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13.変革の風

ダリアに連れられ、一足先にティナの家へと招かれるレオ達。


ダリアがこぼす里にいられない理由はなんなのか?


「簡素な作りでごめんなさいね、エルフ族ってみんなこうだから、決してティナが洒落てないとかいうわけじゃないから、勘違いはしないであげてください」


「あ、いえ、大丈夫です、ありがとうございます」


 ダリアに連れられティナの家に入ると、確かにあまり装飾のない簡素な作りだったが、特段気にするほどでもなかった。


「アーサーの家の方が簡素だったな」


「確かにそうね、アーサーの家に比べたら、女の子の家って感じがすごいするわ」


「だな。いい匂いだ」


「やめなさいモブオ。追い出すわよ、女の敵め」


 ふと本音が溢れてしまい、ユキに軽蔑の眼差しで睨まれたレオは危うく深呼吸しそうになった自らを間一髪で押し留めると、ユキの言葉をなかったことにすべく話題を変えた。


「……それにしてもアーサー、まさかお前、あの場面でティナを口説くとは思わなかったぞ」


 自らの失態を誤魔化すべく会話の矛先をアーサーに向けると、アーサーは深呼吸して「確かに僕の部屋と違ってとてもいい匂いだ」と爽やかな笑顔で言い放つ。

 レオはそんなアーサーを指差してユキに審判を委ねるが、ユキは全く糾弾する素振りはない。視線で不信感をユキにぶつけていると、ユキは「爽やかさの違いよ」と一言言うだけだった。


(俺も爽やかにサラッと言ったじゃん!! 確かに少しやましい、というかヤラシイ気持ちあったけれどもさ! なんだよ!! そもそもの見た目的な問題ですかね?! これだからイケメンに弱い女はムカつくぜ!)


 レオは自分のやましい気持ちを棚に上げ、ユキの素振りに心の中で悪態をつく。そして即座に自分の中の汚い感情に嫌悪感を抱き、反省する。


(悪いのはユキか? どちらかと言えば、大事な仲間の匂いをヤラシい思いで嗅ぐ俺が悪だろ)


「すまん」


「仕方ないわ、あの爽やかさは途中からそう簡単に身に着くものでもないし。モブオにそれを求めた私も酷なことをしたわ、ごめんなさい」


「いや、なんか微妙に噛み合ってないし、その上、謝られてるようで貶されてるよね俺。まぁもういいけどさそれで。で、アーサー、さっきの聞いてたか?」


「あぁ、ごめん、ティナを誘った時の話だっけ? いやぁ、話してたら気持ちが昂ぶってしまってさ。気がついたらあんなことになってたよ。断られた時、どうしようかと頭が真っ白になったけどね」


「あの時は俺もビックリしすぎて気まずかったわ。キメ顔してたであろうお前の顔がどんだけ絶望感に包まれてたか見てやりたかったが、ちょっと可哀想で見てやれなかった、悪いな」


「いや、むしろ見ないでくれてよかったよ」


「あら、私はバッチリ見たわよ。唖然として口を半開きにして固まってたわよ」


「や、やめてよユキ! そんな冷静に言わないでくれ!」


「でもいいじゃない、考えさせてってティナも言ったんだから、可能性はゼロじゃないでしょ」


「そのことなのですが……」


 レオ達の会話を聞いていた微笑みを浮かべながら聞いていたダリアが口を挟む。そして、その表情が徐々に暗くなっていく。


「ティナは、きっと皆さんと共に里を出る決断をしたいのだと思います。昔から、この里の在り方に疑問を持っていた子なので……ですが、私達親子が、ティナをこの里に縛り付けてしまうかもしれません」


「それはダリアさん達がこの里から追い出されようとしていたことが関係しているということでしょうか?」


「はい。あの子は、ご存知の通り、優しい子なので」


「聞いてもよろしいですか? 何故、里を追い出されるようになったのか」


 アーサーが問うと、ダリアは昔を思い出すかのように宙空を見つめ、ゆっくりと話し出した。


「私は昔、この森に迷い込んだ人族に恋をしました。最初は怪我をしていたあの人を、森の中で手当てして、日々、様子を見に行くだけでしたが、日を重ね、あの人を知れば知るほど私はあの人に惹かれ、そしてあの人の話を聞くうちに森の外へと興味が湧くようになりました」


「でも、それってこの里ではーー」


「はい、もちろん人族との接触は禁止されていましたし、里の外に出ることなどは以ての外でした。でも、それ以上に私は、あの人と外の世界に惹かれてしまっていた。……そして、私は里の引き止めを無視し、あの人とこの森を出て行き、そして、生まれたのがアリシアです」


