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6.同郷の夢人

突如現れた痛い女ユキは、レオと同じく転移者だった。


アーサーの小屋に戻り、3人はそれぞれ、意見を交わす。

 小屋の中は異様な光景だった。カーキ色の衣服を身に纏う赤髪のイケメン。灰色のスウェット姿の黒髪美少女。マントを纏い下半身だけジャージ姿で赤く腫れた鼻をさするフツメン。バラバラな外見の三者が三角形に陣取り、見つめ合っていた。


「俺の居心地が悪い」


「しょうがないじゃない、モブオなんだから」


「モブオというのがわからないが、レオのことを悪く言っているのはわかる。それはやめてくれないか」


 レオはユキより先にアーサーに出会っていて本当によかったと安堵する。この状況で自分に味方してくれるアーサーの存在はレオにとって心の拠り所だった。アーサーもユキに対する第一印象がよくなかったこともあってか、レオ贔屓の態度をとってしまっている。


「はーい。アーサーとモブオはだいぶ仲がいいのね」


「訂正してくれ。彼はモブオではない。レオだ」


(アーサーお前かっこよすぎ!!)


 可愛さを武器にする女の言うことなど気にも止めずに、自身の信念を貫こうとするアーサーにレオは感激する。レオは自分だったら可愛いから仕方ないと割り切っていたかもしれない。


「……ごめんなさい、アーサー。悪かったわね、レオ」


 レオには高飛車オーラプンプンのユキも、何故かアーサーの言うことには従順なことが腑に落ちないレオだったが、イケメンアーサーの手にかかればこんなものなのだろうと勝手に思い込む。


「やめてくれ。お前みたいな女に名前で呼ばれるのも慣れないんでな」


「……さっきは自分の名前はレオだとか言ってたくせに、どっちなのよ、失礼しちゃうわ」


「レオがそう言うなら、僕もこれ以上はもう言わないよ」


 本当のところ、レオは名前を呼ばれた瞬間、胸が締め付けられていた。それ故にレオと呼ばれることを受け入れられなかった。自分の好みドストライクの女の子に名前で呼ばれたことなんてなかったレオには、モブオと呼ばれるくらいがちょうどよかった。そんな情けない自分に目を背けながら、レオは現状の整理をすべく言葉を続ける。


「それでだ、俺とお前のことを整理しようと思う」


「モブオは昨晩、ここに来たとか言ってたわね。それ、アーサーは信じてるの?」


「信じているよ。レオは数年後の未来からこの場所に来たと言っている。ただ、僕のことを知っているということも僕自身よく理解した。簡単には信じられなかったが」


「アーサーが信じてくれるなら、話が早いわね。私もモブオと一緒。私が知っているアーサーの年齢は20歳のアーサーよ」


「お前も20歳のアーサーを知ってるのかよ」


「『も』ってことはモブオも? 私はアーサーだけじゃなく、その他の仲間も知っているわ。ティナにミーシャにドランの3人。みんな大事な私の仲間よ」


 その言葉にアーサーの目が驚きに見開かれる。レオを見つめ、その真偽の程を判断してもらいたい様子だったが、レオの方もユキの言葉に衝撃を受けていた。ユキが他の仲間達を知っているのに、レオはユキのことを知らない。ユキもレオのことを知らない。これは一体、どういうことなのだろうか。


「その3人を知ってるっていうことは、ユキはレオとも仲間だったんじゃないのかい? レオもその3人が仲間だって言っていたよ」


「モブオはそこにはいなかったわ。さっき会ったのが、はじめましてだもの」


「それは俺も同じだ」


 レオは気がかりなことがあった。ユキはレオ同様に、アーサーに嘘をついていると思われる。仲間だった、というのはレオ同様に一方的な感覚ではないだろうかと疑っている。もし今、この世界がリアル異世界でアーサーの存在がリアルであるならば、自分が見てきたアーサーと仲間達はきっとこれから先の未来に出会う本物であるはずなのだ。そして、それはユキも同じものを見ているということからも、真実だと思われる。

