今日から神様見習い生活が始まるようだ
夏休みも終盤。意外にも暇だ…さて今日は何をしようか と遅い朝を迎えた俺 織田力(17)♂ はぼんやりとした頭で考えていたときだった
ピンポーン♪ と呼び鈴が俺の気分とは対照的に明るく鳴らされる
重い身体を引きずり、玄関を開けると郵便配達のおっちゃんがいた
なにやら重たい荷物を抱え、俺は家の中へ戻る。こんなもん頼んだ覚えねぇぞ、父さんかぁ…?とテキトーに考えながらその箱を開ける。いや、開けてしまった。今考えるとパンドラの箱だったんだろうか。中身を知っていたらゴミ捨て場に直行していた可能性が高い。
「おはよう兄弟」 …そこには男が座っていた
俺はそっと箱の蓋を閉じようとしたが妙な力強さで防がれ男は出てきてしまう
「初対面が拒否とはひどいなあ。これから仲良くしようってのに」
「いや、そりゃ見知らぬ人がいきなり家にあがりこんできたら拒否するっしょ。新手の犯罪計画か?とりあえず110番通報するんでお引取りを」
と俺は自然に受話器を握っていた
「まあ待て落ち着け…ってもう繋がってるじゃないか?!」と男は慌てたように言うと受話器を俺から奪い「あ〜すみません、子供のいたずらでして、はい、はいきちんと注意しますので、失礼します〜」と器用にもザ・母親声で応対しやがった。やっぱこいつ詐欺師か
「まあ落ち着いて話さないかい?」
「いや、そんな余地ないっすよ。ますます犯罪者疑惑増してますし?納得のいく自己紹介して下さいよ? 」
しかし俺には抵抗の手段がない。だってこの男鎌みたいな武器持ってるし? むしろなんで俺こんな冷静なんだろう
「いや、それは君が…まあいい、俺の名は野薔薇、職業はまあ…使い魔?」
ダメだ胡散臭さが増した。これは確実にアレな人だ。
ダッ(俺が玄関に駈け出す音)
ガッ (俺がむなしくも捕まる音)
「まあまあ落ち着けよ。確かに使い魔なんて言葉馴染みないだろうけどさ」
「…あんたなんか患ってるだろ絶対?! ホントカンベンして下さい、俺にはまだ輝かしい未来が…」
「君は本当に人の話を聞かないね?1度でいいから聞こう?」
誰のせいだと…と言いたいのをこらえ、仕方がなく聞く態勢に入る
「俺は薔薇の女神マリー様の僕、野薔薇。ちなみにマリー様とは…」
ダメだ、これ長いやつだ
「よ・う・て・ん!!」
「人間ってホントにせっかちなんだから…俺はマリー様に命じられて君の生活をサポートしなきた」
もうすでにツッコミ所が多くて我慢するのがつらい
「君が新たな神へとなる手伝いをしに…そう、罪深いが初々しさの象徴”童貞の”神へとね」
ダメだ、もう我慢ならない
「お引き取り下さい」
「いや、確かに男として不名誉かもしれんがね、神だよ神? 喜びたまえよ」
だれが喜ぶかボケ
「バカにするのもいい加減にしてくれません?…そもそも俺が神とか意味わかんねえし…」
「物分りのわるい…仕方ない、証拠を見せよう」
それ先にしろ!とツッコム前に驚くべきことが起こる
俺の髪の毛が薔薇になったのだ。いや、比喩ではなく
「どうだい?これが私の能力の一つ”トランス” 対象の体毛を薔薇に変える能力だ」
クソ、自分の体で起こっただけに、手品とは言い難い。そしてドヤ顔が絶妙に腹立つな…
「…何者なんすか? 能力はダサいけど」
「失敬な!…だから言ったろう?私は君が童貞を司る神になるためのサポートに来た、マリー様の使い魔野薔薇。ちなみにマリー様とは…」
「そこは聞いてませんから。…で、俺は人間なんですが?」
「…親交を深めてからまた改めてマリー様の話をしようか… で、君が人間でも神になれるのは…」
残念そうにすんな
「童貞の神に跡継ぎがいなくてな、で跡継ぎを探していたら君になったそうだ」
「いや、おかしいでしょ、それ?!」
「まあ神の考えていることなど到底及びもつかん。何か深いお考えがあるんだろうよ…」
いや、それ絶対気まぐれってやつだから。神なのに偉大感なさすぎんだろ童貞の神。ネーミングといい…
「で、断ることは出来るんですか?俺は嫌っすよ女の子といちゃいちゃしたいし」
「いや、不可能だ。断れば君はEDになる。」
「なんだよこの絶望…もう女の子といちゃいちゃする未来はないのかよ…」
「そう涙するなよ兄弟。女の子といちゃいちゃすることは出来る。行為に至れないだけだ」
「いや、なんだよその生き地獄!? クソ、こうなったらEDでも同じじゃねえか…」
俺はこの不運な運命に少しでも抗おうとするが…
「それは君の勝手だが、EDになったらどうやって自分を慰める?」
クソ…男子高校生にそれは…死活問題…だッ…
「それに神だからな…童貞の神の能力はよく知らんが、まあオカズには困らないんじゃないか?」
「なに?!…ってそういう問題じゃねえええええ!!」
静かな玄関に響く絶叫。虚しい…
「まあ、天使には可愛い娘いっぱいいるぞ?多分。彼女らと後継を作るチャンスが…いや、童貞の神だからないか」
「いや、それ欠陥だろ?! システム変えろよ?!!」
「世界の秩序のためには誰かのぎせ…いや、協力は必須なのだ」
今、犠牲っていいかけたよね?
