黒衣の魔女4
目の前で、魔女の背中が右肩から左腰まで斜め一直線に切り裂かれた・・・はずだった。
なのに、倒れたのは攻撃したアレックスの方だった。
「うわあああああああっ!!」
アレックスは、剣を振り下ろしたと同時に悲鳴を上げて倒れた。その背中は右肩から左腰にかけて一直線に赤黒く焼けただれ、焼け焦げた肉の匂いが辺りに漂った。
「えっ?何!?」
魔女は突然の叫び声に驚いて振り向き、倒れているアレックスを見て動揺した。
「え?どうしたの!?大丈夫?」
魔女はアレックスに駆け寄り、背中の大きな火傷と手に握られた剣を見て、はっとして叫んだ。
「まさか・・・私を切ったの?」
彼女は自分が攻撃を受けた事にすら気付いていなかった。ショックでヨロヨロと後ずさりながら、彼女は悲しそうに言った。
「・・・女神様への誓いを破ったらどうなるか、知らなかったの?」
もちろん、皆よく知っている。幼い頃から女神様の物語を繰り返し聞かされた。
『昔々、女神様はヒマワリの花をたいそう愛されました。
地上には沢山のヒマワリが枯れる事なく咲き誇り、いつも明るく輝いていました。
ヒマワリは女神様に一番愛されている事を誇りに思っていました。
ある日の事、女神様がヒマワリの所にとても可愛らしい小さな星を連れてやって来ました。
女神様は、生まれたばかりの星の面倒を見るようヒマワリに頼みにきたのです。
ヒマワリは星と仲良く暮らすことを女神様に約束しました。
星はとても素直でヒマワリを慕ってくれました。
しばらくの間、ヒマワリは約束通り星と仲良く平和に暮らしていました。
しかしある日、女神様が星を可愛がっているのを見たヒマワリは、自分が一番でなくなったと思い、嫉妬に狂い星を憎むようになりました。
ヒマワリは、女神様が留守の時、星を騙して地上から追い出し、暗い夜空へと追いやりました。
地上に帰れなくなった星は、悲しみと怒りでヒマワリを恨み、そのため元の愛らしい姿を失いました。
愛する者に裏切られ、また愛する者を失った女神様は、たいそう悲しまれました。
悲しみに暮れる女神様を見かねた月は言いました。
(哀れな星を導くため、私が夜空に住まう事をお許しください)
そして、約束を破ったヒマワリに寿命を与え、死者の国に送る事を提案しました。
女神様は月の提案を受け入れました。
ヒマワリから命の時間を取り上げて、星に与えることにしたのです。
女神様はそれからもヒマワリを愛してくれましたが、側に長く置く事はなくなりました。
それから死者の国には、沢山のヒマワリが咲くようになったのです』
そして最後に必ずこう締めくくられるのだ。
「みんな、ヒマワリのように女神様に嫌われたくないでしょう?約束を破ったり嘘をついてはいけませんよ」
そして同時に、滅多な事で女神様へ誓いをたてないように、とも言われていた。
「自分の言葉が疑われた時、それが真実だと証明する為に、女神様はお力を貸して下さいます。けれど、決して嘘を言ってはいけませんよ。ヒマワリのようになってしまいますからね」
この世の創造主である女神様の物語は、半信半疑で聞いていた。特に「ヒマワリと星」の話は、子供の道徳心を培う為の作り話だろうと、皆思っていた。けれど、目の前の光景を見たら信じざるを得ない。
魔女の魔法かとも思ったが、彼女は攻撃された事にすら気付いていなかったのだ。
女神様への誓いを破ったアレックスは、罰として自分の攻撃をそっくりそのまま返されたのだろう。
「そんな・・・嘘だ。女神様が・・・魔物の味方なんて、するはずがない」
ダミアンが呟いた。
目の前の光景が信じられないのだ。
「違う。魔物の味方をしたんじゃない。女神様に誓うというのは、女神様に嘘をつかないと約束する事なんだ。アレックスは女神様との約束を破った罪により、罰を受けたんだ」
エルマーの言葉に、皆がごくりと固唾をのんだ。全員、女神様に誓いを立てた。という事は、もしも今後誓いを破れば、自分もこうなってしまうのだ。
女神様の怒りを目の当りにし、皆が畏れおののき動けずにいた、その時。
「何ぼーっとしてるの!このままじゃ、この子は本当に死んでしまうわよ!友達を見殺しにする気!?」
魔女の叱責に皆はハッと我に返った。
「薬草かポーションは持ってないの?とりあえず水でもいいわ。早く傷にかけてあげて」
魔女は痛みに苦しみ悶えるアレックスの傍らに跪いた。
「しっかりしなさい。こんな事で死んだらご両親が悲しむわよ。必ず生き抜きなさい!」
魔女はアレックスを励ましつつ、再びエルマー達を叱責した。
「エルマー!ダミアン!トマス!ジャコブ!しっかりしなさい。あなた達が目指す騎士はこんな時どうするの!?」
(そうだ、今はアレックスを助ける事を優先しないと!)
エルマーは3人を振り返った。
「ダミアン、お前の馬が一番速い。助けを呼んできてくれ。アレックスを運ぶのに馬車が必要だ。出来れば医者か薬も一緒に頼む。トマス、お前はダミアンの護衛として一緒に行ってくれ。ジャコブ、アレックスにポーションを飲ませろ。俺は水を汲んでくる」




