第2部 本当の姿
龍之介は思いきって扉を開く。
鈍い音がして、重々しい扉はゆっくりと開いた。
そこに在ったのは−−
バラバラにされたおびただしい数の機械だった。
「っ!!」
機械の、虚ろで悲しげな眼が龍之介の方を向いている。
おもわず龍之介も後ずさりした。
(こんな数の機械は見たことはねぇ……)
機械達を踏まないように気を付けながら、ゆっくりと怪しげな物置の中を進む。
物好きの将軍様はこの奥に部屋を作ったのだ。
「まったく、変な将軍様に拾われたもんだな……ウチの親父は」
龍之介は小さくため息をついた。
「父上……」
要姫は自分の父、将軍 徳川樹海の前で正座をしていた。
「そう改まるではない。要姫」
「はい……」
そうは言ってもこの父の前ではくつろぐことなど出来るわけがない。
表向きはとても優しい将軍様なのだが、裏では幾人ものの侍をあの世に送ったかしれないほどの恐ろしい人物なのだ。
「要姫よ・・」
ビクッと震え、要姫はゆっくりと顔を上げる。
「ここまでやってくるのは珍しいな。何の用なのだ?」
「ええ。それが、また江戸の民達が父上の噂を……」
「またか……。何度言えば済むのだ」
将軍は拳を震わせた。
「我は確かに人殺しはしている! だから何なのだ!! ただ悪いチンピラ共を掃除してやっているだけなのにっ」
「落ち着いて下さい。父上」
要姫は将軍の拳の上に手を添える。
「私が居るではありませんか。たとえ、父上が皆から嫌われようと私は絶対に裏切りませぬ」
要姫は優しい笑みを浮かべる。
「私は父上の味方ですから」
将軍は要姫を見る。
「すまない。要姫……」
しばらく沈黙が続く。
「父上、龍之介が心配しております。そろそろ戻ります」
「ああ。すまなかった……」
要姫は一礼すると、部屋を去っていった。
「まだまだ続くのかよ……」
龍之介は狭く長い通路の真ん中付近にいた。
途中に何度も小部屋があり、その中には幾つもの機械が眠っていた。
その機械の中に、気のせいかやけに将軍に似た機械が何体もあった。
「どこまであるんだ?この道は」
そのとき、誰かにぶつかった。
「わっ!?」
「きゃっ!?」
お互いに顔を見比べる。
「要姫!!」
「龍之介!!」
一瞬の沈黙のあと、ふたりは笑い合った。
「姫、十馬が待っていますよ。帰りましょうか?」
「そうですね! 早くここを出ましょう」
一歩足を伸ばした時−
ガツンっ
「わ!?」
龍之介の足に何かが当たった。
「なんだコレ?」
よく見ようと体をかがめた時、うしろで要姫が震えていた。
「ど、どうしたんです? 姫」
「こ、この顔っ」
要姫は足下の機械を指さす。
「ち、父上の顔ですわ……」
「確かに」
改めて観察してみると、確かにこの顔は将軍そのものだった。
もしかしたら−−
「姫、すぐにお部屋へ戻って下さい」
龍之介の顔が真剣になったのを見て、要姫は少し怯える。
「で、でも……」
「戻って下さい!!」
要姫は怯えたように走り去っていった。
「すいません……姫」
龍之介は悟ってしまった。
将軍の、徳川樹海の本当の姿を。
将軍の本当の姿は機械だった・・!?
次回、幕府内で事件が!
ここまで読んで下さった皆様、心から感謝いたします。