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4.アーサー・ロレンスの夢

熊に右手を吹き飛ばされて、アーサーに応急処置をしてもらったレオ。


森の集落の治癒士の怪我を治してもらった帰り道、アーサーの過去、そしてその想いを知る。

「お前、なんでみんなのところに住まねぇの?」


 治癒士の元で治療を受けた帰り道、レオは治った右手を握っては開いてを繰り返し、痛みを感じないことに魔法の偉大さを感じながらアーサーに何気ない質問を飛ばす。

 朝、目が覚めるとレオはまだ夢の世界の中にいた。その状況に異常を感じたレオだったが、この夢の中に居続けることは嫌ではなく、なんならむしろずっとこの世界にいてもいいとさえ思っているため、覚めない夢への疑問よりもアーサーに対する疑問を解消することを優先した。

 アーサーは森の中の小屋に住んでおり、その小屋は森の中にある治癒士のいた集落から外れた場所にあった。


「レオは僕の家名を知っていても、ロレンス家に起こったことは知らないんだね?」


「聞いちゃマズイことだったか?」


「いや、構わないよ。知りたいなら話すけど、僕を憐れだとかは思わないでほしい」


「思わねぇよ。過去があってのお前だろ。過去の出来事を憐れむっつーのは、今ここにいるお前を対等に見てないってことだと俺は思う。お前がそんな前振りをするってことは、大変だったんだなって思うようなことがあったんだろうけど、せいぜいそう思うくらいだ。お前が話すの嫌じゃないなら教えてくれ」


 レオはアーサーを仲間であり友人だと思っている。そしてレオはそんな仲間に余計な気遣いは無用だと思っている。気心の知れた相手であるならば、感じたままをそのままぶつけてなんぼというのがレオの持論だ。

 アーサーにとってレオはまだ気心の知れたというポジションにはなっていないが、レオのそのスタンスがアーサーにとっては気楽だった。


「……ロレンス家は、僕以外、みんな殺されたんだ」


「いきなり重いな」


「やめようか?」


「アホか、それでやめさせるようなら知りたいなんて思わねぇよ。んで、どういう経緯でそうなったんだよ?」


 軽い口調ながらも真摯に受け止めるレオを見て、アーサーも冷静に過去を語り出した。


「ロレンス家はルーデンハイムの貴族だったんだけど、貴族間のいざこざに巻き込まれ、濡れ衣を着せられた。ロレンス家は抗弁する間もなく国家反逆者としての汚名を着せられ大罪人扱い。国家反逆罪が大罪であるのは知ってるよね?」


「どんな国でも、まぁ大抵そうだな。」


 ルーデンハイムというのは国名なのだろうが、今そこに触れるのは話の腰を折る気がして、レオは相槌を打つに留める。


「その結果、ロレンス家は一家諸共焼き討ちにあってね。その時、まだ幼かった僕は両親と使用人達の手によって何とか森に逃がされたんだけど」


「その時、お前何歳だよ?」


「10歳」


「7年前か、よく森で生きられたな」


「助けられたんだよ、さっきの集落のみんなに」


「なるほど。で、お前が集落の外れに住んでいることにどう繋がる?」


「集落のみんなを見たかい?」


「見るなというのが難しいな。エルフにドワーフ、獣人がみんなで楽しく暮らしているなんて、夢のような集落じゃねぇか。女の子とお近づきになりたかったぜ」


「みんな、ハーフやクォーターらしいけどね。レオの言う通り、とても素敵な集落で僕の第二の家族であることは間違いないけど」


「けど?」


「みんな、人族に対していい想い出はないんだよ。だから僕は自らあの小屋に住むことにして、あの集落に顔を出すのは最低限にしている。集落の人の中には一緒に住めばいいって言ってくれた人もいたけど、僕がロレンス家の生き残りというのも、あの集落に顔を出しづらい理由かな」


