日本人の魂
ラーソンの酒蔵も無事作り終わり、最後に食堂のリフォームをした。
三人で使うには広すぎるので、間仕切りをして、キッチン&ダイニングと事務所に分ける事にしたのだ。
某リフォーム番組の匠の技を三日月班に伝え、これまでの食堂のドアはそのまま事務所用として使い、新たにキッチンの勝手口とダイニング用のドアを作ることにした。
その結果、キッチンは要望通りに動線を変えて使いやすくし、収納力もアップ。
事務所はシヴァの作業机と収納棚の他に、応接用のローテーブルとソファーを配置。
そして、何と言う事でしょう。
一見、壁のように見える天井までの間仕切りは、可動式になっており、お互いの部屋を自由に行き来できる様になっているのです。
(おっと、感動のあまり脳内で番組のナレーションが聞こえてしまったわ)
三日月班は本当に優秀だ。
簡単な図を描いて説明したとはいえ、すぐに私の要望を理解してくれた。
そして、可動式間仕切りについては、意外な事にラーソンが食いついた。
「面白いな。これを作ったのが俺だと言ったら、ニルスが悔しがるぞ」
と言いながら、嬉々として作業を行っていた。
後日、工房用の調理器具の納品にやって来たニルスは、ラーソンの予想通り悔しがった。
彼はお茶を飲むのも忘れて可動式間仕切りの仕組みに夢中になり、しばらく梯子の上から降りなかった。
食堂のリフォームが終わると、三日月班の任務は終了となる。
彼らを労うため、感謝を込めて御馳走を振る舞う事にした。
畑で採れた新鮮な野菜で作ったサラダ、スープ、天ぷら、ピザ、そして試作品のお菓子の並んだテーブルに、三日月班の皆は目を輝かせた。
「みんな、お疲れさま。おかげですごくいい工房が出来たし、住居も食堂も快適よ。これは、ほんのお礼の気持ち。今日は無礼講よ。遠慮せずにどんどん食べて」
「本当にいい仕事ぶりだった。感謝する」
「エールが出来上がったら呼ぶからな。皆で飲み明かすぞ」
「すごい!こんな風にもてなしてもらえるなんて幸せです」
みんな喜び、我先にと料理の皿に群がった。
特に天ぷらは人気だった。
天つゆが用意できないので、適量の塩で食べてもらうしかなかったのだけど、揚げたてのサクサクの食感と野菜の甘みがうけたらしい。
イモの天ぷらを齧り、頬袋をパンパンにしながら、一匹のハムスターが呟いた。
「あ〜、子供にも食べさせてやりたいな。いつも米ばっかりで可哀想だ」
「え?お米があるの?」
「ええ。村の近くの沼に自生してるんです。たいして美味くもないんですが、腹持ちがいいんで子供が口寂しい時に食べてます」
「本当に!?それ、分けてもらえる?もちろんお礼はするわ」
「えっ?それは構いませんが、鳥のえさみたいな粗末なもんですよ」
「・・・どんな風に食べてるの?」
「え?穂から直接食べてますが」
(さすが齧歯類。固い生米でも普通に食べれるのか・・・)
「今度、皆の村に遊びに行ってもいいかしら。野菜とお菓子を持って行くわ。ぜひ、お米と交換して欲しいの」
三日月班の皆は顔を見合わせた。
「いつでもどうぞ。歓迎します」
「嬉しい!ありがとう!近々お邪魔するわね」
(お米だ!お米が手に入る!
こちらの世界に来て約半年。
どんなにお米が恋しかった事か。
まさか、自生しているとは。
この分なら、醤油も手に入るかもしれない。
なければ作ればいいのだ。
材料は確か大豆と麦と塩と水だったはず。
昔の人に作れたのだ。
自分でも出来るかもしれない。
ああ!いつか日本食が食べられるかもしれない。
神様、女神様、ありがとうございます!!
生きて行く希望が、また一つ増えました)
手を組んで感謝の祈りを捧げる私を、皆不思議そうに見ていた。
「そんなに米が食べたいのか?」
「ええ!お米は日本人の魂よ。こっちじゃ手に入らないと思ってあきらめてたのに、夢みたい!」
うきうきと上機嫌な私とは裏腹に、魔物達はますます不思議そうな顔をした。
「米が魂?つまりミホは魂を食べるのか?」
「え?え〜っと、私の国では大昔からお米を主食にしてて、神事に使うくらい大事にされてるの。先祖代々の命が込められた食べ物と考えられてるわ」
「面白い考え方だな」
「私の国ではお米を重要視していて、美味しくする為に品種改良もしているの。作り方はわからないけど、お酒の原料にもなってるのよ」
「ほぉ、興味深いな」
そんな訳で、私達は三日月班の皆が暮らす村を訪れる事になった。