 しかし、レオが見守り続けてきたアーサーと仲間達の中にユキはいない。ユキの方も同じ感覚だ。それはつまりレオもユキも意識だけが彼らに空気のように寄り添っていたということ。だからお互いのことに気づけなかったということではないだろうか。


「あ、でも、最後にアーサーに会った時、みんなと私のほかにもう1人いたのよね。アーサーが私達みんなに御礼を言ってたの。その時、聞こえなかったけど確かにアーサーが知らない誰かの名前を呼んでいたわ」


「あ――」


 レオも思い出していた。最後に見たアーサーは確かに御礼を言っていた。順番に、一人ひとりの顔を見つめて。そしてレオは自分とアーサーの目が合ったと感じ、その瞬間に充足感を覚えていたのだ。確かにその時、もう一人の名前を呼んでいた。


「あれが……お前だったのかよ」


「……どうやら、モブオと私の認識は一致したようね」


「僕は全くお手上げだ。2人はあまり仲間意識がないようだけれど、確かに仲間のようだったことを思い出した。そんな未来の2人が、今こうしてここにいる。ということはこれから他の仲間も未来から僕に会いにきてくれるっていうことになるのかな?」


「それはないだろうな」


「それはないでしょうね」


 ユキはレオの顔を見て、発言が同調(シンクロ)したことに軽く舌打ちをする。レオはそんなユキを見て眉間に皺を寄せる。アーサーはそんな2人の同調(シンクロ)ぶりを強調して2人に問いただした。


「2人が実は仲がいいのだろうということはわかったよ。でも、どうして2人して息ぴったりで言い切れるんだい?」


「仲はよくねぇよ」


「モブオに同意するわ」


 レオとユキが『他の仲間は来ない』と言い切ったことを疑問に思うアーサーに何て答えを返そうかと、レオとユキは互いに見つめ探り合っていた。言ってしまえば自分達がこの世界の人間ではないからそう思っているというだけなのだが、この世界の人間でないのならなぜ未来で仲間だったのかという話になる。そう考えると真実を言うことは難しかった。

 すると言葉の続きを発しないそんな2人を見て、アーサーは諦めたように大きく息を吐いた。


「レオが黙るということは言えない何かがあるのだろうね。わかったよ、これ以上は聞かない」


「すまん、アーサー」


「構わないさ。それで、ユキはこれからどうするの?って聞くのも失礼な話かな」


「そうね、失礼な話だわ。あなたのかっこいい夢のために、モブオと共についていくわよ、アーサー」


「やはり、そうなんだね。レオもそれでいいのかい?」


「こいつをここに置いていくっつーのも、さすがにできないかな。俺もこいつも、きっと一人じゃ生きていけない。アーサーに守ってもらないと恐らくすぐに死ぬ気がする」


「確かにレオは昨日、死にかけていたね」


「おいコラ思い出させるんじゃねぇ。実は生死の境を彷徨っていたという事実を思い出す度に、背筋の寒気が止まらねぇんだから」


「ふっ、やはりモブオはモブなのね」


「お前も同郷ならわかるだろ、ここを甘く見てるとすぐ死ぬぞ」


「さぁ、どうかしら?」


 ユキの自信の源は何なのか。ただ単に無謀なのか、楽観的なだけなのか。この世界を夢で見てきたのであれば、どれだけ元の世界と比べ危険性が高いかはよくわかっているはずだ。しかし、ユキには身の危険を案ずる素振りはなかった。その様子に納得がいかなかったが、レオはそれ以上ユキと絡むと自身の精神衛生上よろしくないと判断し、その口をつぐんだ。






これから2人のお守りをしなければならないアーサーの苦労が思いやられます。


ゆっくり進めて参りますので、ゆっくりお付き合いいただければ幸いですm(__)m

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