「まあ些細なことは置いといて」
「大事なことなんだが?! 2度に限らず何度でも言ってやろうか? あ?」
「そう興奮するなって。で、なるってことでいいんだよね?」
「いやよくねえよ! お前こそ話を聞け!」
ダメだ…もう丁寧語使うのめんどくせえ
「じゃあ」「断る」 「ど」 「断る」 「う」 「断る」
「て」「断る」 「い」 「断る」 「おつ(笑)」
「表出ろやコラ!!!」
「ちなみに私は悲童貞」
テンポに乗せんな。つか表出ろやじゃなくて出すわ
俺はぐいぐい背中を押して玄関から野薔薇を追い出すと、ドアに鍵をかけた。
「今あったことは忘れよう。うん。さあ学校だ、って今日は夏休みだろ」
セルフツッコミで心を落ち着かせる。ああ、今の俺は河のせせらぎ…
「おい童貞!」ドンドン
ドアを叩く音がする。余裕なくしたのか口調が乱れてやがる。ざまあみろ。おっといけない、俺は海、いや川のせせらぎ…
「edになるぞ!」
川の…
「ご近所さんに童貞だって言いふらすぞ!」
不純異性交遊をしていない証だ。よいことよいこと
「ご近所さんにedだって言いふらすぞ!」
いや、edじゃねえから!まだ…
「童貞が許されるのは◯学生までだよねっ!」
「うるせえ!!」
ダメだ、近所迷惑にもほどがある
「やっと話を聞いてくれる気になったか…」
いや、説得したみたいに言うなよ
「実はな、ここだけの話…マリー様からお金を預かっているのだ」
ん?
「…額は?」
「耳を貸せ」
コショコショ…
「ほう…」
これだけあればかなり金の自由がきく。今更だが、両親が海外で仕事をしている都合、俺は一人暮らしだ。男子高校生に今の仕送りは正直足りない。
「いいだろう、入れ」
我ながら単純だが、edにさせられるよりはマシだ
「単純なやつだ…プライドってもんがないのか…」
「お前が言う?」
入ってきた野薔薇は鍵穴にどこから取り出してきたのか、薔薇を突っ込んだ
「おい、何してんだ」
「見ればわかるだろう、合鍵を作ってんだ」
平然といってのける野薔薇
「いや、それ家の主に言うかふつう?」
「いや、聞いてきたのはそっちだろう」
「そうだけど…ちなみにチェーンがかけられるんだが?」
「薔薇の棘で破壊すればいいだろう」
「…」
予想を超えた発言に言葉が出なかった。
徐々に諦めの感情が俺を襲う
「クソ、どうすればいいんだ俺は…」
「童貞の神になればいい」
俺は隣の不審者を睨みつけた
しかし、俺はある考えに到った。こんなクソな制度があるなら変えちまえばいい。神ってことはかなりの権力があるんだろ?簡単ではないかもしれんがとりあえずは金というメリットにしがみついて耐えるしかない。
「…わかった。受け入れるぜ。よろしくなマネー」
「…そこは野薔薇と言って欲しいのだが…まあとりあえずよろしく」
諦めたように装おっているが、絶対お前も欺いてやるぜ野薔薇…!
こうして俺の神様見習い生活が始まった