14.美男美女の戯れ
里を出てギフティアを目指す4人。
旅の日常の一場面です。
「あ~楽しみ~!」
彷徨いの森の中をティナはぴょんぴょんと跳ねるように歩いている。出たことのなかった森をこれから出て、未知なる世界への冒険が始まったのである。ティナはエルフ族にしては珍しく好奇心旺盛なタイプであり、そんな性格の持ち主に落ち着いて歩けと言うのは少々無理があった。舞い上がるティナの隣を歩くのはユキで、女性陣の数歩後ろにアーサーとレオが並んで歩く形だ。戦力にならないレオとユキを、戦力になるアーサーとティナにペアで歩かせている形となる。もちろん誰かが意識的にそうしたわけではなく、ただ単に男女で分かれただけだろう。
「ティナ、嬉しそうね」
「そりゃあねぇ。ダリア達も里に残れるし、私は外に出られるし」
「……怖くないの? 街についたら、どんな反応されるとか」
ユキは明るいティナの顔が街に着いてから曇るのを見たくなかったのか、案ずるようにティナに問いかける。
「街の人達がどんな反応しようが、ユキ達がいるじゃない? だったら別にどうでもいいわ」
「最初の時は信じられないって言ってたのに、私達、だいぶ信頼されるようになったのね」
ユキの声のトーンは暗くはないが、その表情は明るいとも言い切れない。その表情は、ティナにも少し引っかかるものがあった。
「あんな真面目な顔して世界を変えるとか言う人の仲間なら、信じてもいいかなってね。それとも何、私の態度が信じられない?」
「ううん、そういうわけじゃないわ。私だって、ティナと仲良くできるなら嬉しいし、私もティナのこと信じてるもの」
ユキの言葉には偽りを含むようには聞こえず、その言葉の通りきっと真実なのであろうことがティナにも受け取れた。しかし、その言葉を発する表情は、どこか堅かった。
「ユキ、あなた、何か知らないけど、私に遠慮してない?」
「へっ?!」
ティナのいきなりの指摘にユキは素っ頓狂な声を上げる。ユキにとっては思わぬツッコミだったのは間違いない。しかし、そのツッコミは決してネガティヴな印象はなく、からかうようなツッコミだ。
「ど、どうしてそう思うの?」
「アーサーやレオに接する態度と比べると、少し距離を感じるわ。ユキの方こそ、エルフ族は怖かったりする?」
「まさか! 私はティナのこと大好きだわ……でも、確かに少し緊張してるかも。やっぱりティナ、すごい綺麗だし、同じ女性としてでも、こんなに綺麗な人と一緒に歩くのは緊張しちゃう」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、人族はエルフ族の容姿をみんな褒めるらしいじゃない? 私、その感覚よくわからないのよね。私からしたらユキの方がよっぽど素敵よ? 隣で歩く私が引け目を感じるくらいにね。ユキがそんなこと言うから私も意識し始めちゃったじゃない」
ティナははにかむように首を傾げてユキに笑いかけ、その笑顔にユキも自然と頬が緩む。エルフ族の美女と人族の美少女の褒め合い。遠慮がちだったユキも、ティナの言葉に段々と普段の調子を取り戻していったようだった。
「目の前で美女が仲睦まじく親交を深める姿は癒されるな」
「そうだね」
そんなティナとユキの様子を数歩下がったところから見守るアーサーとレオ。レオはやけに素直な返事をするアーサーを不審に思い、気になっていたことを問いただす。
「……アーサー、お前、エルフ好きだろ」
「えっ?! な、なんでそう思うのさ?!」
「……わっかりやすいなぁお前」
「な、なんでさ! レオの言い分を聞こうじゃないか!」
図星をつかれ、頬を赤くするアーサー。その様子はレオがこの世界に来てから見たどのアーサーよりも動揺していた。
「ふっふっふ。では、レオ様が直々にアーサー観察記録の報告をしてやろう」
「お願い……します」
「本当素直だなお前。まぁそれがアーサーの美徳だけどさ」
「そういうのはもういいから、早く教えておくれよ」
「はいはい。じゃあ言うけど、まぁ簡単な話だ。ユキに動じないお前が、ティナには動じた。ただ、それだけの話だ」
「え? どういうことだい?」
「んーわかりやすく言うとだな……」
レオはそこで声の大きさを下げる。別に今の大きさのままでも声がユキ達に聞こえることはないのだが、これから話すことは万が一にでもユキに聞かれたくはない、というレオの意思表示だ。
