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3.時間遡行

ずっと見続けていた夢に、やっと自身が顕現された玲雄。


しかし、やっと言葉を交わせた長年の友(一方的)であるアーサーは、玲雄のことのみならず、アーサーの大切な仲間達のことさえも、よくわかっていない状態だった。



「じょ、冗談、だろ……?」


 アーサーから発せられた衝撃の言葉。あれだけ仲睦まじく共に過ごしてきた仲間達を知らないなど、あり得ない。あってほしくない。

 しかし、その玲雄の確認に、アーサーは俯いたまま、頭を横に振る。

 アーサーは冗談であっても仲間達を知らないなどと言う人間ではないことはわかっている。仲間を大切にする人であることは、玲雄は散々見てきて知っている。そうなれば、残る可能性は……


「お前、アーサーだよな? アーサー・ロレンスだよな?」


「っ?! ……いかにも。僕はアーサー・ロレンスだ」


 これで人違いである可能性もこれで潰えた。この外見、この話し方で同姓同名など、早々いるものではない。だとするとあとは、玲雄の夢が今までの法則性を無視したということ。玲雄の夢はいつも繋がっていた。夢の途中で目が覚めれば、次に眠った時に、その夢の途中から始まる。多少の時間経過の差はあったが、それでも夢の続きであることが認識できるくらいには繋がっていた。

 今回は確かにその一続きの夢の法則性がなくなっている。最後にアーサー達を見たときは、日中の街中だ。しかし、今回のスタートは深夜の闇の中。加えて、玲雄自身が夢の中に存在できている。

 何か自分の中の潜在的意識が変わったのだろうか、その意識変革によって見る夢の内容が変わったのではないかと玲雄は自身を疑ったが、結局のところ、明確な答えなど出てこない。考えてもわからないことが明確な場合は、考える必要はない。加えて、夢のことを真剣に考えても基本的には無駄なことであり、目の前の落ち込んだ様子のアーサーを責めるのも筋違いである。そもそも普通は夢に連続性などないと、玲雄は割り切ることにした。


「まーいっか。」


「いいのかい? 僕は君の期待をことごとく裏切っているんじゃないのか?」


「んなこと言ったってしょうがねぇだろ。知らないもんは知らない。ならここから始めりゃいいだけだ。」


「……すまない、感謝する。」


 アーサーとしては責められることも想定していた。玲雄の愕然とした表情を目にしてしまえば、真面目なアーサーとしてはそう思うことも致し方ない。しかし、目の前の玲雄は責めることなど一切せずに、あっけらかんとその事実を受け入れた。その前向きな姿に、アーサーは少なからず救われていた。


「改めて自己紹介するぜ。俺は成土(なるど)玲雄(れお)。あ、こっちの名乗り方をするなら、玲雄(れお)成土(なるど)かな。よろしく、アーサー」


 玲雄は痛みのない左手をアーサーに差し出し、名を名乗る。その名前は小学生のころ、よくからかわれた呼び方だ。しかし、玲雄は個人的にはその名乗り方を気に入っていた。


「よろしく、レオナルド」


 やはりアーサーも同じ受け止めである。よく聞く名前が優先して認識されるのは人として当たり前だから仕方ない。


「いや、違うんだよアーサー。ナルドが苗字、いや、家名か。で、レオが俺の名前。よくレオナルドって言われんだけど、正しくはレオ・ナルドなんだよ」


「なるほど、それは失礼した。改めてよろしく、レオ」


「おぅ、よろしくな」


 握手できる程の距離までアーサーが近づき、レオの手を握る。その時、レオはアーサーと自身の違和感に気づいた。


「お前、なんか若くないか?」


「君の知っている僕は若くない、ということかな?」


「いや、最初に会った時は今くらいだったけど、俺の直近の記憶のお前はもう少し老けてた」


「ふふっ、レオは気を遣うということをしてくれないんだね」


「俺にとっちゃお前はよく知る奴なんでな、気なんか遣うつもりはねぇよ」


「あぁ、そうしてくれ。その方が僕もありがたい。でも、僕のことを若いって言う割に、レオも僕と同い年くらいに見えるよ。僕は17歳だけど、レオはいくつなんだい?」


 アーサーのその言葉に、自身の感じた違和感が正しいことに気づく。

 レオは19歳の時、嵐の日に雷の直撃を受けるという不運に見舞われ、右腕には火傷のような跡が残った。雷をその身に受けてからアーサー達の夢を見るようになり、レオは6年間、彼らと共に生きてきた。そんなレオが初めて出会ったアーサーの年齢は18歳。その時すでに、仲間のみんなはアーサーと共にいた。

