初めてしもべが出来ました
あの後、野薔薇が童貞の神の僕を連れてくるといって外に出ようとしたので慌てて俺は引き止めた。
「もしかして…女の子…だったり?」
「どんだけ飢えているのだ…まあ期待するといい、記念すべき僕1号なのだからな」
「どんな子なんだ?!」
期待で声がうわずる
「あー…確か部活動に入っていて、日焼けしていて、家事が得意。性格は温和」
これは…期待出来るッ!!
「で、いついらっしゃるんだ…?!」
「落ち着け、主従逆転しているぞ…まあ部活が終わってからだから夕方になるだろう」
〜夕方〜
「ご主人様じゃん♡」良い日焼け具合の女の子がやってきた。思わずニヤけてしまう。
「っておい、エロい目で見んなよ!」と女の子は身体を手で隠すようにする。
嗚呼、これが青春かッ!!!
ピンポーン♪
「ん…夢か」
俺は心地良い呼び鈴で目を覚ました。少し残念だがこれから正夢になると思うと心踊る。
「嗚呼、童貞の神に感謝…! これからは俺の甘酸っぱい青春物語の始まりだ…」
ドアを開けると綺麗な夕焼けの光が入ってくる。爽快な気分で俺は前を見た。
そこにはあのむかつく野郎と、もう一人”まるで相撲取りのような図体の野郎”が立っていた
「押忍!よろしくお願いしやす!」
そいつは元気良くあいさつをしてきた。
「…野薔薇」
「なんだ兄弟」
「兄弟って言うな。で、これはどういうことなんだ?」
「どういうこととは?」
「お前が嘘をついたことについてだよ?!」
「嘘などついていないぞ…?期待しておけといっただけだが」
「ぐっ…だがこりゃねえよ…」
「おい、僕に失礼だろう…おい、特技を見せてやれ」
「押忍! 腹太鼓をしやす!」
そして腹を絶妙にいい音で鳴らし出す。いや、無駄に上手くて逆に腹立つわ
「それに童貞の神の僕が女の子でも手を出せないからな。そこは私なりに配慮しておいた」
「いらないお世話だ!!」
こいつ、絶妙に俺を苛立たせてくれるのはなんなんだ…
「…で、家事については本当なのか?」
「押忍! 今から夕飯作りやす!」
家事は慣れてるから別に問題なかったのだが、居候されるだけというのもなんだか癪なので任せることにする。
「じゃあよろしく…もう疲れたわ…」
ソファにぐったりと座っているとある不安が俺の中に生まれる。
これあっちの世界(?)と味覚が違うパターンとかあるんじゃないか?もしくはあの図体だし、パワー系でなんか壊しちまうとか。今までの事を考えると普通にありそうで怖い
「押忍! 出来やした!」
予想に反して食欲をそそる匂いがしてくる。そういや今日は何も食ってなかったな
テーブルを見やるとそこには
大きな丼に山盛りにされた肉飯があった。
「これが…男飯!」
唾を思わず飲み込む。本能のままむしゃぶりついた。
「食いきれねえ…」
3分の2くらい食ったところで俺はギブアップした。
「大丈夫っす。儂が食いやす!」
驚いたことにこいつは野薔薇と俺が残した分もペロリと平らげた。どんな胃袋してんだこいつ…
ちなみに野薔薇は華奢な身体と同じく食も細いようだった。半分も食えてないなこれは。
しかしよく考えると食費馬鹿にならないぞこれ
「いつもこのくらい食べるのか…?」
「押忍!」
低コスト高パフォーマンスとはいかないらしい。
「で、寝場所はどうすんだ? ベッドは1台しか」
「私はベッドで寝る」「儂は床で」
…うん。後の奴は平和だ。ここで「いやあ申し訳ないな」「いやいやどうぞあなたの家なんだから」的譲り合いが起こるのが日本人だが、流石にそう簡単には行かない。だが予想通り。俺には返し技がある。
「童貞の神と一緒に寝たいのかお前は…?」
これにはあいつも引き下がるはz
「私は”薔薇”だぞ?」
俺は思わず後ずさりした。こいつ…バイか?いや、さっきみたいに童卒した相手は女とは言ってないオチか?どちらにせよなんかヤバい
「まあ冗談だがな」
「いや、お前は洒落にならん」
「薔薇で揺籠でも作って寝る」
「じゃあなんでベッドって言ってきたんだ…」
「兄弟なら諦めて引き下がると思ったんだがな」
「よし、表へ出ようか?」
クソ、舐めやがって。つうか色々あって忘れてたが
「その兄弟ってのやめろ」
「じゃあなんて呼べばいいんだ?」
「いや、俺にも織田力って名前があるんだが」
「織田力という名前だったのか…では力と呼ぼう」
「名前も知らない奴にあんな狼藉働けたわけ?」
いや、名前知っててもダメなんだがな
「もういいわ、寝るぞおやすみ」
「ああ」 「zzz…」
押忍野郎は既に寝たらしい。そういや名前聞いてなかったな…
俺は朝早くに目を覚ました。ボンヤリと横を見やると何故か野薔薇が横で寝ていた。
「うおっ!!」 反射的に仰け反る
「…マリ、ア様…蹴らないで下さい〜…」
…あっちの世界の闇を見た。そしてあの図々しい野薔薇が苦労していると思うと同情心が湧かないわけでもない
「…ん?なんか湿ってる…?」先を見やると野薔薇の口から涎が垂れていた。嗚呼、こいつのことを少しでも慮ろうとした俺が馬鹿だったようだ。これくらいでキレるんじゃないと思うかもしれんが、こいつだからな。
「起きろぉぉぉぉぉ!!!」
俺は叫びながらヤツにダイビングしてやった。