黒衣の魔女
暗い森の中を5人の少年達が進んでいた。手には矢を持ち、辺りを警戒しながら慎重に歩みを進めて行く。
「おい、完全に見失ったぞ。本当にこっちで合ってるのか?」
「ああ、間違いない。魔力の気配が西にある。こっちだ」
そう言って先導するアレックスの背中を見ながら、エルマーはため息をついた。
森に入ってから結構時間が経った。
(馬を置いてまで森に入るなんて馬鹿げてる。アレックスの奴、16歳になった祝いに炎の剣を貰ったからって、調子に乗り過ぎだ。さっきまでいた狩り場と違い、ここは完全に魔物の領域だぞ。昼間とはいえ、魔獣や魔物に襲ってくれと言ってるようなもんだ)
「なあ、もうあきらめて戻った方がいいんじゃないか?俺らは冒険者じゃないし、魔物を狩りにきた訳じゃない。こんなに深くまで森に入るのは危険だ」
エルマーの提案は鼻で笑われた。
「馬鹿言え、魔物を仕留めればただで魔石が手に入るんだぜ」
「仕留めた奴のものだぞ。恨みっこ無しだ」
(まいったな。みんなアレックスの炎の剣が羨ましくって仕方ないんだ)
狐とカワウソの2匹の魔物に一番最初に気付いたのはエルマーだった。
森の近くとはいえ、昼間は魔物がうろつかない場所のはずだったので驚いた。
魔物が気付かないうちに離れようと言った矢先、アレックスが剣を振るった。
剣先から放たれた炎の渦は二匹の魔物の間を通過した。
突然の攻撃でパニックに陥った二匹があちこちに逃げ回り、他の3人が矢を放ったけれど、掠めただけで仕留める事は出来なかった。
やがて二匹は合流すると、狐の魔物がうなり声をあげてつむじ風を起こし、こちらがひるんでいる隙に森の中に姿を消した。
「見たか?やつら俺達に恐れをなして逃げたぜ」
「ああ、あれなら仕留める事が出きるんじゃないか?」
「よし、獲物はあの二匹の魔物に変更だ。追うぞ」
やめておけ、というエルマーの意見は無視された。
皆我れ先にそれぞれの馬に乗って後を追おうとしたけれど、馬は森の中に入るのを暴れて嫌がった。本能で危険を感じ取ったのだろう。
仕方なく全員が鞍から降りて馬を森の入り口の木に繋ぎ、徒歩で森の中に分け入った。
アレックスは剣の柄に埋め込まれてある魔石の反応を頼りにどんどん進んで行く。
エルマーは帰り道の目印にと、狩猟用に持っていたロープを時々木に結びながらついて行った。
(そろそろロープも尽きる。これ以上深追いすると帰れなくなるかもしれない)
もう帰ろう、と再び声をかけた時。
「いたぞ!」
アレックスが興奮しながら前方を指差した。
少し離れたところで、先程の2匹の魔物が辺りをキョロキョロと警戒しながらゆっくりと歩いているのが見えた。
「よし、もらったぁ!」
トマスがいち早く弓に矢を番えた。キリキリと弦を引いている途中、
「うわっ!」
と声を上げたトマスは、バランスを崩して転び、矢はあらぬ方角へと飛んで行った。
こちらに気付いた魔物は、一目散に逃げて行った。
「馬鹿野郎!何やってる!」
「しょうがないだろ、突然左足の地面が盛り上がったんだよ」
確かに、その部分だけ地面が不自然に盛り上がっていた。
「何だ?モグラか?」
「とりあえず追うぞ!こっちだ!」
獲物を追いかけているうちに森を抜け、目の前に大きな沼が広がった。
「あそこだ」
二匹は沼に生えている茂みの中に消えた。
「隠れても無駄だ。燃やしてやる!」
茂みの前でアレックスが剣を鞘から出した、その時。
突然、足元の地面が揺れたか思うと、あっという間に泥の中に胸まで浸かっていた。
「なっ!?」
「うわぁ」
「くそっ!どうなってるんだ!?」
泥の中から抜け出そうともがいたけれど、体力を消耗するばかりでぴくりとも動かなかった。
それどころか、みるみるうちに泥は乾燥して完全に埋まってしまい、身動きできない状態になってしまった。
(しまった。罠か・・・)
エルマーはみすみす魔物のテリトリーに入ってしまった事を悔やんだ。
(皆を殴ってでも止めていれば良かった。せっかく騎士見習いになれたのに、こんな所で死ぬなんて・・・
せめて戦って死にたかった。でも今の状況じゃ到底無理だ。このまま全員、生きたまま食われるんだろうか?)
絶望に打ちひしがれていると、ふと影が差した。思わず見上げると、夜空を切り取ったような黒いローブを纏った女が側に立っていた。といっても、フードを深くかぶっているので顔はよく見えなかった。それとわかったのは声を聞いたからだ。
「やだ、みんなまだ子供じゃない。・・・高校生くらいかしら?」
コーコーセイという意味はわからなかったけれど、相手が戸惑っているのはわかった。
「ねえ、君たち。こんなところで死にたくないでしょう?私と取引しない?」