 夢の中の彼らはレオの過ごす6年の月日の流れとは違った時の流れにいるようで、6年経ってもアーサーは少し年を取るだけで20歳だった。

 レオとアーサー達の時の流れの話は別にして、今のアーサーの年齢はレオが初めて出会ったアーサーよりも更に1年前のアーサーだということだ。

 加えて、レオの右腕には雷の傷跡がない。夢の中だからかもしれないが、傷跡がない、ということはレオの年齢は雷を受ける前の年齢ということだ。

 出会った時よりもアーサーが1歳若いということは――


「どうやら俺は、18歳らしい」


 ということにしておく。


「同い年くらいという僕の目は正しかったというわけだ」


 自身の読みが当たったことに満足そうにレオの手を握るアーサー。

 その一方でレオは、今の状況、アーサーがこれから仲間達との出会いを果たす可能性に胸を躍らせていた。自分もその仲間達との出会いに立ち会える。そんな未来に想いを馳せていると、アーサーが気まずそうに言葉を続けた。


「聞いてもいいかい?」


「あぁ、なんだ?」


「先ほどのレオの発言の『どうやら』っていうのが気になるんだけど」


「あぁ……ん~……信じてもらえるかわからないくらい、突拍子もない話だけど、いいか?」


「信じるよ。僕の名前、しかも今では一部の人しか知らないであろう家名まで言い当てたレオだし、さっき仲間達らしき人の名前を挙げた時の君の顔を見れば、嘘をつくようにも思えない」


「どんな顔してた?」


「それはもう、愛しさと優しさに満ちていたよ」


「やめろよバカ、恥ずかしい」


「そして僕が、君達を知らないことで、その表情を壊してしまったこと、申し訳ないと思っている」


「だーかーらー! その話はもう終わったろ? いつまでそんな話してんだよ面倒くせぇやつだな。でもまぁ……そうか、むしろ、これから話すことはそれだ。お前があいつらのことを知らないのは当たり前なんだよ」


「どういうことだい?」


 そしてレオは話し始めた。

 19歳の時に雷を受けた傷が右腕にないことから、今の自分がその時以前の年齢と思われるが故に『どうやら』と言ったこと。

 レオの知る仲間達に囲まれているアーサーの年齢は18歳だったこと。

 だからこの1年間の間に、その仲間達と出会うことになるということ。

 つまり、レオが未来からこの場に来ているということ。

 もちろん、レオが見ている夢の中でみんなが生きているなどということは言わない。当たり前だ。もし、自分が他人から『お前は俺の夢の中の人物だ』などと言われたらどう思うだろうか。そんなやつ、狂人としか思えない。だからレオはそのことだけは言わなかった。


「なるほど……それは確かに突拍子もない話だね」


「信じるのか?」


「信じたい、というのが本音かな。レオは、これから起こることを知っていると思っていいのかな?」


「いや、それは俺にもわからない。俺がお前らを知るようになったのは、お前らが全員揃ったあとだったから」


「なるほど、レオは僕のパーティの一番下っ端だったんだね」


「なにその見下した言い方っ! お前あれだろ、俺のこと嫌いだろっ?!」


「ふふっ、まさか。こんなに気さくに気楽に話したのは久しぶりだよ。君みたいな人が仲間で、心底嬉しいと思っている」


 アーサーの反応は嬉しいものであったが、レオを襲ったのは加えて少しの罪悪感だった。

 レオはパーティの新入りではない。ただ、空気のように傍で見守っていただけだ。しかし、そんなことは言えない。仲間でもないのに、さも仲間のように振る舞っているというのはレオに起こっている事象を理解してもらえない限りは、とんだ勘違い野郎と思われるだけである。そして、その事象のことはレオが狂人と思われないためにも言うことはできない。だからこのダンマリだけは許してほしいと、レオはいるかもわからぬ神に祈った。


「さぁ、今日はもう休むといい。あと2~3時間もすれば陽が昇るけど、少しだけでも寝た方がいい。僕も自身の部屋で寝るとするよ。陽が昇ったら治癒士のもとへ向かおう」


 ここで寝てしまえば、レオとアーサーには別れの時が来るかもしれない。もしくは、この続きから夢を見るかもしれない。どうなるかは、この夢から覚めて再び眠りにつかなければわからない。レオの夢は、夢の世界で眠らなければ覚めることがない、というわけでもない。日常のシーンであっても風景が、音が、フェードアウトしていく時もある。覚醒の瞬間は、現実世界のレオ自身の身体次第なのだ。だからレオは考えるのをやめる。今、この瞬間、アーサーに向けて発する最も適切な言葉を掛けるだけにとどめ、眠りにつくことにした。


「あぁ、わかったよ。おやすみ、相棒」





次話で女性キャラが登場予定です(ちょびっとだけ、さきっちょだけ)。


ゆっくり進めて参りますので、ゆっくりお付き合いいただければ幸いですm(__)m

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