最終話 滅びの時
「龍之介ーっ!!!」
要姫は必死に叫ぶ。
「見あたりませんね」
二人は今、幕府の通路を早足で歩いていた。
「ここの付近で別れたのですが……」
「そうですか。何処に居るんでしょうかね」
狭い通路を走って探す。
「! そういえば」
「どうしたんですか? 十馬さん」
「姫様、この近くに隠れ部屋はありますか?」
「あっ! 昔父に教えて貰った所なら……」
要姫は近くの扉を開いた。
「!?」
そこには、とても恐ろしい光景が広がっていた。
龍之介は体中ボロボロで、あちこちから機械のコードや部品が覗いていた。
右目は抉られ左腕は肘から下しかなかった。
それでも立ち上がろうとする龍之介を見て、要姫は気を失いかけた。
「要姫。ここに入ってきてしまったのか?」
「ちち、うえ……」
父の姿も恐ろしく醜かった。
あちこちから機械独特の音がして、まるでからくり人形みたいな有様だった。
「要姫、十馬。ここまできてしまったからには」
将軍の顔は醜く歪んだ。
「殺さない訳にはいかない」
「ちちうえ……?」
そのとき、将軍の姿がふと消えた。
「危ない!!!」
龍之介が叫んだあと、要姫の目に映ったのは自分を殺そうとする父の姿だった。
要姫が次に眼を開いたときには、目の前に見慣れた姿があった。
「十馬、さん?」
刀を握り、将軍とにらみ合う十馬は今までに見たこともない強さがあった。
「姫、龍之介の傍に行ってあげて下さい。そして、コレを」
十馬は腰にさしていた短刀を要姫に渡した。
「とどめは龍之介にさせてあげましょう」
「十馬……」
龍之介は腹這いになり、十馬を見上げた。
「龍之介、黙ってて悪かった。実は、僕も機械なんだ。
同じく奴に造られ、いつか裏切ろうと思っていた。そのとき、お前と姫に会ったんだ」
十馬は刀の向きを変え、将軍を吹っ飛ばす。
「同じ機械のお前なら、いつかは将軍の正体を暴くときが来ると思っていた」
笑みを浮かべ、刀を斜めに構える。
「それが今日だった……!」
将軍の攻撃を受け止め、後ろに後ずさりする。
その反動で腕の皮が破ける。
もしも常人が受けたら、二の腕が吹っ飛ぶだろう。
「後は頼むぞ、龍之介」
そう十馬は言うと、将軍の懐に自ら突進していった。
まるで、自分の命を捨てて君主を助けようとする侍のように−−
だが、十馬は将軍にはじき飛ばされ、窓の外へと落ちていった。
「ただの失敗作のくせに……」
将軍は言い捨てると刃こぼれした刀を捨て、新しい刀に手を掛けようとした。
だが、突っ込んできた龍之介に阻止された。
「き、貴様!?」
龍之介の短刀は見事に将軍の胸を貫いていた。
「たがが機械のくせに、私に反抗しようというのか!?」
「お前も機械だろうが、バーカ!!」
そういうとその短刀を抜き、頭に深く突き刺した。
「ぬおっっ!?」
「あばよ。−−将軍サマ」
ミシッという音と共に大広間の壁は崩れていった。
そして将軍の頭は割れ、ぼろぼろと床に落ちた。
龍之介はそれをじっと見つめる。
まるで、将軍の野望が今枯れ果てたみたいに……
そして、将軍の姿はなくなった。
要姫は涙を堪え、それを見つめた。
「早く逃げなきゃ!要姫!!」
「はい……」
要姫は龍之介の着物の袖にしっかりとしがみついた。
「どうした? 要姫」
要姫の方を向くと、小さく震えて泣いていた。
「龍之介が、死んでしまうかと思ったら……涙が」
そんな要姫をそっと撫でる。
「俺は機械だ。壊されない限り、俺は死なないよ」
龍之介の笑顔は何かを悟っているように思えた。
その時−
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「な、何の音!?」
「建物が崩れ落ちてきたみたいだな……」
龍之介は慌てることなく、崩れ始めた柱を見つめていた。
「龍之介! 姫!!」
窓を割って入ってきたのは、右胸に大きな穴があいている十馬だった。
「十馬!?」
「十馬さん!?」
「どうにか核は護られたからね。さ、早く逃げよう!」
目の前に落ちてくる破片を避けながら走って出口に向かう。
小さな一つの光の筋が見えたとき−
「上っ!!」
上を見上げた時には、もう既に柱は崩れ落ちてくる直前だった。
「姫」
要姫は呼ばれた方を向くと・・
「大好きだよ……」
そう言って掌にお別れの接吻をした。
「りゅ……」
「じゃあな。俺とはここでサヨナラだ。十馬、こいつを連れてどこか遠くへ逃げてくれ。コイツの身分ならどこでも入れるだろうからさ」
十馬は無言で要姫を抱きかかえると、走って出口へ駆けていった。
「りゅうのすけーーっ!!!」
泣き叫ぶ要姫の声が耳に残る。
ありがとな。今まで俺を傍に置いてくれて。
俺は惨めな機械だ。
何も出来ずに、ただ、ここで死んでいく。
俺はアンタの傍に居たかった。
まだ、伝えてなかったな……
要姫、
おれはアンタに惚れてしまったよ。
徳川家の城は、音を立てて崩れ去った。
あれから1年後。
「龍之介、父上、お久しぶりです」
要姫はここ一年で見違えるほど美しくなっていた。
「あれからもう1年ですね……。私や十馬は元気ですよ。あなた方は、いや」
要姫は空を仰ぎ、
「あなた方の魂はあの広い空の向こう側で見守ってくれてますか?」
要姫は笑った。
広い広い大空は、彼女の心を映し出すように澄み切っていた。
……おしまい。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!!
初めての投稿だったので、少しヘンテコな所もありますが・・
本当にありがとうございました。
心から感謝を捧げます。