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幼馴染の異世界事情

蓮が語ったのは、まるで小説のような話だった。

曰く。

異世界であるマーリンダイトと言う世界に召喚?されたと言う事。

言葉も分からず、戸惑っている内に、着替えを渡され、ロールプレイングゲームで見た事があるような装備を渡され、あっと言う間に洋服をむしりとられ身なりを異世界仕様に整えられ気づいたら仲間らしき人4人と旅をするはめになっていたという。


言葉を覚えるのに、三ヶ月。細かい事情が自分で理解できるまでに一年かかったんだって。


最初は怖くて怖くて、毎日泣いて暮らしていたらしい。

一緒に旅していたっていうのが、マーリンダイトという世界の中の一つの国、セルアージュ王国の騎士やら、姫やら魔法使い?だったらしい。一人だけ傭兵稼業という男の人がいて、その人がさっき言っていたジークという蓮と大親友になった人なんだって。


言葉もわからないのに旅に出された挙句に、勇者のくせに軟弱だと毎日特訓という名のシゴキで、心の底から逃げ出したかったと言っていた。


少しずつ環境に馴れた頃、自分が勇者と呼ばれていて、魔王を倒すという旅に出ている事を知って本当に逃げ出したら、速攻で捕まってしまい、魔王を倒した後にこちらへの帰還方法を教えて貰えるという条件で腹をくくったと蓮は苦笑いを浮かべて悔しそうに言った。


お酒をグングン飲み干しながら、酔っ払った蓮は私の肩に頭を預けると、泣きながら『怖かった』と言った。


蓮は自分が同じ人としては、見てもらえなかったと、そして魔王を当たり前のように倒しすのだと言われて崇められ、帰りたいと言っても帰してもらえずに旅をさせられて、どんなに力を持たされたとしても、惨めだったと言った。『勇者なんてくそくらえだっ!』と。


当たり前だ。

なにが悲しくて、自分の生まれ育った国でもないところに問答無用で呼び出された挙句に、その国の人でどうにもならない敵を倒しに行かなきゃならないんだよ。ソコは他力本願じゃなくて、自分達でなんとかしろよって話だ。蓮は戦争を放棄した国で生まれた、まだ子供の中学生だった。親に保護されている年頃だよ。そんな子供にいい大人達がなに言っちゃってくれてるんだよ。さっき見てしまった体中の傷を思い出した。ここにいれば負うこともなかった傷。


私と聖司はあまりに荒唐無稽で、信じがたい蓮の話に怒り狂った。ぽつりぽつり話す蓮に気づかれないように、アイコンタクトで聖司と怒りを込めて黒く微笑みあう。絶対に許すもんか。私の可愛い可愛い蓮になにしてくれたんだよ。ファンタジーな話だからって許されると思うなよ??蓮がお人良しだから良かったものの私や聖司がその立場にいたら間違いなくなんだっけ?セルアージュだったけ?とにかくそこの国の王様くらいは足腰立たないくらいに痛めつけていたかもしれない。だって、魔王とかいうその国の人間が束になってもかなわないやつを倒せるくらいに蓮は強かったって事だもんね?王様一人くらいボコボコにできると思わない??六年も魔物相手に戦ってりゃ、王様一人くらい半死半生にしたっていいよね?自分に許しちゃえるよね?別に殺す訳じゃないしっ!


酔いも手伝って、蓮は次第にうとうとし始め、そのうち言葉も途切れ途切れになったなと思ったら私の膝を枕にして眠ってしまった。その子供みたいなあどけない寝顔につい頬が緩んでしまう。そっと頭を撫でながら、私の所に戻ってきた蓮をしばらく眺めた。体が大きすぎだけどね。ついでに随分男っぽくなりすぎだけどねっ!!


「で?お前はどう思う?」


琥珀色のウイスキーの入ったグラスを聖司がゆくりを回しながら聞いてきた。カランと涼やかな氷の音が静かになった部屋に響く。


「私は信じるよ。蓮は嘘をつかないし、見かけは変わったけど、話をしてみればちゃんと蓮だもん」


「だよなぁ。コイツの憎たらしい顔見たら、記憶が戻ってきたってのもポイントだよな?」


「聖司は薄情なんだよ。やっぱり忘れてたじゃん。私は憶えてたのにっ!!」


「薄情で結構。コイツの事なんか忘れてもなんの支障もございません」


しれっとそんな事をいう。


「でもなぁ。コイツの話を聞くと、許せないよなぁ?その世界のやつら」


「許せないねぇ?無理矢理誘拐した挙句に、こんなひ弱な子に戦えとか有り得なくない?」


「お前目が腐ってる。どこがひ弱だそのデカ物の」


「あの頃は十分ひ弱だったじゃない。見るからに薄幸の美少年だったし、転んだだけで折れそうなくらい華奢だったし。蓮は絶対に儚げな美しい美青年になる筈だったのにっ!!向こうの奴らが戦いだとかぬかしてこんなに筋肉マッチョに育てやがったんだよね?もうこれは許せる範囲超えてるよね?文化系の病弱な美青年が、細マッチョとはいえ、筋肉だらけの体育会系になっちゃうなんてっ!!!」