「ご主人は?」


「人族とエルフ族が人族の街で暮らすには、この世界は厳しすぎました……周囲の風当たりは強く、はじめのうちはお互いを支えに頑張っていましたが、仕事もろくにあてがわれなくなると、やがて主人は心を病み、病に倒れました」


「――」


「主人のことは助けられませんでした。それでも私は、アリシアだけは助けなければ、育てなければならなかった。里に戻ったところできっと、私は蔑まれるのだということはわかっていました。それでも、人族の街で暮らすよりは、アリシアにとってまだマシだと思ったんです」


「――」


「でも、蔑まれることだけに、留まらなかった。里に住むことすら許されなかったんです」


「――」


「それに断固として反対の声を上げてくれたのが昔から仲の良かったティナです。彼女はエルフ族の中でも沢山の精霊の声を聞くことができ、里でも一目置かれた存在でしたので、彼女の発言には影響力がありました。おかげで、数日間の衣食住には困りませんでした」


「――」


「でも、日に日にティナへの圧力も強くなるのが目に見えて……ティナにこれ以上迷惑をかけるわけにはいきませんでしたし、私もティナに寄りかかり続けるわけにもいきませんでした。だから里を出ることにしたのです。そして、オークに捕まり、命危ういところ、皆さんに助けられました。そんな、ティナがいてやっと里にいられる、という状況なので私達の暮らしの安寧が確保されるまで、きっとティナはこの里に残るつもりだと思います」


「なるほどね……でも、ダリアさん、さっきの長老の家でのアーサーの話聞いてただろ? アーサーの育った集落は、種族は関係ないんだ。何なら案内しようか? なぁ、アーサー」


「うん、僕も同じことを考えていたよ」


「そうですね、私も実は、そのことを考えておりました。ティナは、里に住めるように説得すると言ってくれていますが、いっそのことそちらに住まわせてもらった方がアリシアのためにはいいのではないかと思ってしまっています。私としては両親もこの里にいますので、この里に住めるのでしたらその方が安心といえば安心なのですが、アリシアへ向けられる視線を考えれば、きっとこの里からは出た方がいいのでしょうね……」


 悩める胸の内を聞き、アーサーもその胸を痛めていた。こういう想いをする人達をいなくする。それがアーサーの夢なのだ。自分の夢の実現に向けて、まずは目の前の親子を救うことをすべきだと決意する。


「その必要はないわ」


 いつの間にか家の入り口の木の扉が開いており、そこにはティナが息を切らせながらも、満面の笑みを携え立っていた。


「ダリア達の居住権と平等な待遇、勝ち取ったわよ」


 そのティナの言葉に、ダリアとアリシア、レオ達それぞれは顔を見合わせ、ティナの発した言葉の意味を頭の中で反芻する。


「そ、それって……?」


 ダリアがその言葉の意味をそのまま受け止めていいものなのかと不安そうにティナに確認する。ティナもそんなダリアに、安心を与えるために彼女に近づくと、ゆっくりとダリアの肩を抱き、もう一度言った。


「ダリアも、アリシアも、里に残っていいってさ。今まで冷たい対応していた人達も、長老達の目があったから仕方なくそんな対応だったみたい。だから、安心していいわよ」


 その言葉に、ダリアは漸く安堵すると、ティナを抱きしめ、そしてアリシアを抱き寄せる。ダリアの表情は、喜びと安堵から溢れる涙と笑顔に包まれていた。


 アーサーもその表情を見て、安心していた。レオ達もまた然りである。そしてティナは、アーサーを見つめ、こうも言ったのだった。


「あなたのおかげよ、アーサー。この里に変革の風を運んだのは間違いなくあなた。だからちゃんと、責任とってもらうからね」


 頰をほんのりと紅く染め可憐に笑うティナに、ユキの可愛さにも動じなかったアーサーが少しだけ照れたように見えた。そしてユキがその二人の様子を羨望の眼差しで見つめているように感じられ、レオはいらぬチョッカイを出す。


「短いヒロイン人生だったなダダダダダッ!」


 ユキの美しい指が、容赦なくレオの脇腹を捩じ切らんと襲いかかった。







ここまでお読みいただきありがとうございます。


まぁダリアが里にいられない理由は、察しがつかれる方も多いのではないかと思いましたが……まぁ……まぁ……(ぇ



ゆっくり進めて参りますので、ゆっくりお付き合いいただければ幸いですm(__)m

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『生きる喜びを教えてくれたのは異世界に転生した君でした』

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