お帰りなさい
ベットに片手をついて、聖司は痛みをこらえるように眉間にシワを寄せていた。
けれど、蓮が何かを呟いて左手で聖司の頭を撫でると、ふと聖司が息をついてトスンとベットに腰を下ろした。よかった、痛みが引いたみたいだと思ったら、ゆらりと無言で動いた。
「いたたたたたたたっ!!さとくん。聖司さま。放せっって、冗談だろっ痛いーーー」
何故か蓮にヘッドロックかけてる。
「てんめぇぇぇぇ!!俺に何しやがったっ!!どんだけ香蓮が心配したと思ってんだよ。てめぇの顔見た途端に全部飛んでた記憶が戻ってくるってどーゆー了見だよ」
「え?聖司、思い出したの?!」
「嬉しくない頭痛と一緒にな。おいっ蓮。なにをしたかキリキリ吐きやがれ」
ミシミシと音が聞こえてきそうなほど力をいれている。バンバンと蓮がベットを三回叩いたところで、聖司が蓮を開放した。
「ちょっと、さとくん。感動の再会と思いきやヘッドロックってどういうことさ」
首を擦りながら蓮は、聖司を睨みつけるけれど、聖司はどこ吹く風で、全く気にしているように見えない。
「五月蝿い。俺の頭痛の方が深刻だったわ。今まで何処にいってたかもアレだが、先にさっきのやっぱり二股ってなんの話だ?」
ピキーーーーーーンと空気が凍った。
ソコ、突っ込むの??色々すっとばしてソコ?
言ってもイイのかと伺うように見る蓮に首を振って答えると、改めて聖司を睨みつけた。
「聖司、知ってたんでしょ?どうして先に言ってくれなかったのよ。言ってくれてたら心構えが出来たのに」
「なんの事だよ。はっきり言え」
ほほぅ、シラをキリますか?ふぅぅぅぅん。あっそう。
「聖司と同期だけど、はるかに上にいってらっしゃるお方の話よ。結婚きまったんだって?」
「は?木下の事か?なに、お前やっとプロポーズされたのか。おめで・・・・・・・・」
ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
てめぇの上司で、私に紹介した本人が知らないとかどうなのよっ!!
聖司のふざけた台詞は最後まで言わせなかった。もちろん私が聞きたくなから両手で聖司の口を封じたから。
私はニッコリできるだで穏やかに微笑んでみせた。
「私じゃない誰かと結婚が決まったみたいよ?さっきここに来て、蓮見てニコヤカにお互い様だよなって帰ってったわよ」
サッと聖司の顔色が青くなる。彼は聖司と同期で入省した縁でプライベートで仲が良かった。いまだに聖司とよく遊ぶ私が彼を紹介されたのは自然な流れで、一緒に遊ぶうちに彼に告白されて付き合うことになったんだ。元はと言えば、聖司の友達。同じ職場にいて彼の結婚をしらないハズがないと私は思っていた。
「知らねぇよっ!!マジかっ?!え?お前が振られたの?」
「ちょっと人の傷えぐるの止めてくれない?!お前がって、やっぱりなんか知ってたでしょっ!」
「いや、上司の勧めで断れないお見合いがあったのは知ってるけど。まさかお前がいるのに受けるハズないだろって」
戸惑うように言う、聖司は嘘をついているようには見えない。
「私の事は条件のいい結婚相手が見つかるまでの繋ぎだったって言われたよ。・・・・・・・・私バカみたい」
好きなのに。例え会えなくてもお互いに忙しのは折り込み済で付き合っていたのだから、大丈夫なのだと思っていた。
連絡をあまり取らなくても、繋がっていると思っていたのは私だけだったのか。
「はぁぁぁぁ?アイツがそう言ったのか?」
「彼以外に誰がいうのよ。詳しくはこんな状況であまり聞いてないけど、私と別れたかったのは本当みたい。誤解とはいえ、蓮と私を見て攻められもしなかったもの。タイミング悪くて蓮が裸の時だったし。あっ、蓮これ聖司がもってきてくれた着替え。ついでにこっちがパンツ、今買ってきたの。向こうで着替えてきなよ。いくらんでもソレは酷いから」