「お前さーーーーーーーー」


フゥゥゥゥとため息を吐いて、聖司がグラスに残っていたウィスキーを飲み干した。


「なによ」


なにか言いたそうにしてこちらを見る聖司を睨みつけた。


「お前の美少年至上主義は知ってる。変態チックなその趣味少しはオブラードに包んで隠すとかしとけよ。怒るトコそこじゃねーし。なんか蓮が気の毒になってきたぞ」


「蓮にはぜひとも、窓辺で憂鬱そうなちょっと影がある瞳で本をしっとりと読む病弱を絵に書いたような美少年になってもらう予定だったんだもん。こう、雪のように白くて細くて綺麗な手で肘をつきながら片手で本を気だるげにめくってため息なんかついちゃったらもう最高!!!そういう方向性で育ってもらうって決まってたのに!!」


「いや、決まってないから。コイツ昔から口悪かったし、見た目に反して活発だったし、そういうタマじゃなかっただろ。妄想も大概にしとけ。てか、人の話を聞け」


安心しきって眠る蓮の髪を丁寧に撫でる。まぁ、方向生は違うけど、逞しく育って帰って来れたんだからそれでいいけどさ。


「聞いてるよ。人権とその人の意志を無視するような国はロクなもんじゃないって事だよ。帰ってこれてよかった。明日からは聖司のトコで蓮の面倒みてやってね」


「おぉ・・・・・・・・・って、待て。なにさらっと俺に押し付けてんだよ」


あら聖司ったら、いつの間にかに賢くなっちゃって。素直に頷いておけばいいものを。


「いや、もう言質げんちはとった。明日になったら蓮を連れて帰ってね」


「お前が可愛く言っても無駄だ。断る。コイツ連れて帰ったらあこを呼べなくなるだろ」


「あこちゃんの家に聖司がいけばいいじゃん」


「お前、木下と別れたばっかりで寂しだろう?幸い訪ねてくる男もいなくなった事だし、丁度良かったじゃないか。寂しくないぞぉ」


コイツ地雷踏みやがったな。


「あんたさっきこんな時間に男を家にあげるとかすんなって言ったじゃん。蓮と二人暮らしなんて、もっとダメでしょうがっ!幼馴染のよしみで責任もって、持って帰れっ!!そして会う時間が少なくなってあこちゃんと別れてしまえっ!!」


「何故俺が、責任持たねばならんっ!蓮なら話は別だ。どーせお前に手を出す根性なんかねぇよ。だいたい、手ぇ出されたってお前全く問題ねぇだろ。美味しく頂いとけ。てか勝手に別れを決めてんじゃねぇ!」


「なにそれっ?!なんで私が頂く事になってるのよっ。ソコは頂かれておけが正しいトコ!」


「お前はどーしていつもそう斜め上に行くんだよっ!いつまでたっても話が終わんねぇだろ。お前超激肉食系だろうがっ!美味しく頂いとくで間違いないっ!」


こーのーやーろーーーーー。超激ってなんだ超激っって!!


「肉食系じゃありません。慎ましやかな草食系です。可憐なうさぎちゃんですぅ」


わざと可愛らしい高い声でそう言ってやる。


「だから、可愛い子ぶるんじゃねぇぇぇぇぇ。鳥肌たっただろ。ほら見ろっ!テメェが気持ち悪い声を出すからだっ!」


段だんヒートアップしてきた言い合いに、いつもの事だけど、腹が立ってきた。

さらに言い返そうと口を開こうとしたとき、シクシクと鬱陶しい泣き声が膝の上から聞こえてくる。


あれ?起こしちゃったか?


聖司も気づいて口をつぐんだ。


ガシッと腰を蓮に掴まれ、しがみつかれてしまった。


「僕は香蓮と一緒がいいっ!!香蓮に会う為に帰ってきたのにっ!!モノみたいに持って帰れなんてっ!香蓮のばかぁぁぁぁぁっ!!」


そしてまた泣く大男。蓮、だから、24歳の男が泣いても全く可愛くないからね。うん。

そして結局蓮は、私の家に居座る事になってしまったのだった。


読んで頂きありがとうございます。

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