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20.神都到着

「素敵ね! ここがギフティアか〜すごい大きな街なのね!」


 森にいた時から楽しみだと言っていたティナがその華奢な身体を弾ませながら笑っている。その動きになびき煌めく金髪が、ティナの心をそのまま表しているようだった。そんなティナの背を見ながら、レオとユキも感嘆の声を上げる。


「実際に目にするとすごいな。中世の西洋みたいだ」

「中世の西洋見たことない癖に。そんな言葉でこの街を表すなんてナンセンスよ」

「じゃあお前なら何て言うんだよ」

「言葉になんて出来ないほど美しいわ」

「――っ!」


 確かにそう言った方が称賛としてはそれっぽい。

 悔しさを顔に出すレオをユキはどや顔で見下していた。


 森を抜けて数日、特に新たな災難に遭うこともなくほぼ予定通りにレオ達はギフティアに無事に到着した。しかし、まだ安心は出来ない。街に着いてまずやることと言えば、寝床の確保である。せっかく街に着いたというのに宿の確保が出来ないなど惨めにも程がある。それだけは避けたいところだ。

 しかし、レオとユキは文無しである。それは事前にアーサーにも承知してもらっている。ただ、ティナも含め4人が泊まれるだけの金銭をアーサーが持っているかどうかは定かではなかった。


「アーサー、金、いくらある?」

「金貨10枚と銀貨約50枚ってところ」

「ティナは?」

「今まで森の外に出たことのない私がお金なんて持ち歩いていると思う?」

「だよな」


 アーサーによるとこの世界では銀貨100枚で金貨1枚と等価らしい。銀貨の下は銅貨。そして宿泊に要する費用はというと……


「2人部屋を2部屋で1週間、前払いご一括ですと金貨5枚となります。朝食代も含んでの金額となります」


 ギフティアに入って一番最初に見つけた宿屋――中心部から離れているさびれ気味の宿屋でもこの金額だ。今のままだと2週間しか生活できない。これは早々に働き口を探さなければ生活できなくなってしまう。この世界は剣と魔法の世界だし、依頼(クエスト)をこなして報酬を受け取ることになるようだから自分達4人でこなせる無難な依頼クエストを探すことがひとまずの目標だ。


 などとレオが頭を悩ませている脇でアーサーが笑顔で愛想よく宿屋の娘に支払いをしようとしていると、宿屋の主人と女将だろうか、奥からじっとティナを見つめる男女がいた。冒険者の都と言われるここギフティアでも、エルフはやはり珍しいらしい。


「ティナ……嫌なら場所変えるよ」

「別に気にしないわよ。ずっとここに住むわけじゃないでしょ? 他の仲間も探さないといけないんだろうし」

「じゃあ1週間後には、場所を変えることを目標にしようか」

「無理しなくていいわよ。むしろあなたが変えたいという世界の片鱗が見えてよかったわ」


 ティナの視線は確かに動じた様子もなく、ただマジマジと自身を見つめる男女を見つめ返していた。

 そんな男女を横目に支払いを済ませ、一行は鍵を受け取り部屋へと向かう。


「少し休んだら、陽のある内に冒険者ギルドに行こう。すぐに依頼クエストを受けられるように登録だけでも今日のうちにしておこうか」

「その辺のことは俺もよくわからねぇから、任せるよ」

「じゃあ準備が出来たら2人に声掛けたらいいわね! ここ、温泉が出るとか書いてあったわ! 温泉って何かしら?!」


 ここギフティアは神に愛された都と言われ、温泉が湧いており、この街の全ての宿屋で温かい風呂に入れるということだ。

 ティナは温泉に触れるのは初めてらしい。早く部屋を見たくてウズウズしているようだった。


「行こう、ユキ! 」

「ちょ、ちょっと、待ってよティナ」


 幼い少女のようにハシャぎながら部屋に向かうティナと、そのティナに手を引かれるユキの様子に思わず頰が緩む。しかし、風呂に入るつもりなのだろうか。アーサーは『少し休んだら』と言ったのだ。風呂に入るとすると、少しどころではなくなる。

