱える罪悪感も一緒に背負ってやる。その代わり、お前の命は私の物だ。
私は、私の物を傷つけたり、軽んじたりする奴を許さない。
たとえそれがお前自身でもだ。二度と軽々しく扱うのは許さん。
良く覚えておけ!」
シヴァはそう言うと、私に噛み付くようにキスをした。
◇◆◇◆◇◆
「・・・こんな感じで、めちゃくちゃ怒られたわ。
シヴァを落としたなんてとんでもない。落とされたのは私の方よ」
「すごい口説き文句ね」
「思ってたのと随分違ってたな」
あのシヴァがね〜、と二人は顔を見合わせた。
「素敵だけど、全然参考にならないわね」
「全くだ。プロポーズが説教の延長線上にあるなんて、お前らぐらいだ」
私は苦笑した。
強引で甘さの欠片も無いけれど、私の迷いを吹き飛ばすには十分だった。
アレくらいでないと、私はあれこれ理由をつけて、シヴァを受け入れる事に未だに迷っていたと思う。
シヴァが好きだ。彼のパートナーとなった事に後悔は無い。
ただ、蓮に相談も報告も出来ない事が残念だった。




