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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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黒衣の魔女2

「ふざけるな!魔物と取引なんかする訳ないだろう!」


「その通りだ!そんな事するくらいなら死んだ方がましだ!」


「消えろ!それ以上俺たちに近づくな、魔女め!」


 エルマーは頭を抱えたくなった。


(アレックス、ダミアン、トマス・・・何でこの状況でそんなに強気でいられるんだ・・・馬鹿なのか?せめて相手の話を聞けば時間稼ぎになるのに・・・)


 泥にはまった時の衝撃で、弓は落としてしまい手元にない。沈んでしまったかもしれない。アレックスは剣を握っているが、腕は地面に沈んでいて手首から先だけが出ている状態だ。とても攻撃なんて出来ない。


「あら、話を聞くくらいしてもいいんじゃない?」


 魔女(?)は気にした風もなく続けた。


「簡単な事よ。武器を置いてこの森から去ってくれればいいの。今後、直接的にも間接的にも無害な魔物達を傷つけないと約束するなら、すぐに助けてあげるわ。ちゃんと森の外まで送ってあげる。どう?悪い話じゃないでしょう?」


 その提案にエルマーはホッとした。それこそ自分が望んでいた事だ。こんな所、一刻も早く抜け出したい。魔石なんかどうでもいい。全員無事に帰れれば、それでいい。


「信用できるか。武器を手放した途端、襲うつもりなんだろう?」


 エルマーは再び頭を抱えたくなった。


「ジャコブ、俺たちは身動きできない状態なんだ。弓も剣もこの状況じゃ意味がない。相手がその気ならとっくに殺されてるよ」


「あら、あなたは話が分かりそうね」


 魔女がこちらを見たのでエルマーは話を続けた。


「元々狩りに来ていただけで、魔物退治をするつもりはなかったんだ。俺たちは冒険者じゃない。騎士見習いだ。全員を無事に帰してくれるというのなら、そちらの言う通り森を去ると約束する」


 エルマーの言葉に全員が反対した。


「恥知らずが!勝手なことを言うな!」


「裏切り者!それでも騎士見習いか!」


「魔物と取引するなんて正気か!?」


「臆病者!そんなに命が惜しいか!?」


 軽蔑しきった目で口々に罵られたが構わない。こんなところで死ねない。


「ああ、俺は命が惜しい。ついでに言うと、お前ら誰一人死なせたくない。それに誰も裏切ったつもりはない。たかが魔石の為に命を落とすなんて馬鹿げてる。俺は騎士になって街の人たちを守るのが目標だ。だから、恥を忍んで魔物と取引をする。よく考えろ。名誉を重んじてここで死ぬか、それとも生きて帰りたいか」


 エルマーの言葉に皆が戸惑ったように顔を見合わせた。どうする?とヒソヒソと話し合うダミアンとトマスをアレックスがぎろりと睨んだ。


「お前らまさか、命惜しさに魔物に屈するなんて言わないよな?」


 アレックスに牽制され、二人は黙って俯いた。


「俺たちはあの臆病者とは違うとわからせてやる。ここから出せ。正々堂々と勝負しろ」


「正々堂々ねぇ」


 魔女は呆れたような声を出してアレックスを見た。


「話を聞いたけど、先に攻撃を仕掛けたのはあなたでしょう。敵意のない相手に対していきなり攻撃を仕掛けた。その後も多勢に無勢で矢を放った。それって正々堂々と言えるのかしら?」


「魔物は悪だ!人間の敵だ!狩り場に現れた魔物を狩って、何が悪いんだよ!」


「ふうん。でもその理屈で言うと、今あなた達を襲っても文句はないって事よね。ここは魔物の住処なんだから」


 魔女の言葉に、全員がヒュッと息を飲んだ。


「まあでも、わざわざ手を下すまでもないのよ。ここに放置しておくだけで十分。飲まず食わずで何日持つかしら?ここは野生動物の水場だから、水鹿の群れに踏まれちゃうかもしれないわね。夜になったら肉食獣が来るかもしれないわ。生きたまま食べられるのって痛そうね」


 ジャコブとトマスが真っ青になってカタカタと震えだした。ダミアンは恐怖で息が荒くなっている。涙目でひゅっひゅっと短い呼吸を繰り返していた。


「でも、私と取引するくらいなら、そんな目に遭う方がまだましなんでしょ。お望み通り消えてあげるわ」


 魔女はエルマーの前に来た。


「悪いけど、初対面の人を信用できる程お人好しじゃないの。さっき私の言った約束を守るなら無事に帰すと誓うから、あなたも女神様に誓ってくれる?」


 エルマーは驚いた。魔物の口から女神様の名を聞くとは思わなかった。エルマーはごくりと唾を飲み込んだ。


「私、エルマー・サリバンは、今後、直接的にも間接的にも、無害な魔物に危害を加えない事を女神様に誓う。その証として武器を捨て、この森を去る」


「ありがとう。女神様に誓って、あなたを無事に森から帰すわ」


 魔女が差し出した手を握ると、エルマーの周りの土が柔らかい泥に変わり、足元がせりあがって抜け出せる事が出来た。服に纏わり付く泥の重さによろけて四つん這いになると、涙目のダミアンと目が合った。


「待ってくれ。友達を置いて俺だけ帰るなんて出来ない。こいつらに、もう一度チャンスをくれ」


 エルマーは4人の説得を続けた。


「ダミアン、泣く程怖いならさっさと誓え。アレックス、トマス、ジャコブ、くだらないプライドの為に命を捨てるな。取引の内容を良く考えてみろ。何を恥じる事がある?無害な魔物に危害を加えないってだけだ。人や信仰を裏切る訳じゃない」


 仲のいい幼なじみとはいえ、エルマーの家は他の4人に比べると階級が劣るため、あまり意見が通る事はない。いつもならエルマーが遠慮して周りに合わせているのだが、今回ばかりは引くつもりはなかった。


「一緒に帰ろう。俺は、お前達と一緒に大人になりたい」

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