出会い
怖くなかったと言えば嘘になる。
しかし、自分より大きな未知の生物を間近で見た感動の方が勝っていた。
彼はまさに、恐竜のようだった。
全身、棘状の鎧のような鱗に覆われ、平らな頭の後頭部には棘状の突起がある。腹側の体面は濃いクリーム色で、背中側は美しい緑色。尻尾の先まで棘で覆われ、鋭い鉤爪を持つ姿は恐ろしげだが、こちらを興味深そうに見ている黒い瞳は丸く、愛嬌さえ感じる。
(綺麗な生き物だな)
ぼんやりと思っていると、不意に恐竜もどきが口を開いた。
「俺、かっこいい?竜みたいってホントか?」
ビックリした。捕食者にフレンドリーに話しかけられてしまった。
「うん。強そうで、すごくカッコいい」
正直に感想を言うと、恐竜もどきは嬉しそうに目を細めた。
「お前、人間か?何で逃げないんだ?俺が怖くないのか?」
「疲れて動けないの。足も怪我してるし。お腹も空いてるし」
言葉にすると、疲労と空腹感が一層ひどくなった。
思えば、キャンプ場で朝食をとったきり、飲まず食わずだ。もはや逃げる気力も無い。
「腹減ってんのか」
恐竜もどきは、自身が携帯している袋をゴソゴソ漁って、中から何かを取り出した。
「食うか?」
差し出されたのは、バレーボールくらいの大きさの黄色い果実だった。
甘い香りに思わずゴクリと喉が鳴った。
「いただきます」
一口齧ると、桃に似た上品な甘みが口中に広がった。
みずみずしい果汁が喉に沁み渡る。
「ん〜〜〜〜〜っ美味しい!!」
恐竜もどきは、ガツガツと夢中で食べる私をしばらく眺めていた。
「ごちそうさまでした。ありがとう。とっても美味しかった。おかげで生き返ったわ」
(もうすぐ食べられて死んじゃうけど。
最後の晩餐には、おにぎりが食べたかったけど、この果物もとても美味しかった。
うん、悪くない。こいつになら食べられてもいいや)
そんな覚悟を決めた私に、恐竜もどきはこう言い放った。
「よし決めた。今日からお前は俺が飼ってやる。心配するな」
(・・・いや、不安しかないよね・・・)
恐竜もどきのモデルはオオヨロイトカゲです。
私はカッコいいと思ってますが、苦手な方は多いでしょうね・・・