18.発現した謎の魔法
レオの叫び声を耳にしたアーサーとティナは即座に緊急事態と判断して駆け出した。そして水場まで辿り着くと、目の前に広がる光景を見て2人は愕然とする。
片腕が切断され、血溜まりの広がる地面に伏しているレオ。そのすぐそばで爆散した光の何か。そして、一見怪我はないように見えるが、その光の粒子を浴びて意識を失っているユキ。
2人の命を守ることが最優先だった。
治癒魔法はティナに任せるべきだと判断したアーサーは、外傷がひどいレオをティナに任せるべく自身はユキに駆けながら叫ぶ。
「ティナ!! レオの止血を!!」
「切断された腕が見当たらないわ!! このまま傷口ふさいだらもうくっつかないわよ!!」
「仕方ない!! 死ぬよりはマシだ!!」
ティナはアーサーの指示を即座に忠実に実行する。その隣でアーサーはユキの呼吸と脈動を確かめると、頰を軽く叩き意識を呼び戻そうと試みた。するとすぐにユキは目を開けて叫んだ。
「っ?! レオは?!」
ティナの方へと顔を向けるアーサーの視線を追ってユキも身体を起こす。
その視線の先には、顔面蒼白となり片腕を失くしたレオがティナの治癒魔法の光に包まれている。
「大丈夫なの?!」
ティナの元へと駆け寄ると、ティナの顔色は冴えない。
「血を失い過ぎているわ、助かるかどうか……」
ティナの額には大粒の汗が浮かんでいる。状況がよくないことは明白だった。
ならば、このティナですら驚いた自身の魔力量がこの場で役立つのではないか。
ユキはティナの魔法講座を思い出す。
自らの魔力を用いて行う魔法。その場合の最も重要なことはイメージ。
レオの右手は何度も壊されている。レオによればこの世界に来た時に1回、次に彷徨いの森で1回、そして今回で、全部で3回。全て右手だ。加えて言うなら前に雷に撃たれたのも右手だと言っていた。
死神の恨みを買うようなことでもしたのだろうか。全て右手に傷を負うなど普通なら考えられない。
(レオの死神よ、これ以上こいつの右手に執着するのなら私が許さない。こいつは私のものなのよ。二度と持っていけないようにしてやる)
ユキはレオの右腕があったところ、今まさにティナが止血をしているところにティナと同じように手をかざす。血は止まりつつあるものの、命が繋ぎ止められているかも定かではない様子だ。その様子にアーサーも見守ることしかできずにいる。
(二度と壊れない不壊金剛の右腕をここに……)
「私の魔力なんて枯れても構わないから! 必要なだけ持っていきなさいっ!」
そのユキの叫びと同時に、ユキの手の先から膨大な光が放たれた。その光に思わずアーサーもティナも目を覆う。
2人が次に目を開いた時に飛び込んできたのは、レオの上に倒れ込んでいるユキ。そして、顔色も元通りになったレオだった。
そのレオには失くなったはずの腕が復元されており、綺麗に元通りとなっていた。
「うそ……無から有を生み出す魔法でも、身体を作り出すなんて……」
その衝撃の光景にティナは驚きを隠せない。アーサーはそんなティナの肩を軽く叩くと、レオとユキの2人を野営場所まで運ぼうと促したのだった。
◇◇◇
「どういうことなのかしら」
あまりにも衝撃だったのか、ティナは揺れ動く瞳をアーサーへ向ける。レオもユキもまだ眠っている。
「僕より魔法の知識が豊富なティナがわからないのだから、僕にもお手上げかな」
「推測でいいわよ。考えられることってない?」
縋るような目で美しいエルフに見つめられては、思い浮かぶものも思い浮かばない。アーサーはティナから視線を外して思いを巡らせる。すると、意見を求めてきたティナの方が『まさか』と呟いた。
「ユキのあれは、古代に存在したと言われている蘇生魔法のようだったわ。でもそんなこと、あり得ると思う? 神々の奇跡を行使できる存在なんて今の時代、もういないのに」
「そもそも古代の蘇生魔法を僕は聞いたこともないけど、レオとユキの話自体、信じられないような突拍子もない話だし、特別な何かがあるんじゃないかな? 僕達が駆け付けた時のユキを包んでいた光の正体もわからないし」
「確かにそうね……ユキが起きるのを待つしかないわね」
すると先に目を覚ましたのはレオだった。
「大丈夫かい? 気分は?」
「すまない……心配かけたな。気分は最悪だぜ、どうせまた俺の腕、ひどいことになっているんだろ?」
そう言い、レオは恐る恐る、痛みすら感じない自身の右腕に目を移す。しかしそこには何の怪我もしていない右腕があるだけだった。確かに無残にねじり切られたはずなのに。
「ティナの魔法ってやっぱすげぇな」
「私じゃないわよ。私でもレオの腕を治すのは無理だった。あなたの命すら、もしかしたら救えていなかったかもしれない」
「へ?」
「すぐに目を覚ましたユキが、レオを救ったんだよ。ティナにもよくわからない魔法を使ってね」
「こいつが……?」
アーサーとティナの視線を追って自らの隣に目をやると、そこには穏やかな顔で眠っているユキがいた。
「起きたら憎まれ口じゃなくて、ちゃんと御礼言いなさいよね。ユキ、必死だったわよ。『私の魔力なんて枯れても構わない』って叫んで魔法を使ったんだから」
「そっか……魔法って、そんなに簡単に使えるのか? ティナに教えてもらったばっかりだろ?」
「自分の魔力を使う場合の魔法は、本人の魔法属性と行使しようとする魔法イメージさえ合っていれば使える人もいるわ。まぁ、今にも死にそうな状態を回復させるだけの魔法と、腕を復元するほどの魔法となれば、そんなのは天才という部類の人だけかしら。普通は経験を積んでその威力が増していくものだから」
「こいつ、そんなにすごかったのか」
「ユキはそんな天才よりも、もっと特別よ。レオの腕、見つからなくてね。私の魔法だけだったら助かっても片腕は失われていたはずだったわ。でも、ユキは何もない状態から失われた身体を元に戻す復元魔法を使ったの。失われた肉体を復元することなんてできないはずなのに」
「……マジかよ」
この性悪ヒロインが自分のために必死になって超常的な魔法を行使してくれた事実が嬉しくて、レオは穏やかに眠るユキの頭を感謝の意を込めて優しく撫でる。
普段なら何を言われるかわかったもんじゃない行為だが、性悪お姫様は今も静かに眠っている。もしこの瞬間に目覚められても安心だ。変なことをするわけじゃないという保証人として、アーサーとティナも見てくれているのだから。
ユキが目覚めたらちゃんと礼を言おう。
でも、起きていない今、自分の中に生まれた感謝の想いを少しでも表したかった。その表現方法として頭を撫でることを、今はただ許してほしかった。
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