「認めるのはすんごい癪なんだが、ユキは滅茶苦茶可愛いと俺は思ってる。黒髪に円らな瞳ながらも芯の強さを漂わせる強気な視線。かと思いきや誰もに愛される小動物のような愛らしさを常に俺以外に振りまいている。俺以外、ここ重要な。だから認めるのが癪なんだが、正直、今まで俺が出会って来た同郷の人族でナンバーワンであることは間違いない。そんなユキに、お前は全くトキメく素振りも見せてはいなかった」
「ほ、ほら、人って好みそれぞれだしさ」
「関係ねぇ。基本的にあれほどの可愛さになれば、全世界共通認識レベルだ」
「それはレオの思い込み――」
「かもしれない。俺から見たらユキもティナも全世界レベルで可愛い。でも、お前にとってはティナだ。昨日の責任とって発言のティナにお前は頬を赤らめていた。それが、俺の答えだ」
「――」
「どうだ?違うなら違うって言っていいぞ」
返事のないアーサーをあおる。しかし、返ってくる答えはレオには明白だった。
「……まぁ、嘘つく必要もないから言うけどさ、その通りだよ。僕は昔からエルフに憧れていた」
「だよな。でも、お前の集落にもエルフいたじゃねぇか」
「いたよ、でも、僕が10歳から集落のみんなは知ってるから、家族みたいなものだったし、綺麗だなとは思っていたけど、女性として見たことなんてなかったよ」
「家族以外の初めてのエルフか。あれ、でも、初めてのエルフはダリアさんになるのか?」
「う~ん…いや、あの時はまだダリアさんがエルフとは気づいてなかったから初めてのエルフはティナだね。まぁ順序的な話は別にして、不思議なのがティナに感じた高揚感をダリアさんには感じなかったんだよね」
「……アーサー、それ、本人達の前、というか俺以外の前では言っちゃダメなやつだ。失礼になるからな、気をつけろよ」
アーサーはエルフに憧れていたというか、今の流れからすると、ただ単にティナに対しての一目惚れのような気がしなくもない。それに気づいていないのか、悪意のない様子でティナとダリアを比較するアーサーにレオは冷や汗を覚える。
誰かへ向けた感情の話をする時に、他者との比較をすることは失礼なことこの上ない。紳士的なアーサーがそのことに気づかないわけがないのだが、無意識の一目惚れで周りが見えなくなっているのかもしれない。
「えっ、あ、うん、そうだね。ありがとう……レオ、もし今後気づく点があれば、遠慮なく今のように指摘してほしい。僕はそうやってちゃんと指摘してくれる兄みたいな存在、いなかったからさ。勉強になるよ」
「あぁ、任せろ」
何事にも謙虚で前向きなアーサーは本当に好感が持てる。そんな彼の足りない部分を、自分が補足することができるならレオはいくらでも補足しようと思っていた。そして年上の自分が教育的指導をしていくことで、アーサーを一人前の男にしてやろうと意気込む。
(まぁ俺がイケメンに男の在り方を指導するとか無理がありまくりなんだけどな……)
そうは思ってはいても、アーサーがレオに心を開き、頼って来てくれている姿が嬉しくてそんなことはおくびにも出さない。
何故ならそれは、戦闘能力も顔も性格もアーサーに敵わないと自負しているレオが、唯一アーサーに対して背伸びができそうなポイントなのだから。
「それにしても僕が秘密にしてきた『エルフ好き』がバレるなんて……レオ、僕のこと見過ぎじゃないかい? やっぱり僕のこと――」
「ちげぇよバカ殴るぞ」
男女4人の笑い声が森に響く。男と女の話題は異なれど、その4人が深い絆で結ばれることの兆しに思えた。一人を除く美男美女の戯れは、とても眩しいながらも、その居心地はとても快かった。
(早くお前らもここに来いよ、ドラン、ミーシャ。特に、ドラン、早く来てくれ)
ティナと無事に合流できたレオは、パーティ内の恋愛事情的な立場が自身と変わらぬであろう仲間を特に意識しながら、まだ見ぬ仲間に想いを馳せたのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
里を出て、ティナは仲間になりました。
では、もう一つの目的はどうなったのか?
それは次話で。
ゆっくり進めて参りますので、ゆっくりお付き合いいただければ幸いですm(__)m
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