第1部 事件の予感
仮想 江戸時代。
そこは、人間と機械が共生する、荒れた国だった。
−−とある小さな町の河原。
「まったく、なんでこの国の人々はこんな感じなんだ……?」
その男、銀龍之介はゴミの山を見て、ふとため息をついた。
龍之介は見た目チンピラのような男だが、こういうものに心を動かす、とても心優しい男である。
「ゴミはちゃんと分別してリサイクルしろよ、まったく……」
せっせとゴミをかき集める龍之介を見た人々はつい爆笑してしまうだろう。
町奉行の息子がこんな汚いゴミを集めているなんてね。
そう、龍之介は幕府のお偉い方の息子なのだ。
龍之介はふと後ろを振り向いた。
そこには、花のように綺麗な着物を身にまとった女の人が居た。
「龍之介。またここにいらしてたのですか?」
「ええ、要姫。ここはあまりにも大変な事になっているでしょう?」
徳川要。
俺が世話をしてやっていて、たま〜に遊んでやっていた。
苗字の通り、徳川家のひとりである。
「十馬さんに教えて貰ったのです。龍之介はここに居るって」
「十馬の野郎……簡単に教えやがって」
「何かおっしゃいましたか?龍之介さん」
ふと振り返ると、そこには結構な笑顔の十馬が立っていた。
「ぎゃあああ! 神出鬼没野郎!! なんでこんな所にっ」
柳十馬。
俺と同じく、要姫の世話係だ。
「誰が神出鬼没野郎ですか? 僕は教えてはいけなかったんでしょうか」
「もちろんだろ。要姫がまた勝手に……」
「私も片づけますわ」
「私も片づけますわって言い出し……っておい!」
要姫はすでにゴミ分別作業に取りかかっていた。
綺麗な着物は水浸しになる。
「だめですよ!服が汚れ……ってもう汚れてるし!!」
「要姫。僕も手伝いますよ」
「十馬まで……」
龍之介は仕方がなさそうにまた作業に取りかかった。
そしてふと要姫のほうを向く。
「ところでよ、要姫」
「なんでしょう?」
「お前の親父さん、良くない噂が流れているらしいな」
要姫は俯いた。
「ええ。父は実はニセモノだとか、機械なんじゃないか、とか言われ続けているのです」
小さな掌をぐっと握り締める。
「父は、そこまで悪い人じゃない。なのに、何故陰口を叩かれるのでしょう?」
「要姫……」
「私は、父のことを誇りだと思っています。だから、そのような事を言われると……」
龍之介は要姫の手を握り締めた。
「姫、あなたは悪くない。俺もあなたの、いえ 父上様の味方です」
「龍之介……ありがとうございます」
「あの、ちょっとお邪魔してよろしいでしょうか?」
十馬が話に入ってくる。
「ノックして入れ。あと、土足で入るな」
「そろそろお戻りになられた方がよろしいかと、姫様」
二人は顔を見合わせる。
「そうですね。龍之介、十馬。戻りましょう」
「あ、はい」
要姫は龍之介に笑顔を向けると、すっと立ち上がり、歩いていった。
「ホラ、龍之介さんも」
「あ、ああ」
十馬は要姫のあとに続いて歩いていった。
彼女は、要姫は結構苦しんでいるのではないか?
父をバカにされて、
変な噂まで流されて、
誇りに思っている父を、バカにされて笑顔でいれる訳がない。
俺が、護ってやらなくては。
俺が、要姫を助けてやらなくては……
龍之介は、ふと空を見上げた。
要姫は、今将軍である父に会いにいっている。
十馬は、要姫の部屋を片づけている。
龍之介は、要姫の帰りを待っていた。
「やけに遅いな……」
龍之介はふと呟いた。
確かに、今日は要姫はなかなか戻ってこない。
いつもなら数十分のうちに戻ってくるはずだ。
なのに、今日はとても遅かった。
「一度見に行ってみるか」
龍之介は一人呟き、将軍と要姫の居る城の中へと向かった。
昼間なのに、薄暗い廊下。
ほとんどの仕事を機械に任せているからだろう。
将軍は、自分の護衛に人間を必要とせず、機械を用いている。
だから変に思われているのだろう。
「ここか……」
龍之介はふと呟く。
そこには、化け物のように大きな門が立っていた。
次回、要姫に危機の予感!
龍之介は要姫の危機に気づけるのだろうか!?
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読んで下さった皆様、心から感謝します。