さっき聖司が持ってきてくれた着替えのはいったバックを渡すと、蓮はおとなしく洗面所へ入って行く。蓮がいなくなった途端に今度は聖司がベッドに寝転んだ。
「そうか、お前がねぇ。アイツ見る目ねぇなぁ。仕方がないから、敵はとっておいてやるよ。香蓮を泣かせた奴には三倍返しだ」
「なにそれ、まだ言ってるの?子供じゃないんだから。いいよ、私も悪かったんだから。今はそれどころじゃないってのが正直な話だしね。さっき蓮が言ってたんだけど、異世界行って勇者になって魔王を倒したらしいよ?」
聖司は私の特別だ。子供の頃から一緒に育って、ライバルのような、兄弟のような、いつも一緒にいる親友。
私が泣かされると、三倍返しだと言って、弱いくくせに敵を取ろうといつもしてくれる頼もしい存在だ。
蓮がいなくなってから少しの間、友達に色々と蓮の事を聞いて回っていた私は、白い目で見られていた。
居ないはずの人物を探している私は、友達にしてみれば頭が可笑しくなったように見えたらしい。
その時も、影で色々と言われた私を、庇ってくれて信じてくれた。そして、いじめれた私を見て、三倍返しだと、頭を使って仕返しをしてくれていたらしい。
「香蓮、無理するのはやめとけ。泣きそうな顔してる」
聖司がそう言って、手を伸ばしてくる。
けれど、その手は私に届くことはなかった。
「聖司、その顔で香蓮に触るな」
着替え終わった蓮が、その手をつかんだから。
「あぁ?意味がわかんねーよ。っかムカつくなお前。昔は細いわ、ちっちぇわだったのに」
うわぁ、聖司のTシャツでも少しキツそう。筋肉で胸板熱くなってるから?
「向こうでお前の顔そっくりのジークってのが居たんだよ。ジークが香蓮に触ってるみたいだからお前触るな」
腹筋だけで聖司は起き上がり、蓮を睨みつける。
「俺そっくり?」
「おぅ、一緒に旅した仲間で親友だったけどな」
「うわぁ嫌だ。俺の顔してお前と親友?!ないないっ。てめぇなんかただの腐れ縁だバカ野郎」
サブイボたったわと自分の腕をさする、聖司。
あれ?蓮と聖司って仲が良かった記憶があるんだけど?
「俺だってお前なんか願い下げだ。だいたい俺の事を忘れるってあたりでアウトだお前。香蓮を見習えよ」
「俺的には弱っちいてめぇなんか忘れて清々してたわっ!あんな頭痛まで起こして思い出しくもないわっ!」」
あぁ、喧嘩が始まった。まるで小学生のような言い合いを始めてしまった二人は、内容とは裏腹にとても楽しいそうで、そういえば中学の頃もこんなだったっけと私は嬉しくなる。
外見は変わってしまったけれど、このキレのよいポンポン出てくる言葉達に私は無性に嬉しくなってしまった。
混乱はまだしているけれど、聞きたことも沢山あるけれど、取り敢えず今は蓮がここにいる。
聖司を見ていても蓮だという事は間違いないと思う。
目の前で突然消えてしまった、幼馴染にまた会えた。それが嬉しい。
「香蓮、なに笑ってるのさ。ちょっと聖司に言ってやって。俺は世界一強くて格好いいって」
「あぁ?お前頭沸いてるのか?ヘタレ全開のくせに。香蓮コイツに現実を教えてやれ」
言い合いをする二人に吹き出しながら、私はまだ言っていなかった事を思い出し、蓮に手を伸ばして大きな手を握った。暖かい体温が、ここにいる事を私に確認させてくれる。
「蓮、お帰り」
昔のようにへにゃりと蓮は笑って力強く私の手を握り返してくれた。
そう、心のソコからその時は「お帰り」と言えていた。
けれど、この後すぐに私は後悔をすることになる。
こいつが帰って来さえしなければ、私はあんな目にあう事はなかった。
全部が蓮のせいではないけれど、やっぱり半分以上は蓮のせいだと思う。
この後すぐに降りかかる災難の数々を考えると、蓮は私の疫病神だったのかもしれない。
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