泣き顔
泣いてもいいと言われ安心したのか、スフィアは声を出して泣き始めた。
ベルガーは困った顔で立ちすくんでいたので、私はスフィアの側に行って座り、目線を合わせて黙って背中を撫でてやった。
しばらくして泣き声がしゃっくりに変わる頃、スフィアのお腹がぐ〜っと鳴った。
「・・・あっ」
スフィアはお腹を押さえて赤くなった。
「恥ずかしがる事ないわ。泣くのって結構体力使うからお腹空くのよね。何か軽く食べましょう。食堂まで案内してくれる?」
スフィアはベルガーが頷いたのを確認すると、「こっち」と手を引っ張ってくれた。
「ちょっと行ってくるわ。しばらく二人で話してて」
「わかった。私のいないところでローブは脱ぐんじゃないぞ。食われても知らんからな」
シヴァの言葉にヒヤリとした。
(そうだ。最近忘れそうになるけど、魔物は人間を食べるんだった・・・)
「・・・肝に銘じます」
◇◆◇◆◇◆
ベルガーは自分の椅子にどっかりと腰を降ろした。
「参った。女子供に泣かれるのは苦手だ。どうしていいかわからん」
「私も苦手だよ」
「その割には辛辣だったな。苦しみが一生続くなんて、たとえ本当でも傷ついている子供に言うべきじゃないだろう」
ベルガーの言葉にシヴァは天井を見上げた。
「そうかもしれん。私のやり方は間違っているかもしれない。
だが、さっきガロンをどういう風に育てたか聞いただろう。見ての通りだ。
私は、本人にとって辛い現実をごまかさずに伝えてきた。
その上で、どうしたいか本人の意思を確認し尊重してきた。
ここに来るのを決めたのもあの子自身だ」
「ここに来るのがそんなに辛い事か?」
ベルガーが憤慨したように言った。
「誤解するな。お前の下で訓練を受ける事に文句がある訳じゃない。
むしろ、私が教えるよりもあの子の能力を引き出してくれると信じている。
ただ、あの子は実の親から持て余されて私が引き取る事になった。
ようやく私に甘えられるようになった矢先に、また親元から離れて暮らす事になったんだ。あの時の、あの子の落ち込み方は可哀想なくらいだった。
家族の縁が薄いと感じてるかもしれない。
過保護と笑われてもいいさ。私はあの子を守りたいんだ」
シヴァはベルガーに向き直った。
「さっき訓練場の様子を見て思ったが、やはりガロンは目立ちすぎる。
戦場では真っ先に標的になるだろう。
お前を含めて、身体能力の高いパワー型の戦闘員は、つい防御を怠りがちだ。
一対一の対決なら心配はないが、戦争となれば話は別だ。
戦術や防御についてもしっかり教えてやってくれ」
「あの短時間でそこまで考えていたのか」
「ああ。魔王様は進んで戦争を起こす事はないだろうと信じているが、人間側から仕掛けられたら話は別だ。勇者を召喚した以上、近い将来戦争は避けて通れないとみていいだろう」
「勇者か・・・ミホはどうするんだ?」
「ミホはこちら側だよ。息子を奪還する為に奔走するだろうな。どんな行動に出るかは予想もつかないが」
「仮とはいえさすが夫婦だな。随分あいつのことをわかってるじゃないか」
「考えてる事がすべて顔に出るからな」
「ほ〜、それだけよく見てるってことか」
からかうようなベルガーの言葉に、シヴァはじろりと睨み返した。
「言っておくが、私が見てるのはミホだけじゃないぞ。
さっきミホに怒鳴られた時、お前の尻尾の毛が逆立ってるのだってしっかり見てるからな」
「・・・勘弁してくれ」
ベルガーが頭を抱えたのを見て、シヴァは苦笑した。
「お前はミホが苦手なようだが、あいつは種族の境なく子供を可愛がる愛情深い性格だ。
だからこそ、戦争が始まったら深く傷つくだろうな」
その時を思いやり、シヴァは瞳を閉じた。
「この先、どちらが勝っても負けてもミホは泣く事になる。
可哀想だがどうすることもできん。
私に出来るのは隣で支えてやる事ぐらいだ」
泣かれるのは苦手なんだがな、とシヴァはため息をついた。




