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1 最後の日

 煌々と光が当たっている。

 これほど華々しく光が当たられた事が、あっただろうか。

 半円に並んだ黒く鈍い個体が、今か今かと待ち受けている。


 自分の気持ちを抑えきれず酔ったベテラン司会者の声と共に、赤い法被を着た親父が台に立った。


 赤い親父の振りかぶった棒に合わせ、ヒリついた汽笛の音が鳴る。


 次々と鳴る汽笛。

 指示により鳴らしている機関士は無表情だ。

 何の感慨もない。


 汽笛と共に笛が流れ出した。

 激しい音ではない。柔らかく寂しい音だ。

 その音を金管が支えて行く。

 汽笛が共に鳴き出した。

 管弦楽もまた鳴き出す。


 放射線状に伸びる線路の上に、

 ぞろぞろとそぞろ出る機関士達。

 なぜ俺たちはここにいるのだろう。

 なぜ蛍の光なぞ歌わねばならぬのだ。


 赤い法被の親父は興奮気味に振りかぶって棒を振っている。

 酔っている。皆、この雰囲気に酔っている。

 機関士以外は。



 ーーー茶番だ。



 テレビの画面を見ながら夫は言った。

 お互い、お猪口を持った手が止まっている。


 見なければ、とも思うが、あまりに関わりすぎて、見ない選択肢を選ぶ事が出来なかった。


 やがて拙い機関士達の合唱と共に時計の針が12時向かって進み始める。

 画面は時計だけになり、場面が変わった。



 ーーー馬鹿野郎め……



 画面の向こうでは花火が上がり、新しい社名、新しい時代の幕開けを喜ぶ人々が映った。



 ーーー………

 ーーーあぁ、分かっとる。



 お猪口に残った酒をぐびりと飲むと、炬燵の布団にどおっと横になる。



 ーーー………!

 ーーーうっせぇ。



 炬燵の上のものを片付けながら、嫁が炬燵から飛び出た臀部を蹴る。



 ーーーうっせぇ…



 縮こまった夫に、嫁はため息をついて下がっていった。

 やがて、重さのある掛け布団を芋虫の様に掛けられる。

 そして黙って炬燵に入った。

 すりすりと慰めの様に足を重ねる仕草に、重いため息をついた。





嫁に言葉がないのは、原作に沿っております。

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