 アーサーにそのことを指摘すると――


「まぁいいんじゃないかな、せっかくの初めての街なんだし、あんなに喜んでいるティナに水を差すなんてしたくないよ」


 と、ティナには激甘なアーサーなのであった。


 金銭面の心配はあるにしても、何はともあれ旅は順調だ。

 開始早々、ティナに出会え、無事にギフティアまで辿り着けた。

 あとはドランとミーシャとの合流だったが、現時点においてはドワーフと獣人の情報らしい情報は全くなく、正直、探す当てがない。


 レオは冒険者ギルドにそれらしい情報があることを願い、片っ端から聞き込みでもするかと思考を巡らせながら、1週間寝泊まりをすることになる自分達の部屋へと足を踏み入れた。


「うん、まぁ、普通の宿屋だな」

「もっといい部屋を期待したのかい?」

「いんや、別に。野宿じゃないだけ幸せだよ」


 そして浴室らしき扉を開けて中を確認する。そこには源泉かけ流しのバスタブが設置されていた。


「それにこんな風呂なら言うことない」

「先に身体を流していいよ、レオ。どうせ僕達2人が別々に入ったところで、ティナ達の方が時間かかるだろう」

「お! じゃあ先いただくぜ!」


 そしてアーサーのお言葉に甘え、レオは長旅の汚れを落とすことにする。しかし、この行動が自分達の立場を危うくするとはレオも、アーサーすらも思っていなかった。




 ◇◇◇




「信じらんないっ! 少し休んだらって話だったのに、私達を放ったらかしにして湯浴みするなんて図々しいと思わないの?」


 濡れた髪を顔に張り付かせ、レオは自室の浴室の前で正座していた。アーサーに促され、喜んで入浴を始めたまではよかったが、なんとそのすぐ後にティナとユキが来たのだ。それはつまり2人は風呂には入らず、アーサーが言った『少し休んだら』を忠実に守ったということだ。アーサーは即座に事の緊急性を察知し、レオにすぐ声を掛けたものの濡れた髪が全てを物語っていた。レオのその姿を見たティナとユキは一気にご機嫌斜めである。それも当然だろう。彼女達から見れば、このレオはティナとユキに断りなく我儘な振る舞いをしているだけなのだから。2人は容赦なくその不機嫌さをぶつけていた。


「はい……すみません。おっしゃる通りです。てっきり、ティナもユキも風呂に入るんだと――」

「モブオがモブオたる所以(ゆえん)は、その思い込みかしらね。私達そんなこと一言でも言ったかしら?」

「僕も悪いんだ、ごめん。僕も2人が湯浴みすると思っていたからレオに湯浴みを促したんだ。レオだけを責めないでくれ」


 正座をするレオの隣にアーサーも正座をして座る。アーサーにはこの正座の意味なんてわからないはずなのに、レオを惨めな姿で独りぼっちにさせまいという意思表示なのだろう。そのイケメン精神がレオの胸を打つ。


「お前、本当なんでそんなイケメンなの?」

「だって真実じゃないか」

「……惚れてまうやろ」

「そんな恍惚の表情でやめておくれよ、本気に見えるから」


 その2人の様子に、ティナもユキも毒気を抜かれたのか溜め息をつく。


「わかったわ、もういいから。早く準備していきましょ。今日中に冒険者登録っていうのするんでしょ?」

「ティナは優しいからこう言っているけど、アーサーもモブオもちゃんと反省すること」

「「はい……」」


 一旦のお許しを受けて立ち上がりそそくさと準備を急ぐ2人。それぞれのヒロインの機嫌を損ねてしまったことをどうやって挽回しようかと、レオもアーサーも頭を悩ますのだった。





ここまでお読みいただきありがとうございます。

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