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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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黒衣の魔女5

 エルマーは水筒を掴むと、すぐ近くの小川へと馬を走らせた。そして急いで水を汲んで戻り、アレックスの背中に浴びせかけた。


「うあああああっ」


「堪えろ!今助けを呼びにいってる」


 背中の損傷は、切り傷というより火傷だった。皮膚は赤くただれ、ところどころ大きくていびつな形の水ぶくれが出来ていた。

 水筒の水はあっという間に無くなり、また汲みに行こうとした時、魔女の背後に長身の男が歩み寄ってきた。男は魔女の黒いローブとは対照的な白いローブを着ており、やはりフードを目深にかぶっているため顔はわからなかった。


「・・・迎えにきた。帰るぞ」


「待って。この子を助けてあげて」


「断る」


 男の声は冷ややかだった。


「私がここに来たのは壊れた結界を直す為だ。今回のような事が起こらないよう、より強力な結界を施す。早く森に入れ。これは命令だ」


「でも、この子達を無事に帰すと誓ったのよ」


「森の外、即ち人間の領域に無事に帰した。お前の誓いは既に果たされている。放っておけ」


「だけど、こんなに苦しんでる。このままじゃ死んでしまうかもしれないわ」


「慈悲深いな。いっそ殺して楽にしてやった方がいいんじゃないか?」


 男の言葉にエルマーは戦慄(せんりつ)した。ジャコブも真っ青になっている。


「やめて、冗談でもそんな事言わないで」


「冗談だと思うか?今すぐにでもこいつを八つ裂きにしてやりたいくらいだ。この傷はどうやって出来た?言ってみろ」


「それは・・・」


 口ごもる魔女に男は詰め寄った。


「お人好しも大概にしろ。こいつは女神様との誓いを破り、丸腰のお前の背中に斬りつけた。違うか?一歩間違っていれば、こうなっていたのはお前自身だ」


 男の怒りは当然だ。もしも立場が逆だったなら、自分たちも憤りを覚えたはずだ。


「来い。これ以上の勝手は許さん」


 男は魔女の腕を取って立たせると、無理矢理に自分の方へ引き寄せた。


「あの・・・どうかその人に乱暴な事はしないで下さい」


 エルマーは思わず声をかけた。


「あなたの言う通り、非はこちらにある。友人に代わり、お詫びします」


 エルマーは頭を下げた。ジャコブが驚いて息を飲む気配がした。

 魔物に頭を下げるなんて以前の自分では考えられなかったが、今は平気だ。魔物は存在そのものが悪だと教えられていたが、そんな事はないのだと身を以て知った。

 魔女は約束通り森の外に送り届け、武器まで返してくれた。今ならわかる。彼らは今の今まで、彼女に守られていたのだ。乱暴なやり方ではあったけれど、彼女は両者にとって平和に解決できるよう心を砕いてくれたのだ。それなのに、アレックスは恩を(あだ)で返した。しかも丸腰の相手に背後から切り掛かるという、恥ずべき行為で。どう考えても悪いのはこちらだ。

 そんなエルマーの様子を黙ってみていた男は、小さくため息をつくと手を差し出した。


「・・・お前が今手にしているものをこちらに渡せ」


「え?あ、はい」


 エルマーが戸惑いながら空の水筒を差し出すと、男はそれを受けとって指先で円を描くような仕草をしながら呪文を詠唱した。


「全ての命の源よ 清らかなる流れよ 月の光の導きのもと この手に集え」


 詠唱が終わると、男は水筒を投げて寄越した。水筒はぼんやりと青白い光を放ち、ずしりと重くなっていた。


「一時的に小川の水をその水筒に流れるようにした。月が空の真上に登るまで、水が尽きる事はない。私がしてやれる事はそれくらいだ」


 男の言う通り、水は後から後から溢れ出し、患部を冷やす事が出来た。 

 礼を言おうと顔を上げると、既に二人は森の中へと消えた後だった。

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― 新着の感想 ―
マントに攻撃反射が付いてるんじゃない?
[気になる点] あー、でもミホは魔物ではないからか。 でもならば、なぜ罰が当たったのか。
[気になる点] 女神様の誓いを違えると、死ぬのではなかったっけ?
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