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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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黒衣の魔女3

 エルマーの言葉に、最初にダミアンが折れた。彼が女神様に誓いを立てると、トマスとジャコブもそれに続いた。

 次々に救出される友人を横目に、アレックスは下唇を噛み締めた。


「アレックス、これ以上強情を張るな。早く剣を離せ」


「嫌だ!父様から貰った大切な剣だ。たとえ殺されたって、絶対に離すもんか!」


 アレックスが(かたくな)に剣を離そうとしないため、皆は途方に暮れた。


「困ったわねぇ。このままじゃあ、日が暮れちゃうわ。とりあえず、あなた達だけでも帰りなさい。森の外まで送って行ってあげるから」


「でも、アレックスが・・・」


「本人が望んでるんだからしょうがないでしょう。彼がどうなろうと、あなた達が責任を感じる事はないわ。帰ったらありのまま話しなさい。立派だと言われるか、馬鹿だと言われるか、評価が分かれるところよね」


 魔女は森の方へと歩き出して、ふとアレックスの前で足を止めた。


「そうそう、アレックス君?今まであなた達が無事なのは、私が他の魔物に攻撃しないようにお願いしてたからなの。でも私はここを離れるから、その後の事は責任もてないわ。悪く思わないでね」


 そう言うと、今度こそ振り向きもせずに森へと歩き始めた。

 地面に埋まっているアレックスを助けようと、4人掛かりで地面を掘ったり引っ張ったりしたけど無駄だった。


「アレックス。お願いだから剣を捨てろ。今ならまだ間に合う」


「そうだよ、早く女神様に誓いたてろ」


「うるさい!俺に指図するな!俺は絶対に屈したりしない」


 4人は顔を見合わせてため息をついた。こうなってしまっては、最後まで自分の意志を曲げない事は長い付き合いでわかっていた。


「わかった。好きにしろよ。俺たちは帰る」


 そう言ってエルマーが歩き始めると、他の3人も戸惑いつつもついてきた。まさかの事態にアレックスは驚いて叫んだ。


「俺を見捨てる気か!?それでも友達か!?裏切り者!!」


 エルマーはカッとなって怒鳴り返した。


「いい加減目を覚ませ!お前の我が侭の為につきあって、全員死ねば満足なのか?それがお前の言う友情なのか?言っただろう。俺は誰も死なせたくないんだ。魔物と取引するのは屈辱だけど、提案そのものは両者の平和を望むものだ。誰も死ぬ必要はないんだ!なぜそれがわからない!?」


 普段は控えめで穏やかなエルマーが怒った事に全員が驚いた。


「もう一度だけ言うぞ。剣を捨てろ、アレックス。格好つけてる場合か!?たまには俺の言う事を聞け!」


「くそっ・・・」


 アレックスは小さく呟いて、とうとう剣を離した。カランッと剣が落ちると同時に、さっと黒い影が横切り、あっという間に剣を持ち去った。


「畜生・・・」


 アレックスは悔し涙を流しながら、女神様に誓いをたてた。 


「・・・アレックス・ベイリーは、直接的にも間接的にも・・・無害な魔物に危害を加えないことを、女神様に誓う」


 誓いの言葉を言い終えると、見る見るうちに周りの土が柔らかい泥へと変化していった。エルマー達に引っ張られ、ようやく泥から解放されたアレックスは、拳で地面を何度も叩いて悔しがった。

 その場から動こうとしないアレックスに、エルマーは手を差し伸べた。


「アレックス、立てるか?」


「触るな」


 アレックスは差し伸ばされた手を振り払うと、肩を怒らせながら先に歩いて行った。

 悲しい気持ちで遠ざかる背中を眺めていると、トマスが側に来て肩を叩いた。


「気にするな。剣を奪われて機嫌が悪いだけだ。お前の言った事は間違ってない」


「ああ、そうだな。帰ろう」



◇◆◇◆◇◆



 帰りの道中は最悪だった。アレックスの機嫌は目に見えて悪いし、服は泥だらけで歩きにくい。誰も何もしゃべらない中、魔女はエルマーが目印に結んだロープを機嫌良く外しながら歩いていた。


「このロープを木の枝に結んだのは誰?エルマー君?」


「そうだ。どうしてわかったんだ?」


「何となく。5人で無事に帰る事をちゃんと考えていたのは、あなたしかいなかったから。あなたはその年で冷静な判断力と勇気を兼ね備えてるし、信念もある。きっと立派な騎士になるわね」


 エルマーは驚いて何も言えなかった。剣も弓も槍も、他の4人に勝った事などなく、いつも馬鹿にされていた。それでも夢をあきらめきれなくて、エルマーなりに努力してきたのだ。それを認められた気がして、無意識に頬が緩んだ。そんな二人のやり取りを、アレックスが憎々しげに見ていたことにエルマーは気付かなかった。

 しばらく歩いて、ようやく森の外に出る事が出来た。愛馬が草を()みながら、のんびりと主人の帰りを待っていた。


「あれ?」


 何かに気付いたダミアンがしゃがみ込み、すぐに歓喜の声を上げた。


「やっぱりそうだ。これ、俺の弓だ!皆のもあるぞ!」


「何だって!?」


 失くしたと思っていた弓が、愛馬を繋いだ木の根元に置いてあった。そして、先程黒い影に奪われたはずの炎の剣もあった。アレックスは剣に飛びつくと、鞘を抜いて中身を確かめた。

 エルマーが驚いて振り返ると、魔女はヒラヒラと手を振った。


「さっきは怖い思いさせてごめんなさいね。こうでもしないと話を聞いてもらえそうになかったから。それじゃあ、約束は果たしたから私は帰るわ。皆も気をつけて帰りなさい」


 そう言って魔女はくるりと背を向けた。弓を返してもらったお礼を言おうとしたエルマーは、すぐ近くで熱と光を感じて振り向いた。そこには燃え盛る剣を振りかざすアレックスの姿があった。


(まさか・・・)


「よせっ!やめるんだ!」


 エルマーの制止の声を無視して、アレックスは魔女の背中に向けて剣を振り下ろした。

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