三日月班の村
「ここが、我々の村です」
三日月班のリーダー、カワウソのカイルが案内してくれたのは、静かな森の外れだった。
見渡しても美しい樹々や草花があるばかりで、建物らしい物はない。
「ここは野生動物の水場にもなってるので、村は地下にあるんです。入り口はこちらになります」
そう言って案内してもらったのは、大きな樹の根元にあるウロだった。
当然ながら私達には小さすぎて入る事が出来ず、カイルの呼びかけに村人が次々と出てきて歓迎してくれた。お土産に持ってきた籠いっぱいの焼き菓子や採れたての野菜を渡すと、彼らは大喜びしてお祭り騒ぎになった。
「こんなに沢山貰ってもいいんですか?」
「ええ。お世話になったお礼よ。早速だけど稲を見せてもらってもいい?」
「もちろんです。ご案内します」
カイルが案内してくれた沼は、湖と言ってもいい程大きかった。
そして、沼の5分の1程の面積に稲が自生していた。
黄金色の頭を垂れた稲穂が風に揺れているのを見た時は、感動のあまり涙が出た。
(ああ、なんて綺麗な穂波。こっちの世界でも見る事が出来るなんて・・・)
「すごい!荷馬車いっぱい持って帰りたい」
「いくらなんでも取り過ぎだろう」
呆れ返るシヴァの言葉にカイルは笑った。
「いえ、好きなだけお持ちください。年々増えて困ってたんです。実がなる頃には周りの水を全部吸い上げてしまうんですよ」
(つまりウィンウィンってことよね)
「ほら、稲刈りすると村の皆が助かるって。私はお米が手に入って嬉しいし、稲藁は馬の飼料とか、焚付けとか色々な用途があるわ。いい事尽くめよ」
さあ、どんどん刈って頂戴、という私のかけ声に、半ばうんざりした顔をしながらもシヴァは沼に向った。
そして稲から少し離れた場所に立つと、右手の二本指にふっと息を吹きかけて、スッと左から右に水平に空を切った。すると、その辺りの稲が根元から切られて横倒しになった。
呆気にとられる私達をよそにシヴァはサクサクと刈り取りと、
「こんなもんか?」
と振り返った。
(なんか、私の思ってた稲刈りと違う)
稲刈りで収穫の苦労と喜びを体感してこそ、お米のありがたみがわかるというのに。
(蓮が小学生だった時、稲刈り体験に行ったっけ。翌日、筋肉痛がすごかったけど、楽しかったなあ。作業の後に配られたおにぎりと味噌汁が美味しかった)
しみじみと昔を思い出しながら黙々と稲を束ねて山を作ってると、シヴァが隣に来て見よう見まねで手伝ってくれた。それをラーソンが荷馬車まで運んでくれ、あっという間に荷馬車いっぱいになった。半日はかかると思われた作業は小一時間程度で終わり、時間が十分に余ってしまった。
「よかったら釣りをして行きませんか?奥の方に美味しい魚が沢山います」
カイルの提案に男達は乗り気になった。
「おう、面白そうだな。シヴァ、どっちが多く釣れるか競争しようや」
「いいだろう」
「この村には私たちが乗れる大きさの船があるの?」
「いいえ。でもあなた方が乗れるほど大きな葉っぱがあるんです。葉脈がしっかりしてるから船の代わりになりますよ」
カイルに指示された部下が沼を泳いでいき、しばらくして細長い大きな葉っぱを引っ張ってきた。沼の奥に自生している巨大な葦の葉だった。そして笹舟を作る要領で、あっという間に船の形にした。
シヴァとラーソンはためらいもせずに葉っぱの船に乗ったけれど、私は地底湖で溺れかけた事が頭をよぎり、船に乗る勇気が出なかった。
「私はここで皆とおしゃべりして待ってるわ。二人とも楽しんできて。期待してるわよ」
「おう!任せとけ!」
「今日の夕食は魚料理になるな。楽しみだ」
二人は葦の茎を櫂にして器用にスイスイと沼の奥まで漕いで行き、やがて見えなくなってしまった。
私は村に戻って野菜の料理の仕方を教えたり、子供達と遊んだりしながらのんびりと過ごしていた。
仲良くなったハムスターの子供がおいしい茸が生えている場所を教えてくれるというので、お菓子を入れてきた籠を片手に一緒に森に入った。
静かで美しい豊かな森だった。
「秘密の場所だよ。特別に教えてあげるね」
といって案内された場所にはコケに覆われた倒木があり、白い花びらのようなキノコがたくさん生えていた。
「これ、スープに入れると香りが良くてとっても美味しいの」
その子は自分の顔程のキノコをとって、得意げに見せてくれた。
「じゃあ、今日持ってきたお野菜と一緒にスープにしてもらうといいわ」
そんな事を言いながら、平和にキノコ狩りを楽しんでいた矢先、目の前の薮がガサガサと大きく揺れたかと思う狐とカワウソの魔物が勢い良く飛び出してきた。
二匹は私を見て驚いた様子で一瞬固まったけれど、側にいるハムスターの子供に気づくと大きな声で叫んだ。
「逃げろ、人間がすぐそこまで来てる」