「何でロレンス家が関係してんだよ?」


「生き残りがいる、というのが国に知られている。そして僕のこの赤髪は、ルーデンハイムではロレンス家にしかいないんだ」


「みんなをロレンス家と同じ目に合わせるわけにはいかないってことか」


 やはりアーサーだった。自分がひどい目に遭ったというのに、どこまでも優しく、周りのことを考えている青年は、レオが長年見守り続けてきたアーサーそのものだった。


「10歳の頃からずっと一人で暮らしているのか?」


「最初の頃は毎日のように面倒を見に来てくれていたけどね。森での暮らし方とかも教えてもらったよ。ある程度、一人で暮らせる知識と力が身についてきたタイミングで、もう来なくていいって話したんだ」


 寂しそうに笑うアーサーの横顔を見て、レオの胸に湧き上がったのは、この世界に対する憤り。

 『もう来なくていい』と言った時のアーサー。きっと辛かったに違いない。

 『もう来なくていい』と言われた時の集落の人達。きっと悲しかったに違いない。

 お互いがお互いを想い合っているにも関わらず、なぜお互いが辛い想いをしなければならないのか。それは、この世界が間違っているからだ。どこかで何かが間違ってしまったからだ。ロレンス家が謀略に堕ちたのも、この世界が間違っているが故に起きた悲劇だ。


「この先どうすんだ? 年齢的にもそろそろ立派な大人の仲間入りだろ? ルーデンハイムに復讐でもするのか?」


 潔白な家族を強引に奪われるという残虐な仕打ちを受けたアーサーが復讐心に燃えたとしても不思議なことは何もない。しかし、レオはアーサーを知っている。多種族の仲間達と幸せに旅をするアーサーを知っている。だから、この問いかけの答えもわかっていた。


「この森からは出ていくつもりだよ。そして、この世界を変えたい。誰もが優しい気持ちで誰かを思いやれる世界にしたい。己の利益のために他者を貶める行為をなくしたい。人も、エルフも、ドワーフも、獣人も、ハーフも、クォーターも、全ての国で全ての種族が笑って暮らせるようにしたい。人族が他種族に持つ間違った認識を覆して、集落のみんなが怯えて暮らすことのないような世界を作りたい」


 アーサーの瞳には憎しみなどという濁りはなく、ただ真っ直ぐに澄んでいた。


「あぁ、作ろうぜ。その意見に俺は、大賛成だ」


 レオのその言葉に、アーサーは呆けた顔でレオを見つめる。


「なんだよ?」


「作ろうぜって、共に来るつもりかい?」


「当たり前だろ。お前は俺の長年の友人であり、仲間なんだから」


 レオにしてみればアーサーと別れるという選択肢などないのである。この世界でレオが知る者達と言えば、アーサーとその仲間達しかいない。しかし、かけがえのない仲間達だ。その仲間が世界を変えたいなどという大志を抱いているのであれば、支えるのが漢ってものだ。


「僕にはまだ、レオが仲間の実感ないけどね」


「てめぇっ! 今のは感動するシーンだろうがっ!」


 声を上げて笑うアーサー。その様子がどこか晴れやかな表情に見えたのは気のせいではないはずだ。


「ハハハッ! いいよ、共に行こう。いや、共に来てくれ、レオ。この世界を変える瞬間を、君に見せてあげるよ」


「お前それ、女の子に言ったら超かっこいいんだけどな」


「私もそう思うわ。実力を伴っていれば、ね」


「「?!」」


 森の中、突如響いた女性の声。その言葉の言い回しに敵意を感じ、アーサーは瞬時に剣の柄に手を伸ばし、レオはキョロキョロと辺りを見回す。


「世界変革の力があるか、見せてもらうわ!」


 張り上げた声が響き、すぐ傍の木の上から何者かが飛び降り、アーサーへと殴り掛かる。


 ――ガンッ――


 鈍い音が、森に響いた。





というわけで、女性キャラがちょびっとだけ登場です。


ゆっくり進めて参りますので、ゆっくりお付き合いいただければ幸いですm(__)m

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